■優秀発表賞
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藤森千加会員(優秀発表賞受賞)と荒井大会準備委員長
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■準備委員会
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準備委員長: 荒井克俊 準備事務局: 足立伸次、都木靖彰、東藤孝、井尻成保、浦和寛、 平松尚志、藤本貴史 学生スタッフ: 伊東優太、西宮攻、水田紘子、Luo Wenshu、 堀越萌李、高塚直
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■要旨集
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No.1(優秀発表賞選考対象者) 北海道古代集団におけるABCC11遺伝子の対立遺伝子頻度 ○佐藤丈寛(北大・理)、天野哲也(北大・総合博)、小野裕子(北大・総合博)、 石田肇(琉球大・医)、小寺春人(鶴見大・歯)、松村博文(札幌医大)、 米田穣(東大・新領域)、増田隆一(北大・理) ヒトの耳あかには乾型と湿型の2タイプがあり、それらの表現型はABCC11遺伝子上の単一塩基多型(SNP)によって決定される。一般的に北東アジア集団では乾型耳あかの頻度が高く、それ以外の地域の集団では湿型の頻度が高い傾向にある。そのため、乾型の対立遺伝子は北東アジアに起源をもつと考えられている。耳あかの表現型の頻度分布は集団により異なるため、古くから集団の特徴を示す人類遺伝学的指標として用いられてきた。本研究では、北海道の縄文・続縄文時代人とオホーツク文化人についてABCC11遺伝子を分析し、既報のアイヌをはじめとした現代集団の対立遺伝子頻度と比較して北海道の古代人の遺伝的特徴について考察した。
No.2(優秀発表賞選考対象者) ミトコンドリアDNAから見た北海道産クロテンの地理的変異ならびにニホンテンとの 遺伝的関係 ○井上友(北大・院理・自然史)、村上隆広(知床博物館)、 Alexei V. Abramov(ロシア科学アカデミー動物学研究所)、増田隆一(北大・院理・自然史) 北海道における在来種クロテンMartes zibellinaと外来種ニホンテンM. melampusの種内および種間の遺伝的変異を調べるため、ミトコンドリアDNAコントロール領域(5’側535〜537塩基)の分子系統解析を行った。まず、クロテンの北海道産とロシア産を比較したところ、両者間の遺伝的差異は小さく、比較的最近まで交流していたことが示唆された。一方、北海道産ニホンテンは在来の本州産に比べて遺伝的多様性が低く、北海道への移入の際の創始者効果がはたらいていると考えられた。さらに、両種は系統樹上で明確に異なるクラスターに分かれ、北海道内での交雑の形跡は見られなかった。
No.3(優秀発表賞選考対象者) マイクロサテライト遺伝子マーカーを用いたアナグマMeles spp.の集団構造解析 ○田島沙羅(北大・院理・自然史)、金子弥生(ヤマザキ動物看護短大)、 Alexei Abramov(ロシア科学アカデミー動物学研究所)、増田隆一(北大・院理) 日本を含む北ユーラシアに広く分布するアナグマMeles spp.は、形態および遺伝的特徴に基づき、複数の地理的系統に分けられる。本研究では両性遺伝するマイクロサテライト遺伝子を用いて、より詳細な集団構造を解析した。その結果、日本集団の独自性ならびに、ロシア西部を境界としたユーラシア大陸集団の地理的構造が示された。さらに、ミトコンドリアDNAでは検出できなかった、日本国内の地域集団間の変異が明らかになった。地域集団間の変異には、各地域におけるアナグマの生息域や行動圏の広さの違いといった、生態学的特徴が強く影響している可能性がある。
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No.3(優秀発表賞選考対象者) マイクロサテライト遺伝子マーカーを用いたアナグマMeles spp.の集団構造解析 ○田島沙羅(北大・院理・自然史)、金子弥生(ヤマザキ動物看護短大)、 Alexei Abramov(ロシア科学アカデミー動物学研究所)、増田隆一(北大・院理) 日本を含む北ユーラシアに広く分布するアナグマMeles spp.は、形態および遺伝的特徴に基づき、複数の地理的系統に分けられる。本研究では両性遺伝するマイクロサテライト遺伝子を用いて、より詳細な集団構造を解析した。その結果、日本集団の独自性ならびに、ロシア西部を境界としたユーラシア大陸集団の地理的構造が示された。さらに、ミトコンドリアDNAでは検出できなかった、日本国内の地域集団間の変異が明らかになった。地域集団間の変異には、各地域におけるアナグマの生息域や行動圏の広さの違いといった、生態学的特徴が強く影響している可能性がある。
No.4(優秀発表賞選考対象者) キタキツネ集団の地理的境界を探る:マイクロサテライト遺伝子による集団遺伝学的解析 ○大石琢也(北大・院理・自然史)、浦口宏二(道立衛生研)、高橋健一(道立衛生研)、 増田隆一(北大・院理・自然史) 本研究では詳細なキタキツネの集団構造を把握するために、北海道全域から採取したサンプルを用いてマイクロサテライト解析を行った。検出された対立遺伝子の集団遺伝的特徴に基づき、キタキツネを6つの分集団に分けることができた。分集団間の遺伝距離や分化度などを算出し、分集団の境界を検討したところ、道南地方の集団を除く5つの集団間の分化度は明瞭ではないが、道南地方の集団は比較的明確に遺伝的に分化していることが示唆された。これらの集団構造の成立について、植生・気候、地理的距離、キツネの生態学的特徴などの観点から考察する。
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No.5(優秀発表賞選考対象者) クマネズミ(Rattus rattus)のMc1r遺伝子の変異と毛色の多型の解析 ○神戸嘉一(北大環境科学院)、谷川力((株)イカリ消毒)、土屋公幸((株)応用生物)、 松本泰治(小樽検疫所)、Ken P. Aplin(オーストラリアCSIRO)、鈴木仁(北大環境科学院) 移入種として知られるクマネズミの毛色多型の遺伝的背景を調べるために毛色関連遺伝子Mc1r遺伝子(954bp)の塩基配列を一部核型分析個体も含め日本11地点72個体について調べた。その結果、2つのアレルグループに分けられ、核型変異に基づく「アジア型」と「オセアニア型」と対応していた。さらに毛色(黒色および野生型)判別個体19匹のうち、黒色個体は全て280番目の塩基にGからAへの変異があるオセアニア型アレルを少なくとも一つ持っていた。このG280A変異に依拠した多型は小樽、東京産個体でみつかっており、この変異はオセアニア型の移入状況把握のための有効なマーカーとなりうることが示唆された。
No.6 北海道で放流されたヒラメ人工種苗の遺伝的多様性 ○清水洋平、高畠信一、佐藤一(道栽水試)、西村勉、小林聡(道栽培公社瀬棚事業所)、 表谷光剛、渡邊郁夫、柳沢三朗(道栽培公社羽幌事業所) 北海道の日本海におけるヒラメ資源の増大を目的に1996年以来毎年220万尾の人工種苗が放流されているが、近年人工種苗放流による天然集団への遺伝的影響が危惧されている。そこで本道日本海の北・南に位置する種苗生産施設において、2006年及び2007年に生産された人工種苗と採卵用天然親魚を材料に、マイクロサテライトDNAマーカー(Takagi et al., 1999)を用いて遺伝的多様性の評価を行った。その結果,人工種苗の平均アリル数は13.3〜25.8であり,天然集団(38.8〜41.0)に比べ減少していたが,平均ヘテロ接合体率は0.867〜0.899と天然集団(0.863〜0.889)同様に高い値を示した。従って、人工種苗の遺伝的多様性は保持されていると考えられた。
No.7(優秀発表賞選考対象者) マウス発生におけるプロリルオリゴペプチダーゼの発現とエピジェネティックな発現調節 ○松原伸(北大・院生命科学)、木村 敦(北大・院理・生命理学) プロリルオリゴペプチダーゼ(POP)はプロリン残基の後ろでペプチド鎖を切断するセリンプロテアーゼである。昨年度は、マウスの卵巣と胎盤での高い発現がDNAメチル化パターンと相関することを報告した。今年度は、妊娠期間中のマウス胚におけるPOP mRNAの発現を解析したところ、発生初期の胚盤胞で最も高い発現を示す事が明らかになった。この胚盤胞での高い発現は、遺伝子内部のCpGアイランドにおけるDNAメチル化パターンと相関を示したため、in vitroのレポーター解析によってその機能的意義を検討した。その結果、このCpGアイランドのDNAメチル化が転写調節に関わっている可能性が示唆された。
No.8 ケモカインSDF-1によるツメガエル原腸陥入期の中胚葉細胞運動制御 ○福井彰雅 (北大・院・生命理学) 両生類の原腸陥入においては,中内胚葉が中軸中胚葉に先立ち陥入運動を始め,動物極側へ向かって移動することがよく知られている。この時,中内胚葉細胞は動物極側へ仮足を伸ばした単極性の細胞形態をとることが知られており,中内胚葉細胞を動物極側へ導く因子の存在が予想される。ケモカインは濃度依存的に細胞の運動を司る因子であり,これまでに様々な分子が報告されている。ここでは,ケモカインの一種であるSDF-1の情報伝達系が原腸陥入期に機能している可能性について報告したい。
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No.9(優秀発表賞選考対象者) マウスTESSPクラスターの精巣における特異的発現とその調節 ○米田竜馬(北大・院生命科学)、高橋孝行(北大・院先端生命)、 木村敦(北大・院理・生命理学) Testis Specific Serine Protease (TESSP)はマウスの精巣にのみ発現しているセリンプロテアーゼでこれまでに4種類同定されており、このうちTESSP-2、-3、-4は9番染色体上でクラスターを形成している。本研究ではまずTESSP mRNAの発現パターンを詳細に解析した。その結果TESSP-2、-3、-4はいずれもほぼ精巣特異的に発現しており、その発現は生後14日齢からみられることがわかった。次に精巣における分布を調べたところ3つのTESSPの発現はいずれも細精管ステージ\からⅫの精母細胞に限られていた。さらにTESSP-2、-3、-4には発現量の差があることがわかり、プロモーター活性との関連を調べるためにレポーター解析を行った。
No.10(優秀発表賞選考対象者) メダカの排卵とプロスタグランジン ○藤森千加(北大・院・生命科学)、萩原茜(北大・理・生物科学)、荻原克益(北大・院理)、 高橋孝行(北大・院先端生命) 排卵は卵巣から卵が放出される現象のことであり、これには黄体形成ホルモン(LH)が関与している。哺乳類ではプロスタグランジン(PG)はLHの刺激を受けて産生される排卵誘導作用を持つ因子であることが知られている。そこで排卵酵素の同定されているメダカでPGが排卵に関与しているかどうか調べたところ、PG合成阻害剤の添加により排卵は阻害され、PGE2の同時添加によって排卵は回復した。このことからメダカにおいてもPGE2が排卵に関与していると考えられる。そこで、PG合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)と、PGE2受容体(EP)について調査した。今回はメダカで最も高く発現していた合成酵素COX-2と受容体EP4bに着目して解析を行ったのでその結果を報告する。
No.11(優秀発表賞選考対象者) 卵細胞質内精子注入法(ICSI法)を用いたメダカ顕微授精技術の確立 ○大谷哲、岩井俊治、中畑新吾、酒井千春、山下正兼(北大・先端生命科学研究院) ICSI法は遺伝資源の再生技術として注目されているのみならず、受精機構の解明等の研究用ツールとしても大きな可能性を有する。メダカ卵は厚くて硬い卵膜と、1つの精子のみを侵入させる卵門を持つ。また、卵黄球が癒合して1つの大きな隗となっているために精子注入位置が限定される。これらの特徴がICSIの難易度を高める要因であった。我々は哺乳類用に開発された技法をメダカ卵に応用し、効率の良い魚類ICSI技術を開発した。メダカでICSIの効率を上昇させるためには、空間的、時間的に自然受精の状態を模倣する必要があった。ICSI 法の確立により、運動性の低い精子や卵門を通過できない精子による受精が可能となった。
No.12 魚類精子の多様性 ―呼吸とROS消去系― ○春見達郎(旭川医大・解剖)、宍戸直美、中村正雄(旭川医大・化学)、 林要喜知(旭川医大・生命科学)、柳町隆造(ハワイ大・生物発生研)、 松原孝博(北水研・資源培養)、安藤忠(北水研・厚岸栽培技術開発センター) これまで、海産魚種3種(クロガレイ、ニシン、マツカワ)の精子の運動性や呼吸代謝の比較を行ってきた。クロガレイ精子を海水に懸濁すると1分ほど活発に遊泳するが呼吸活性がほとんど無い。ニシン精子は海水中ではほとんど遊泳しないが高い呼吸活性を保つ。マツカワ精子は呼吸活性が高く活発に5分以上遊泳する。細胞が呼吸する際、有害な活性酸素種(ROS)が発生するため、細胞内にはROS消去系が存在する。過酸化水素の分解を指標として各魚種精子を比較した結果、ニシンやマツカワなど多くの魚種の精子にはカタラーゼ由来と考えられる強い過酸化水素分解酵素活性が存在したが、クロガレイ精子にはその分解活性はほとんど認められなかった。
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No.13 魚類における異化活性の高温適応 ○安藤 忠(水研センター・北水研) 環境温度の上昇が魚類の異化活性に与える影響を明らかにするために、冷水性魚類のマツカワ(カレイ科)における絶食条件下での体重の変化を測定した。その結果、いずれの温度区(17.0、20.0、22.0、23.5、25.0度)でも有意に減少したが、各温度区間では減少率に有意差が認められなかった。次に、給餌条件下で各温度区における呼吸量を測定したところ、飼育日数の経過と共に高温側(23.5および25.0度)で有意に減少した。さらに、絶食条件下では、呼吸量はいずれの温度区でも給餌条件下と比較して有意に減少したが、各温度区間で呼吸量に有意差が認められなかった。これらのことは、マツカワが高温下で異化活性を調節できる能力を有することを示唆している。
No.14 鳥類および爬虫類の卵におけるビタミンAの貯蔵様態 ○入江俊明(函館高専)、杉本たみ子(潟nイテック)、植木伸雄(潟nイテック)、 関隆晴(大阪教育大) ビタミンA(VA)誘導体は、視物質および核内受容体として重要な機能を担っている。脊椎動物の成体では、VAはレチニルエステルとして肝臓の星細胞に貯蔵されている。しかし、卵におけるVAの貯蔵様態は成体とは全く異なる。卵生脊椎動物のうち無羊膜類(魚類・両生類)の卵では、VAはレチナール(アルデヒド型)として、卵黄タンパク質に結合した状態で貯蔵されることを既に明らかにした。一方、羊膜類(爬虫類・鳥類)の卵を調べたところ、爬虫類では無羊膜類と同様だが、鳥類ではレチナールとともにレチノール(アルコール型)としても貯蔵されていた。これらの結果とともに、脊椎動物の進化とVA貯蔵様態の関連について考察する。
No.15 カキ貝柱筋の生化学的性質と筋収縮のCa制御機構 ○矢沢洋一、浅川哲弥、大野竜徳(北海道教育大学旭川校) 我々は貝類の貝柱筋と牽引筋の生化学的性質と筋肉のCa制御機構を検討してきたが、そのCa制御機構は以下の2種類のタイプに分類されることを明らかにした。 1.ミオシン側制御タイプ 2.ミオシン側とアクチン側の2重制御タイプ 今回は、1のミオシン側制御タイプに分類されるカキの貝柱筋(斜紋筋と平滑筋)の諸性質を報告すると同時に、2のミオシン側とアクチン側の2重制御タイプに属するホタテやホッキの結果と比較検討する。
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No.16(優秀発表賞選考対象者) キンギョの鱗形成細胞培養系の確立とその性状解析 ○赤路佐希子、飯村九林、清水宗敬、浦和寛、都木靖彰(北大院水) 鱗の再生は、Runx2などの骨芽細胞分化因子を発現する鱗形成細胞の分化、石灰化しうる鱗基質 (骨質層) の合成とその後の石灰化、コラーゲンが規則的に並ぶ繊維層板の形成の順に進行する。これら複雑な生命現象を詳細に理解するためには、鱗由来の細胞培養系を用いた分子生物学的解析が極めて有効である。そこで初代培養法を検討した結果、鱗を半切して上皮組織の付着していない前半部を培養器底面に接着させることで、初代細胞を得ることができた。続いて性状解析をおこなった結果、鱗形成細胞の性質をある程度保持していること、石灰化誘導能を有することが示された。以上から、鱗形成細胞の性質を保持した細胞の培養系が確立できたものと考えた。
No.17(優秀発表賞選考対象者) キンギョの鱗の線維層板を構成する非コラーゲン性タンパク質の性状解析 ○小松典彦、小川展弘、浦和寛、都木靖彰 (北大院水) 硬骨魚類の鱗には、規則配列したコラーゲン線維が複数直交する角膜と極似した構造を持つ線維層板が存在する。我々は鱗から物理的に線維層板を採取する方法を開発し、そこからコラーゲン線維の配列を制御する有機物を探索している。本研究では、線維層板の非コラーゲン性タンパク質 (NCP) をコラーゲンとともに酢酸で抽出し、その性状を解析した。その結果、線維層板を構成するNCPは、コラーゲンの三重らせん構造を認識して結合するもの、コラーゲンα鎖に結合するもの、コラーゲンと結合が弱いもの、の3種に分類できることが示された。現在、酢酸抽出物を2D-PAGEに供し、質量分析法によりNCPの同定を進めている。
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