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 平成22年
 

(社)日本動物学会北海道支部  第56回大会

大会案内
北海道支部第56回大会 事務局・春見達郎会員。



スケジュール


要旨
0930 ホッキ貝柱筋と牽引筋アクトミオシンMg-ATPase活性のCa制御とトロポミオシンの役割

矢沢洋一 (旭教大、東大・三崎臨海)

 貝柱の筋収縮のCa制御は原則的には(1)ミオシン中の軽鎖(LC)のみで行われているもの(貝柱筋不透明部)と、(2−@)ミオシン側の軽鎖が、筋収縮制御のほとんどを担っているが、アクチンに結合したTNI様タンパク質が、一定Ca2+及び条件下での収縮制御に関与しているもの及び、(2−A)主としてミオシン側のCa制御機構は存在しているが、低Ca濃度下では、アクチンに結合したTMのアイソフォーム型(TM2)がミオシンMg-ATPase活性の制御を変化させる役割を持つこと及びTM2は季節により(海水温度変化により?)生産されてくると結論された。筋収縮に及ぼすこのTM2の生化学的及び生理的役割については初の報告である。



 
0945 mtDNAを用いた北海道産ユキウサギの系統的位置づけと遺伝的集団構造の解析
 
○木下豪太(北大・環境科学院)、布目三夫(名大院・生命農学研究科)、平川浩文(森林総研)、鈴木仁(北大・環境科学院)

北海道産ユキウサギは形態的特徴によりユキウサギLepus timidusの固有亜種L. t. ainuに分類される。しかし、これまで遺伝子情報に基づく系統的位置づけは十分にされておらず、北海道内での遺伝的集団構造も調べられていなかった。そこで本研究では北海道とサハリンで収集したユキウサギの糞を材料に、mtDNAの解析を行った。その結果、サハリンにはヨーロッパやシベリアなどの大陸集団に近縁な系統が分布するが、北海道産ユキウサギは比較的古い時代に独立した単系統集団であることが判明した。さらに、北海道の系統は大きく2つのクレードに分けられ、それらは北海道内での分断化によって生じた可能性が示唆された。


 
1000 クロテンの毛色関連遺伝子Mc1rの地理的変異と歴史的背景
 
○石田浩太朗(北大・環境科学院)、細田徹治(耐久高校)、佐藤淳(福山大学)、杉本太郎(北大・環境科学院)、三好和貴(北大・環境科学院)、鈴木仁(北大・環境科学院) 
 
北ユーラシアに広く分布するクロテン Martes zibellina には冬毛の色に多型があることが知られている。本研究ではクロテンの色多型の原因を調べるために北海道・ロシアの個体群について毛色関連遺伝子Mc1r(828bp)の塩基配列を決定した。その結果アレルは大きく2つのグループに分けられ、その1つは北海道に特有であり、もう1つはロシアと北海道で共有されていることがわかった。このような地理的構造を持つ原因として(1)異なる環境条件による毛色の選択(2)大陸から北海道への複数回の移入と考えて考察する。


 
1015 ハツカネズミMus musculus亜種間の毛色関連遺伝子Mc1r周辺領域における遺伝的多様性の比較
 
○児玉紗也香(北大・環境科学院) 、布目三夫(名大院・生命農)、森脇和郎(理研・バイオリソース)、鈴木仁(北大・環境科学院)
 
ハツカネズミの3つの亜種集団、DOM (西欧)、CAS (インド・東南アジア)、MUS (ユーラシア北部、日本・韓国)について、毛色関連遺伝子Mc1rとその周辺200 kb領域の7遺伝子座の塩基多様度(π)を調べた。その結果、MUSの韓国・日本集団は領域全体で、ユーラシア北部集団は片側領域のみで低いπの値を示した。またDOMとCASではMc1rにおいてのみ顕著に低いπの値を示した。その要因として、各亜種独自の進化史や自然選択、あるいはその両方の影響が考えられた。今後、ハツカネズミの自然史が十分に理解されていくことで、本種は野生集団における自然選択の影響について重要な知見を与えるものと思われる。



 1030 コオロギ気流誘導性歩行における体軸角度制御と神経節間連絡
 
大江桃子(北大・院生命科学・生命システム)、○小川宏人(北大・院理・生物科学,JST・さきがけ)
 
コオロギは気流刺激を受けると、刺激源からほぼ180°遠ざかる方向への素早い歩行運動を行う(Kanou et al.,1999)。しかしこの運動時に、水平方向のターンによって変化する体軸角度がどのように制御されているのかは不明であった。そこで本研究では、トラックボールシステムを用いた高時間分解能の歩行運動計測装置を開発し、体軸角度変化に関する詳細な解析を行った。さらに、各神経節間を連絡する腹部縦連合を部分的に切断し、気流誘導性歩行運動時の体軸角度制御に与える影響を調べた。その結果、気流刺激角度に応じた体軸角度制御には頭部-胸部間の神経連絡が必須であることがわかった。


 
1100 競争採餌は「近さ」を優先した選択を亢進する
 
○網田英敏(北大・生命科学院、学術振興会)、松島俊也(北大・理学研究院)
 
「近くて小さい餌」と「遠くて大きい餌」の二者択一において、動物は「近さ」と「量」のトレードオフに直面する。「量」と「近さ」のどちらを優先するかはどう決まるのか。これまでに、競争採餌を経験したヒヨコは単独採餌に比べて、「大きい餌」よりも「近い餌」を優先した。競争による実際の餌の損失を伴わなくても、他個体が採餌しているのを知覚するだけで十分だった。競争は同一個体内において「近さ」(ないし「量」)の重みづけを変えるのか。「量」も「近さ」も等しく、競争の有無だけが異なる餌の選択において、競争の効果は見出せなかった。競争は選択肢間の「近さ」の差(ないし「量」の差)の重みづけを変えることを示唆する。


 
1115 競争的他者の知覚は労働投資量の増大をもたらす
 
○小倉有紀子(北大・生命科学院)、松島俊也(北大・理学研究院)
 
競争的他者が衝動的選択を高める例が知られる(Amita et al., 2010)。本研究では競争が労働投資量決定に及ぼす影響を調べた。1羽ないしは2羽のヒヨコをI字迷路装置に入れ、両端に設けた餌場から給餌した。2羽のヒヨコは1羽の場合に比べて餌場間を往復する運動(シャトル)が多く、約8分間の走行距離は1羽の平均が123.7±6.8m (mean±SEM, n=10)であったのに対して2羽では156.7±6.8m (n=10)であった。また、2羽のヒヨコを透明な仕切りで分断し、餌を同数だけ与えても、シャトル数は増えた(平均走行距離173.7±4.8m, n=12)。労働投資量の増大は他者を視覚的に知覚することによって生じた。利益得失を経験することによってではない。



1130 キンカチョウの囀り行動頻度による囀り発達の影響
 
○大串恵理(北大・生命科学院)、和多和宏(北大・理学研究院)
 
鳴禽類キンカチョウは学習臨界期中に発声を繰り返すことで囀りを形成する。このキンカチョウの囀り学習を行動の生成頻度から着目すると、成鳥では一日中低い頻度で囀る(約2回/分)が、学習臨界期中の幼鳥では一日の中で散発的に高い頻度で囀る(約5回/分)ことが分かった。ここから学習臨界期中に囀りを高い頻度で起こすという特徴が囀りの発達に影響を与えていると推測された。次に高頻度で囀りが行われる時期の日内における囀り発達を調べた。その結果、一日の囀り発達は朝の数時間の囀りが影響を与えていた。一日の始めに高頻度の囀りを起こすこと、すなわち囀る時間と頻度の両方が囀りの発達に重要であることが、これにより示唆された。



1145 新規音声時系列構造の開発 
 
○今井礼夢 (北大・生命科学院, JSPS)、和多和宏(北大・理学研究院)
 
ソングバードは鳥類のうち約3000種を占め、それぞれ種特異的な発声パターンをもつ。本研究では様々な発声パターンを抽出・分離・解析するため、新規音声時系列構造解析法、Syllable Similarity Matrix (SSM)法を開発した。この方法はこれまでの音声解析法では不可欠であった音素の符号化を必要としない。そのため、音素の符号化が困難な動物種や、発声パターンの固定化がなされていない幼鳥でも発声行動パターン抽出が可能となった。このSSM法を用いることで、個体発達に伴う発声パターンの変化や、遺伝子発現操作による発声パターンへの影響を検出することができる。


 
1400 囀り行動によって発現誘導されるエピジェネティクス関連遺伝子群の学習臨界期中の発現変化
 
○小林雅比古(北大・生命科学院)、和多和宏(北大・理学研究院)
 
鳴禽類ソングバードの囀り学習にはヒトの言語獲得同様、学習臨界期とよばれる学習に最も適した期間が存在する。この期間に行われる感覚運動学習によって、発声パターンが獲得される。本研究では囀り行動によって脳内で発現誘導されるエピジェネティクス関連遺伝子ヒストンH3.3B、Gadd45bに着目し、学習臨界期中におけるこれらの遺伝子の発現変化を検証した。その結果、これらの遺伝子は学習臨界期中の個体発達に伴い発現量が減少し、囀り行動によって遺伝子発現が誘導されることが明らかになった。このことからヒストンH3.3B、Gadd45bの担うエピジェネティクス動態が学習臨界期間で発現変化がみられる他の遺伝子群の発現制御に関わっていることが示唆される。



1415 音声発声学習における聴覚入力阻害による行動発達への影響
 
○森千紘(北大・生命科学院)、和多和宏(北大・理学研究院)
 
音声発声学習は発声と聴覚入力を協調させる感覚運動学習により成立する。鳴禽類は学習臨界期の終わりに発声パターンを固定化する。発声パターン固定化に聴覚入力がいかに関与するのか、聴覚入力阻害を行い検証した。その結果、聴覚入力阻害個体の発声パターン固定化時期が通常より約2倍遅延した。聴覚入力が発声パターン固定化の制御に関与していることを意味する。これを踏まえ学習臨界期中に発現制御を受ける遺伝子群に着目し、聴覚入力阻害の脳内発現への影響を調べた。これらの遺伝子群は聴覚入力阻害により正常と異なる発現パターンを示し、聴覚を介した発声パターン固定化を誘導する神経回路可塑性変化に関与していることが示唆された。



1430 刻印付けはニワトリ初生雛の生得的なBM選好性を誘導する
 
○三浦桃子(北大・生命科学院)、松島俊也(北大院・理学研究院)
 
バイオロジカルモーション(生物的運動・BM)とは、主要な関節を光点に置き換えた動画からヒトが運動の種類・性別・感情など多くの事柄を認識できるという現象である。BMの認知は生物的に重要な現象と推測できるが、ヒト以外の動物でBMの弁別を明確に示した報告は少ない。ニワトリ初生雛は生得的にBMを選好することが報告されているが、この選好の度合いは非常に弱く、有意差を検出するためには多数の個体を必要としていた。今回ヒヨコをあらかじめポイントライトアニメーションに晒すと、ヒヨコが生得的に持つBM選好性が増強されることを発見した。また増強された状態では、ヒヨコはネコのBMよりもニワトリのBMを選好した。



1445 食性分化の行動的背景を探る:シジュウカラ科3種のリスク感受性比較
 
○川森 愛 (北大・生命科学院,日本学術振興会)、松島俊也(北大・理学研究院)
 
シジュウカラ科の鳥は近縁種同士が同所的に生息し,冬季には混群を形成する。ヤマガラ,ハシブトガラは種子(低リスクの餌)食性が強いのに対し,シジュウカラは昆虫(高リスクの餌)食性が強く,食性分化が起こっている。この食性分化の行動的背景を調べるため,リスク感受性を調べた確実に得られる1個の餌と,確率p=1/3で得られる3個の餌の2者択一選択を行なわせた。収量の期待値はどちらも等しいが,後者にはリスクが伴なう。結果,シジュウカラではリスク志向,ヤマガラではリスク回避の傾向がみられ,ハシブトガラは中間的傾向がみられた・この結果は異なるリスク感受性の進化が同所性近縁種の食性分化を促した可能性を示唆する。



1500 排卵を制御する因子プロスタグランジンの研究:プロスタグランジン受容体の発現機構
 
○萩原 茜、藤森千加、荻原克益、高橋孝行(北大・生命科学院)
 
炎症反応に関わることが明らかになっている生理活性物質プロスタグランジン(PG)が、哺乳類の排卵にも関与するという考えが、今から約40年前に提唱された。その後、PGが脊椎動物全般の排卵に重要であるという共通認識が生まれてきた。しかし、その作用機序については未解明の点が多い。当研究室では、プロスタグランジンE2 (PGE2)がメダカ排卵に関与すること、さらにPGE2作用の発揮には受容体EP4bが関わることを明らかにした。そこで、今回は、EP4b受容体の発現機構の解明を目的に、細胞内情報伝達系について検討した。EP4b受容体の発現誘導にゴナドトロピン、cAMP産生、プロテインキナーゼ、ステロイド合成等が如何に関わるかについて得られた知見を報告する。



1530 ワニのコルチコイド受容体遺伝子の単離と機能解析
 
○岡 香織(北大・生命科学院)、勝 義直(北大・理学研究院)
 
コルチコイド受容体(CR)はストレス応答など多くの生理作用に関わるリガンド依存的転写因子である。そのリガンドとなる糖質コルチコイドが魚類や爬虫類にみられる温度依存的性決定(TSD)に関与しているという知見がある一方、これまで爬虫類のCRに関する報告はなかった。本研究では、TSDの生物種であるワニからCR遺伝子を単離し、機能解析を行った。レポーター遺伝子アッセイによりリガンド特異性、濃度依存性を解析した結果、ワニCRは他種生物同様、コルチコイド濃度依存的に転写活性化した。これは爬虫類CRの単離及び転写活性化能についての初めての報告である。今後はCRが性決定関連遺伝子の制御を行うか解析を進める。



1545 軟骨魚類のエストロゲン受容体—遺伝子単離と機能解析
 
○成田晴香(北大・生命科学院)、勝 義直(北大・理学研究院)
 
女性ホルモンであるエストロゲンは卵巣の分化・発達に必要であり、エストロゲン受容体を介して作用する。私たちはエストロゲン受容体の分子進化解明の目的で、軟骨魚綱板鰓亜綱におけるエストロゲン受容体の単離と機能解析を行なった。2種類のサメ(トラザメとジンベエザメ)からエストロゲン受容体の単離に成功し、配列の解析から両者ともベータ型のエストロゲン受容体である事が分かった。さらに、リガンド依存的な転写活性化能について調べたところ、エストロゲンのみではなく環境化学物質にも反応する事が分かった。これらの結果は、軟骨魚類の内分泌システムの理解とエストロゲン受容体の分子進化の解明に繋がると期待できる。


 
1600 マウス精巣におけるTCAM遺伝子のアンドロゲン応答性
 
○栗原美寿々(北大・生命科学院)、米田竜馬(北大・生命科学院)、木村 敦(北大・理学研究院・生物科学)
 
精巣に発現する多くの遺伝子はアンドロゲンにより制御されている。今回、我々は精巣特異的遺伝子TCAMの発現調節機構を明らかにする過程で、TCAM遺伝子のアンドロゲンに対する応答性を検討した。まず、性成熟過程の精巣でTCAM遺伝子の発現を調べたところ、アンドロゲンの分泌時期と一致していた。また精巣内での局在が精母細胞とセルトリ細胞であったことから、アンドロゲン調節は直接的あるいは間接的に行われていると考えられた。今回は直接的な調節を調べるために、細胞株15P-1とセルトリ細胞の初代培養系を用いて実験を行った。その結果、TCAM遺伝子の発現がアンドロゲンによって誘導されることを確認した。



1615 マウスTESSPクラスターの精巣特異的発現を調節するゲノム領域の探索
 
○米田竜馬(北大・生命科学院)、木村 敦(北大・理学研究院・生物科学)
 
TESSPはマウスの精巣にのみ発現しているプロテアーゼで4種類が同定されており、このうちTESSP-2、-3、-4は9番染色体上でクラスターを形成している。これらのTESSPは後期パキテン期の一次精母細胞にのみ発現しており、性的に成熟する生後28日齢で発現のピークを迎えることから精子形成に関わっていると考えられる。本研究ではTESSPの精巣特異的な発現を調節する機構を調べたところ、TESSPの発現がプロモーターだけでなく他の調節領域によっても制御されていることが示唆された。そこでクロマチン構造を解析して転写調節を行っている可能性のある領域を探索した結果、その候補となる領域を一箇所、同定した。



優秀発表賞
優秀発表者の木下豪太氏(左)と指導教員の鈴木仁会員(右)。



優秀発表者の小倉有紀子氏。



優秀発表者の萩原茜氏。




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