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■ 第559回支部講演会
日時: 2015年6月26日(金)17:00〜18:30
場所: 北海道大学理学部5号館4階5-407
演者: 柳原  (沖縄科学技術大学院大学・臨界期の神経メカニズム研究ユニット)
演題: ソングバード大脳聴覚野における聴覚記憶の脳内表現:           
           社会的つながりに基づく学習の神経基盤の解明を目指して
 
  生後発達の初期に他個体から受ける社会的な刺激は認知機能の発達や学習に強い影響を与える。例えば、幼児が外国語を学ぶ際には大人が語りかける言葉を直接聴くことが重要であり、スピーカーから再生された同じ言葉を聴いても効率よく学習できないことが知られている。同様に、ソングバードの一種キンカチョウは、感覚学習期と呼ばれる時期に社会的な結びつきが形成された親鳥の発する歌を直接聴くことを通して歌を学ぶ。スピーカーから提示された同じ歌を受動的に聴くだけでは幼鳥は歌を正確に学習しないことから、この学習には社会的に結びついた個体の存在が重要と考えられる。本研究では、ソングバード幼鳥における聴覚記憶形成を支える神経メカニズムの解析を通して、社会的つながりに基づく学習の神経基盤を明らかにすることを目的とする。ソングバード幼鳥が感覚学習期に親鳥から聴いた歌は脳内に記憶として保存され、引き続く感覚運動学習期において幼鳥が自己の歌を修正する際の鋳型として参照されると考えられる。しかし、幼鳥の脳内において親鳥の歌に対して選択的に応答するニューロンの存在を明瞭に示した研究はない。本研究では、学習した親鳥の歌をコードするニューロンが幼鳥脳内で検出されるかどうか神経活動記録の手法により検討した。その結果、大脳高次聴覚野において親鳥の歌に対して高い応答選択性を示す一群のニューロンが存在することを見出した。この聴覚ニューロンの応答選択性は抑制性神経伝達の阻害によって低下する。このことから、学習に依存した抑制性神経回路の発達が聴覚ニューロンの応答選択性を形成するために必要であり、この選択的聴覚応答を獲得したニューロン群が幼鳥脳内で親鳥の歌記憶を表現すると考えられる。さらに、この高次聴覚野ニューロンの聴覚応答は睡眠・覚醒といった動物の行動状態や親鳥の存在の有無といった社会的文脈に依存して顕著に変化する。これは外界からの感覚刺激に対するニューロンの応答性が動物の内的状態に依存して変化することを示唆する。社会的に強く結びついた個体(親鳥)の存在が脳の内的状態(注意・覚醒・動機づけ等)をどのように変え、行動上意義のある感覚刺激(親鳥の歌)を選択的に学習可能にするのか?ソングバードを用いた社会的つながりに基づく学習の神経基盤を探る試みについて紹介したい。

連絡先:
和多 和宏 (北海道大学大学院理学研究院)
E-mail:  wada
@sci.hokudai.ac.jp
 電話: 011-706-4443
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