北海道支部 ホームページ
 >  > 北海道支部大会 > ■ 平成24年

■ 平成24年
 

(社)日本動物学会北海道支部  第57回大会

 大会プログラム

北海道支部第57回大会事務局・小川庶務幹事から大会スケジュールの案内














一般発表部門(口演)

9:30 [O1]  SDF-1受容体CXCR7による細胞間接着の制御

 ○福井彰雅(北大・院・先端生命・組織構築)
ケモカインは細胞の運動を司る低分子量タンパク質の総称であり,その一つであるSDF-1には受容体としてCXCR4CXCR7が知られている。この2つの受容体の関係は,CXCR4が主に細胞の方向性のある運動を制御し,CXCR7CXCR4による細胞運動を負に制御すると考えられていた。しかし,ツメガエル中内胚葉細胞でのCXCR7の強制発現は,驚いたことに,SDF-1の存在下で細胞の解離を引き起こした。これはこれまで報告されていなかったCXCR7の新しい機能であり,カドヘリンを介するその分子メカニズムの一部についても報告する。
 



9:45 [O2]  メダカ排卵時に起こるアクチンフィラメントの重合調節機構
○藤森千加(北大・院生命科学・生命システム科学)、岸川拓斗(北大・理・生物科学)、荻原克益(北大・院理)、高橋孝行(北大・院理)
排卵とは卵巣の濾胞細胞から卵母細胞が放出される現象であり、脳下垂体から放出された黄体形成ホルモン(LH)に応答して引き起こされる。これまでにメダカを含む数種の動物において、アクチンフィラメントの重合調節が排卵に関与することが報告されてきた。しかしながら、どのようにしてアクチンフィラメントの重合調節が行われているかについては不明である。そこで、本研究ではメダカを用いて排卵時におけるアクチンフィラメントの重合調節機構について調査を行った。その結果、低分子量Gタンパク質の一種であるRho及びその下流因子Rhoキナーゼが排卵時に活性化されることによって排卵に寄与していることが示唆された。



10:00 [O3]  シマフクロウの系統的位置およびミトコンドリアDNAコントロール領域における巨大な反復配列の進化
○表渓太1,西田千鶴子1,Matthew Dick1,増田隆一1(1北大・院理・自然史科学)
シマフクロウ(Bubo blakistoni)および近縁な8種のmtDNAのコントロール領域(CR)およびチトクロームbの塩基配列から系統解析を行った結果、シマフクロウを含む旧Ketupa属の種はBubo属の中でクレードを形成することが明らかになった。旧Ketupa属の3種とB. lacteusの計4種のCRは大きな反復配列領域を含んでおり、サイズが3.0−3.8 kbと一般的なCR1.5−1.7 kb)に比べて非常に大きいことが明らかになった。しかし、その他5種では反復配列は観察されなかった。反復配列のDNA 鎖は、安定した二次構造をとり得ることが示され、slipped strand mispairingによる反復配列の形成仮説を支持した。さらに、反復配列の構成単位の順序から、ダイナミックな変異や反復配列伸長の一方向性が示唆された。


10:15 [O4]  ミトコンドリアDNA全塩基配列に基づくヒグマの系統解析
平田大祐(北大・院理),間野勉(道環科研),A. AbramovRus. Acad. of Sci.),G. BaryshnikovRus. Acad. of Sci.),P. KosintsevRus. Acad. of Sci.),A. VorobievRus. Acad. of Sci.),E. RaichevTrakia Univ.),角田裕志(岐阜大),金子弥生(東京農工大),村田浩一(日大),増田隆一(北大・院理)
これまでのミトコンドリアDNA (mtDNA) を用いた系統解析により北海道ヒグマは3系統からなり、道央ヒグマは東ヨーロッパ・西アラスカのヒグマに、道東ヒグマは東アラスカのヒグマに近縁とされている。道南ヒグマはチベットヒグマとの近縁性が示唆されているが系統関係は定まっていない。そこで本研究では、北海道、南千島 (択捉・国後)、サハリンおよびユーラシア大陸のヒグマのmtDNA全塩基配列に基づく分子系統解析を行った。その結果、道南ヒグマは北米産ヒグマと近縁で、チベットヒグマは比較的古い時期に分岐した独自の系統であることが判明した。択捉・国後のヒグマは道東ヒグマに、サハリンヒグマは東ヨーロッパ・西アラスカヒグマに近縁であった。


10:45 [O5]  継続的な発声行動は遺伝子発現誘導率を脳部位選択的に変化させる
早瀬晋(北大・院生命科学院・生命システム科学),大串恵理(北大・院生命科学院・生命システム科学),和多和宏(北大・院理学研究院)
ヒトを含む少数の動物種は発声学習を感覚運動学習によって獲得する。その学習過程において学習臨界期が存在する事が知られているが、その神経分子メカニズムは良く理解されていない。Zebra finchは幼鳥期にのみ囀りを変化させる。幼鳥は一日を通して囀り行動を生成するが、囀りの音韻構造変化が起こるのは一日の中で囀り始めから数時間に限定される。我々は囀り行動を司る脳内歌神経核において、囀り行動依存的に発現誘導される遺伝子群を調べた。結果、それらの遺伝子群は歌神経核RAにおいて午前と午後で囀り行動による発現誘導率に差異があった。また午前から午後にかけて起こる遺伝子発現誘導率の低下は囀り行動量に依存していた。


11:00 [O6]  囀りパターン学習時の種特異的バイアスを与える大脳皮質・基底核・視床ループの役割
今井礼夢(北大・院生命科学院・生命システム科学),和多和宏(北大・院理学研究院)
学習により獲得される鳴禽類の囀りには種特異的パターンが見られる。本研究では種特異的な囀りパターン学習の神経メカニズム解明のため、キンカチョウに異種の囀りを聴かせる仮親実験を施行した。その結果、囀り学習前期では仮親の異種パターンに近づくが、後期以降は聴いていないにも関わらず自種パターンへ変化した。この種特異的バイアスに関わる脳内歌神経回路同定のため、皮質・基底核・視床ループに相当する神経回路から運動回路への出力を阻害した。その結果、仮親実験個体の囀りは異種パターンに近い状態で維持された。囀り学習後期には種特異的バイアスを受けながら発声パターンを固定化する神経メカニズムの存在が示唆される。



11:15 [O7]  禽類の発声学習における囀りパターン固定化の神経機構
○森千紘 (北大・院生命科学院・生命システム科学), 和多和宏 (北大・院理・生物科学)
発声学習は聴覚入力を介した感覚運動学習により成立する。鳴禽類キンカチョウは発声学習を経て囀りパターンを固定化するが、その神経機構はほとんど分かっていない。これまでに学習前後で聴覚阻害を行っても囀りパターン固定化が起こることを発見した。これより囀りパターン固定化が学習だけでなく、最終的には聴覚に依らず日齢依存的に制御されると考えられる。囀りパターン固定化までの脳内遺伝子発現動態について聴覚の有無による影響を調べた。その結果発現変動を示す遺伝子群の約9割が聴覚の影響を受け、約1割が聴覚の有無に依らず同様の発現動態を示した。この遺伝子群が聴覚依存及び非依存の囀りパターン固定化に関わる可能性がある。



14:00 [O8]  クロコオロギにおけるin vivo RMCE法による遺伝子導入系の開発 〜クロコオロギを材料とした分子神経遺伝学の確立に向けて〜
○渡邊崇之(北大・電子研),青沼仁志(北大・電子研)
クロコオロギは、神経行動学の分野で古くから有用な実験材料としてもちいられ、闘争行動・求愛行動・逃避行動などの定型的な行動発現の基盤となる神経生理機構の研究が行われている。また、近年トランスポゾンをもちいた遺伝子導入が可能になり、分子遺伝学的手法を取り入れることで神経行動学研究における新たな展開が期待される。我々は現在、より効率的かつ汎用性の高い遺伝子導入系の確立を目指し、配列特異的組み換え酵素を利用した新規遺伝子導入法 (in vivo RMCE ) の開発に取り組んでいる。今回の支部会では、手法の概要とこれまでの進展について紹介したい。





14:15 [O9]  フタホシコオロギ古典的条件付けにおける習慣形成
○廣鰭 翔、松本 幸久、水波 誠(北大・院生命科学院・生命システム科学)
哺乳類のオペラント条件付けでは、habit formation(習慣形成)という現象が知られている。習慣形成とは、条件付け訓練を繰り返すと、報酬の価値とは無関係に学習行動が遂行される現象である。つまり報酬の価値が引き下げられても、学習行動が観察された場合、習慣形成が起こったといえる。しかし、古典的条件付けでは習慣形成は知られていない。コオロギでは水を報酬として用いることが出来る。そこで、本研究では報酬である水をテストの前に飲ませることで、水の価値を引き下げるという方法を用いて、この可能性を検証した。その結果、古典的条件付けで習慣形成が起こることが示されたので報告する。





14:30 [O10]  コオロギの気流誘導性歩行の運動制御に関与する下行性信号の解析
○首藤智宏(北大・院生命科学・生命システム科学),小川宏人(北大・院理・生物科学,JST・さきがけ)
動物は様々な遠隔性刺激に対して応答する際に,刺激に含まれる空間的情報をもとに運動を制御する。我々はこれまでに,コオロギが気流に対して方向依存的な歩行運動を示し,その運動制御に脳神経節から胸部神経節へ下行性の信号が必須であることを報告した。今回,片側の頸部腹側縦連合の遠心側断端から細胞外記録した下行性信号の気流応答性を解析したところ,刺激に対して異なる方向感受性をもつスパイクユニットが存在した。また,これらのスパイクユニットの多くは刺激終了後も発火し続ける持続的な応答を示した。上行性信号の反応性との比較を行うと共に、トレッドミル上での歩行運動との相関についても報告する。





14:45 [O11] アメリカウミザリガニにおける鋏行動を指標としたオペラント光弁別学習能の検証
○冨菜雄介(北大・院生命科学院・生命システム科学),高畑雅一(北大・院理・生物科学)
微小脳における高次脳機能の行動生理学的な理解を目指し、アメリカウミザリガニを実験動物としたプロジェクトを進めている。本研究では生理実験に適用可能な行動課題を確立するため、拘束条件下において鋏行動を指標とした光弁別学習能を検証した。行動頻度と光刺激に対する反応時間を学習成績の指標として用いた。単一および3段階の光強度(弱・中間・強)の光刺激提示下で鋏行動に対して報酬を与えると、それぞれの刺激提示下で鋏行動が強化される傾向を示した。3段階の光刺激について弁別訓練と逆転学習を行うと、訓練を重ねることで弁別形成の傾向を示した。以上より、拘束条件下において光刺激とその強度に基づいた弁別学習能が示された。




15:15 [O12]  Neurons of nucleus accumbens code the value of gained reward in the domestic chick.
Chentao Wen(北大・院生命科学院・生命システム科学),松島俊也(北大・院理・生物科学)
It is an important question in neuroeconomics about how animals make decisions. Previous results of lesion experiments in domestic chicks have implied the importance of the nucleus accumbens (NAc) in reinforcement-learning and decision making. By single unit recoding in this area, Izawa et al. (2005) found that reward-related activities may code quantity, proximity or other property of the reward. However, we still do not know functions of these activities in decision making and learning. We do not know why the lesion of this area made such behavioral changes as the delayed extinction (Ichikawa et al. 2004) and the impulsive choices (Izawa et al. 2003). To solve these questions, we compared the single neuron activity in NAc in different contexts, which included rewarded session, reward-omitted session and reward-recovered session. In all of the neurons that showed reward-period activity, we found that these activities changed quickly in a way consistent with whether the reward was gained or not. On the other hand, pre-reward activities did not change or changed slowly. These results suggested reward-period activities in NAc may play an important role in updating the subjective value of the reward-predicting stimuli.


15:30 [O13]  鳥の求愛ディスプレイ
◯岩間翠(北大・生命科学院・生命システム科学) 相馬雅代(北大・理学研究院・生物科学部門)
スズメ目の求愛ディスプレイはダンスと歌で構成される。歌の研究はジュウシマツ・キンカチョウ等で数多くなされているが、ダンスについてはほとんど未解明である。本研究では文鳥を用い、求愛ディスプレイの特にダンスに着目した。今回は以下の3点について動画を交えて報告する。@文鳥の求愛ディスプレイの要素と基本構成はどのようなものか、A求愛ディスプレイを行う個体の属性 (オス/メス/成鳥/幼鳥)とディスプレイ対象個体の属性よりダンスをする割合が異なるか、B求愛ディスプレイの発達は歌発達と比較してどのような経過をするか。






15:45 [O14] ブンチョウの歌発達と家族構成の影響
○太田菜央(北大・院生命科学院・生命システム科学), 相馬雅代(北大・理学研究院・生物科学部門)
鳴禽類の歌は主に雄から雌への求愛に使われる。歌は幼鳥時に他個体の歌を聞き、学習することによって獲得する。そのため、獲得された歌は幼鳥時の発達や社会状況のシグナルとなっていると予想される。本研究はブンチョウを対象とし、歌の発達過程と家族構成の影響について検討した。ブンチョウは父親から音素のレパートリーと規則性を学んでいるものの、1歌の持続時間は父親より短いことが分かった。1歌の持続時間には1腹ヒナ数が関わっており、1腹ヒナ数が多いほど歌の持続時間は短くなる傾向にあった。また、歌の持続時間は成鳥になった後も日齢と共に長くなっていることが分かった。





特別発表部門(高校生ポスター発表)
[P1]  旭川のアズマヒキガエル(外来種)が環境に与える影響について
大里拓也(北海道旭川西高等学校生物部2年)、柏倉未羽(2年)、植田誠也(1年)、岩瀬寛樹(1年)、新田祥吾(1年)
近年、日本各地で様々な外来種の存在が問題視されている。旭川近郊でも例外ではなく、外来種による従来の自然環境への影響が懸念されている。旭川では、ここ数年、アズマヒキガエルの増加及び分布域の拡大が指摘されている。歴代の生物部では、これまでに何度となくアズマヒキガエルの研究を行ってきた。今回は、環境に与える影響を調べる目的で行った、アズマヒキガエル、エゾアカガエル、ニホンアマガエルの胃内容物調査、増加の要因を探る目的で行った3種のカエルの卵数調査、及び幼生の生育期間を同じくするアズマヒキガエル、エゾアカガエル、エゾサンショウウオの幼生飼育実験(種内及び種間関係、水質との関係)の最近2年間の結果を基にした考察を報告する。


 [P2]  トンボ相の多様性から湿地環境を診断
 ○内田葉子(北海道大学1年,元札幌旭丘高校生物部),関口絢子(札幌旭丘高校生物部2年),綿路昌史(札幌旭丘高校教員、生物部顧問)
私たちは2009年から石狩川と当別川の合流部でトンボの生態調査を行っている。この地域は札幌開発建設部による自然再生事業が行われ、沼地が造成されている。私たちはトンボ相の多様性を調べることで、水辺の自然環境の多様性の指標となると考え調査を始めた。2011年までの3年間で、合計28種8083個体のトンボを採集した。これらの種類構成のデータから各地点の優占種や地点ごとの類似度、多様性などを求めた。コドラート法を用いての植生調査も行い、トンボの種類構成との関係を考察した。さらに、今回のデータを用いて、トンボが生息する環境の指標を作成したため、それについても考察する。



 [P3]  早春の野幌森林公園におけるエゾサンショウウオの産卵環境とアライグマによる被食状況
 ○柿沼智生(札幌啓成高校理数科科学部2年),○中谷圭汰(札幌啓成高校理数科科学部2年),植木玲一(札幌啓成高校教諭),堀繁久(北海道開拓記念館学芸員)
北海道RDBでは、石狩平野のエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)個体群は「保護に留意する地域個体群(Lp)」に指定されている.野幌森林公園で2011年および2012年の4月〜5月に,卵嚢調査・ふ化調査・被食痕調査・動物カメラ調査を実施し,以下の成果を得た.1 産卵時期,産卵数,卵嚢数密度,卵嚢産付対象物,産卵時水温・水深・DOなどの諸データ.2 概算による卵嚢卵数,卵嚢生存率,ふ化率.3 エゾサンショウウオ被食痕(2012年4月14日〜27日で14尾回収).4 アライグマ採餌行動の映像(同期間で25回のアライグマ撮影,エゾサンショウウオ捕食映像含む).





ポスター発表の様子
 





優秀発表賞
優秀発表賞を受賞した藤森千加 さん(右)と高橋支部長



優秀発表賞を受賞した冨菜雄介君(右)



優秀発表賞を受賞した太田菜央さん(右)



研究奨励賞
 本年度より優秀発表賞には届かなかったものの特に将来が期待される修士課程の学生の発表を対象に,研究奨励賞を設けました。
研究奨励賞を受賞した平田大祐君(右)
 研究奨励賞を受賞した早瀬晋君(右)

優秀発表賞(特別発表部門)
 優秀発表賞を受賞した旭川西高校生物部(審査員の栃内新先生と)
 優秀発表賞を受賞した札幌旭丘高校生物部(審査員は水波誠先生)
 優秀発表賞を受賞した札幌啓成高校科学部(審査員は増田隆一先生)
優勝発表賞を受賞した3校で記念写真

<< 戻る >>



*