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■ 第562回支部講演会
日本動物学会北海道支部 第562回支部講演会

日時:2015年9月 25日(金曜日)17:30〜18:30
場所:北海道大学理学部5号館4階407号室
演者:木矢 剛智 博士 (金沢大学・理工研究域・自然システム学系・生物学コース 准教授)
演題:昆虫の生得的行動の神経基盤:活動依存的な神経回路可視化法の開発によるアプローチ

講演要旨
昆虫は様々な魅力的な本能行動を示すにも関わらず、その神経基盤については不明な点が多く残されている。その大きな原因として、昆虫全般に用いることができ、行動と神経回路の関係を明らかにする方法が、確立されていなかったことが挙げられる。我々は神経活動に伴って発現量が増加する遺伝子(初期応答遺伝子)を利用することにより、本能行動と神経回路の関係を明らかにする手法の開発を行ってきた。まず、性フェロモンで刺激したオスのカイコガの脳より、新規な初期応答遺伝子としてHr38を同定した。次に脳の連続切片を作成し、性フェロモンへの応答を示す神経細胞の脳内分布を詳細に明らかにした。これは昆虫の脳で、性フェロモンに応答する神経活動を包括的に明らかにした初めての例である。次にHr38は幅広い昆虫種で高度に保存された遺伝子であったことから、ショウジョウバエを用いて神経活動依存的な発現量増加が起こるかを調べ、ショウジョウバエにおいてもHr38は神経活動のマーカーとして有用であることを見出した。また断頭したメス(性フェロモン源)でオスのショウジョウバエを刺激した場合、触角葉・キノコ体・視葉などの様々な領域においてHr38が発現した。このHr38の発現は、触角や前足を介した化学感覚受容に依存することを触角や前足の除去といった外科的手法と嗅覚受容体変異個体を用いた遺伝学的手法によって確認した。またHr38を発現する細胞の一部は、神経系の性決定遺伝子であるfruitless陽性細胞でもあった。
現在、ショウジョウバエとカイコガの遺伝学的手法を駆使し、Hr38の転写活性を利用した活動依存的な神経細胞ラベリング法の確立を試みている。これまでに、Hr38の転写開始点付近にGAL4が挿入されたショウジョウバエ系統を作成し、活動の起こった神経細胞をGFPでラベル出来る手法を確立した。これを用いることで、性フェロモン情報の統合に関与すると考えられる脳領域を新規に明らかにした。また性フェロモンに反応した細胞をGFPで検出することの出来る遺伝子組換えカイコガの作製にも成功しており、性フェロモン情報を伝達する神経回路の機能解析に取り組んでいる。
本研究は昆虫で保存された初期応答遺伝子を同定した初めての例であり、Hr38を用いた神経活動の検出法は、今後、様々な昆虫が示す興味深い本能行動を研究する上で強力なツールになると期待される。

連絡先 和多和宏 (北大大学院 理学研究院 生物部門 wada@sci.hokudai.ac.jp)

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