■ 第537回支部講演会 |
日時:2011年6月30日(木) 13:30〜
場所:北海道大学理学部5号館4階5-407室
演題:「線虫C. elegansの記憶を制御する核内ダイナミクスの超高分解能可視化解析系の確立」
演者:杉 拓磨 博士 (京都大学大学院・工学研究科分子工学専攻生体分子機能化学講座(白川研究室))
生物の記憶において、ニューロンは1つ1つが異なる役割をもつため、記憶のメカニズム解明には、1ニューロンレベルの解析が必要不可欠である。線虫C. elegansは、土壌に住む体長1 mmほどの透明な生物で、たった302個のニューロンからなるシンプルな神経系にも関わらず、驚くべきことに、温度や振動などの刺激を記憶できる。また、それぞれのニューロンに選択的に、遺伝子発現、抑制(RNAi)、細胞死誘導、あるいは蛍光発色させることができる唯一のモデル生物である。本セミナーでは、究極のモデル生物とも呼ばれるC. elegansの記憶を解析することで、生物個体内の1ニューロンレベルの核内リモデリングを可視化する系を確立したので発表する。まず、C. elegansの感覚ニューロンは、温度の記憶を、CREBとエストロゲン受容体に依存し、1細胞で持つことを明らかにした(Sugi et al, Nature Neurosci., in press; Nishida, Sugi et al, EMBO reports, in press)。この感覚ニューロン1細胞のヘテロクロマチンを、波長限界を超えた超高解像度の光学顕微鏡3D-SIMにより観察した結果、初めて、in vivoにおいて、鮮明に、へテロクロマチンとユークロマチンの境界面を捉えることに成功した。この結果をもとに、記憶を神経ネットワークとして保持する振動刺激の学習行動の系で、個々のニューロンのCREB、エストロゲン受容体、クロマチン構造やその修飾が、記憶過程で時空間的に変遷する様子を解析することにより、個々のニューロンの役割を解析することを可能にした。本研究は、C. elegansを用いた分子遺伝学的手法と超高解像度光学顕微鏡を用いた物理化学的手法を融合した系が、記憶をコードする核内リモデリングを分子分解能で解くのに適した系であることを示す。
座長:和多 和宏 (北海道大学大学院理学研究院) |