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■第579回支部講演会

日本動物学会北海道支部 第579回支部講演会

日時:2018427日(金)17:0018:00
場所:北海道大学 地球環境科学研究院 D201(D2)

ゲノム時代の生物進化研究とは?

斎藤成也(国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門)

分子進化学は1960年代に勃興したが、最初はタンパク質の電気泳動パターンあるいはアミノ酸配列が分析の対象であった。その後DNA分子そのものを調べる研究がはじまり、制限酵素を用いた制限サイト地図や、短いDNA塩基配列を決定して比較するといった手法が一般的となった。特に動物進化の研究では、近縁な生物間の系統関係についてはミトコンドリアDNAの塩基配列が、遠い関係の生物間ではリボソームRNA遺伝子の塩基配列が比較されるようになった。しかし、これらはあくまでもマーカーとしての役割だけが期待されており、集団間や種間の系統関係を推定したり、集団遺伝学的解析にとどまっていた。一方で、機能的に重要なタンパク質遺伝子のDNA配列についても、少数については進化的な解析が進められた。
1990年代以降に、ゲノム全体の塩基配列を比較できるようになって、状況は変化していった。最初のうちは、塩基配列決定が高価だったので、少数のモデル生物のゲノム比較が一般的だったが、21世紀にはいって、次世代シークエンサーの利用が普及すると、ゲノム配列の決定が安価になり、非モデル生物のゲノムが次々に決定されるようになった。これにより、進化学におけるモデル生物の重要性は、あきらかに過去に比べると低下した。技術的な問題から、まだ染色体の端から端にいたるDNA配列がきちんと決定できるわけではないが、ゲノム配列の解析から、ある生物の持つタンパク質や重要なRNAの遺伝子、進化的に保存されている非コード領域の配列は、網羅的に得ることができるようになった。これらの配列が生成するタンパク質、RNA、その他の代謝産物こそが生物を形作っているのだから、ゲノム配列を土台として、分子レベルと表現型レベルの進化研究が、つながりつつある。この方向こそ、今後の生物進化研究がめざすべきものである。

斎藤成也先生は、NJ法の開発者として知られていますが、日本人の起源に関する多くの著作があります。また、昨今は、野生生物におけるゲノム学的アプローチの進展にご尽力されています。急激に進展しているゲノム学研究について斎藤先生と情報共有ができればと考えます。

世話人:鈴木仁(北大 地球環境科学研究院)htsuzuki@ees.hokudai.ac.jp


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