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■第566回支部講演会
日本動物学会北海道支部第566回支部講演会
日時:201678日(金)17001800
場所:北海道大学理学部5号館813
演者:三浦 恭子博士(北海道大学・遺伝子病制御研究所)
演題:長寿・がん化耐性動物 ハダカデバネズミ由来 iPS 細胞の腫瘍化耐性機構
演題要旨:
ハダカデバネズミ(Naked mole-rat, NMR)は、エチオピア・ケニア・ソマリアの地下に生息する齧歯類である。昆虫のアリやハチに類似した分業制のカースト社会を持ち、地下にトンネルからなるコロニーを形成して集団生活を営む。ハダカデバネズミはマウスと同等の大きさながら約10倍の寿命を有し(平均寿命28年)、これまでに自発的な腫瘍形成がほとんど認められていないがん化耐性の特徴を有する。さらに地下の約7%の低酸素環境へ適応しており、哺乳類でありながら低体温(32度)かつ外温性(外気温に体内温を依存)という珍しい特徴を併せもつ。我々は、現在のところ日本の研究機関で唯一ハダカデバネズミを飼育し、研究を進めている。これまでに、ハダカデバネズミの抗老化・抗がん化・社会性のメカニズムの解析のため、NMR-iPS細胞の樹立や3D MRI脳アトラスの構築、各種臓器における遺伝子発現情報の整備など基礎的な研究基盤を確立してきた。次に、樹立したNMR-iPS細胞の解析を進めた結果、興味深いことに、がん化耐性齧歯類ハダカデバネズミから樹立したiPS細胞は、in vitro での三胚葉への多分化能を持ち長期継代維持が可能にも関わらず、マウスやヒト由来のiPS細胞と異なり、未分化状態で移植された場合の造腫瘍性(奇形腫形成能)をもたないことを見出した。そこでNMR-iPS細胞の腫瘍化耐性を規定するメカニズムに関して解析を行ったところ、動物種特異的ながん抑制遺伝子ARFの発現維持機構と種特異的ながん遺伝子ERASの機能欠失により、腫瘍化耐性能が制御されていることが明らかとなった(Miyawaki, Miura et al., Nature Communications, 2016)。また、個体の老化耐性に寄与すると考えられる、細胞老化に対する特異な応答性も見出しつつある。本会では、ハダカデバネズミの生態・老化耐性・がん化耐性の特徴、そして我々のこれまでの研究内容を紹介したい。
連絡先:松島俊也(北大大学院・理学研究院・生物科学部門)
               matusima@sci.hokudai.ac.jp


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