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■第582回支部講演会

細胞社会の恒常性維持
競争(competition)と補償(compensation

田守 洋一郎

北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野

日時 2018713() 16:30 - 18:00
  場所   理学部5号館813号室

多細胞生物の組織を形成する細胞社会は、その構成単位を入れ替えながらも組織全体の形、大きさ、機能を保つことができる驚くべき能力を持っている。この頑強にしてしなやかな自己組織化システムは自然界において他に類を見ない。一方、発生や老化の過程で正常な細胞とは性格の異なる変異細胞が出現し、それらが組織中に蓄積すると、このシステムは次第に破綻をきたし、ガンを始めとする様々な疾患や器官機能障害の原因となる。近年の研究によって、組織中の細胞は隣接細胞同士でお互いの適応度を測り、適応度の低い細胞は組織から排除され、より適応度の高い細胞が生存する、いわゆる適者生存の原理が組織内の細胞レベルで働いていることが分かってきた。この「細胞競合」と呼ばれる細胞間の拮抗作用はつまり、細胞社会に悪影響を及ぼす可能性のある異常細胞の蓄積を防ぎ、細胞社会全体の質を維持するための組織恒常性維持機構であると考えることができる。この細胞競合の過程で、異常細胞は細胞死を促されて組織中から排除されるわけであるが、この異常細胞が消失した場所を穴として残しておくわけにはいかない上に、除去ばかりしていると当然組織中の細胞数が次第に減少していくことになる。つまり、ここで正常細胞達は、異常細胞を殺して除去しながらも組織全体の形や大きさに影響が出ないように補償的な埋め合わせとしての組織修復も同時に行っているのである。本セミナーでは、ショウジョウバエをモデルとした我々の研究によって見えてきた、このような細胞社会における「競合による異常細胞の排除」と「補償的な組織修復」のメカニズムを紹介したい。

  連絡先:理学部生物科学科 田中暢明(nktanaka@sci.hokudai.ac.jp


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