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平成16年度 日本動物学会賞等の決定



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平成16年度 日本動物学会賞等の選考を終えて


日本動物学会学会賞等選考委員会委員長
高橋 三保子


国立大学の独立行政法人化の混乱の中、5月7日、今年の学会賞等の選考を行った。残念なことに今年の動物学会賞の応募者数は昨年と同数の5名であった。動物学という広い分野を含む動物学会らしく、応募された方の分野も多岐にわたる。選考委員も5つの分野から出ているとはいえ、「動物学の進歩発展に重要な貢献をなす業績」を選考するのは容易ではない。研究業績・動物学の進歩への貢献等、忌憚のない意見交換の末、本年は、「チョウ類の光感覚に関する研究」の蟻川謙太郎会員と「ヒドラのペプチド性シグナル分子の組織的解析」の藤澤敏孝会員の業績を評価し、2名を候補者として評議員会に推薦した。

蟻川謙太郎会員は、「アゲハチョウはお尻でも見ている」というびっくりする発見を端緒として、様々なチョウ類を対象に、分子生物学、電気生理学、組織学、生理光学、行動学などの研究手法を駆使し、ユニークな研究を展開してきた。アゲハチョウ尾端光受容器はオスでは交尾の成立をモニターし、メスでは産卵管の突出具合をモニターする機能をもつことを明らかにした。また、複眼には6種類の色受容細胞が混在すること、構成する個眼の多様性、一つの視細胞が2種以上の視物質を同時に発現することの発見等、常識を覆す成果を挙げてきた。これらの独創的な研究成果が評価された。

現在、網羅的解析はゲノムプロジェクトの中では極めて普通に行われている。藤澤敏孝会員は、二胚葉からなる単純な体制の腔腸動物のヒドラを材料に、その遥か以前からペプチド性シグナル分子の大規模検索と同定を進めてきた。ヒドラの遺伝子発現に影響を与えるペプチドをシグナルペプチドと定義し、非特異的分解産物を排除して情報分子であるペプチドだけを同定する方法論を確立、微量にしか存在しないペプチド分子も検出し、約400のシグナルペプチドを同定した。それらの分子の機能解析を進め、生理学・神経生理学・発生学の領域をこえた研究を展開している。これからの進展も期待できる立派な成果をあげており、学会賞に相応しいと評価された。

今年の奨励賞には6名の応募があった。近い将来、学会賞の対象者になるであろうと予想させるようなレベルの高い研究成果をあげた応募者が多く、選考は難航した。苦難の末、次の2名を評議員会に推薦した。千葉和義会員は、ヒトデ卵の減数分裂と受精の研究を行い、正常発生の基盤となる分子機構や受精の生理的意義に独自の切り口で解析し、多くの成果を挙げている。深津武馬会員は、昆虫と微生物間の内部共生関係の機能・起源および進化について、分子遺伝学から進化生態学的相互作用まで、様々なアプローチで独創的な研究を展開している。ミクロ生物学とマクロ生物学を統合し、スケールの大きな研究に発展させることを期待させる優れた成果をあげている。

江上学術表彰による若手研究者国際会議出席費用補助金には11名の応募があり、2名を推薦した。有岡幸子会員は、北京で開催される第14回国際動物学会でポスター発表を行う。笹倉靖徳会員は、米国ミネアポリスで開催されるThe Second Annual Internationa l Conference on Transposition and Animal Biotechnologyで招待講演を行う。発表表題が明確でないなど、応募様式に改善するべきところが選考委員会の中で指摘された。

奨励賞は「将来の進歩発展が強く期待される若手研究者」に贈られる、となっている。研究者はいくつになっても、道未だ半ば、自分は今後さらに発展する若手である、と自認する人が多いに違いない。選考後の感想として不謹慎ではあるが、若手にはおのずとメドとなる年令、立場もあるのではないだろうか。来年はさらに、未熟さがあったとしても将来の発展を期待させる意欲的な沢山の若者の挑戦的な応募を期待したい。




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平成16年度 Zoological Science Awardの決定


平成16年度Zoological Science Awardが決定しました。ZS編集委員会(委員長 道端齊会員)から、平成16年度論文賞候補論文が評議員会に推薦され、評議員会は、審議の結果、以下の5論文を平成16年度論文賞と決定しました。

(1)
Suzuki, A. C.
Life History of Milnesium tardigradum Doy・re (Tardigrada) under a Rearing Environment.
Zool. Sci. 2003, 20(1):49-57.

推薦理由
クマムシ類の1,Milnesium tardigradumの生活史を入念に観察した記録。生殖、発生、脱皮サイクル、成長速度、などを、観察事実に基づいて克明に記述した。興味深く、基礎的比較動物学のお手本のような論文といえる。

以下の2論文は一組として受賞対象とする

(2-1)
Henmi, Y and Yamaguchi, T.
Biology of the Amphioxus, Branchiostoma belcheri in the Ariake Sea, Japan I. Population Structure and Growth.
Zool. Sci. 2003, 20(7):897-906.
(2-2)
Yamaguchi, T and Henmi, Y.
Biology of the Amphioxus, Branchiostoma belcheri in the Ariake Sea, Japan II. Reproduction
Zool. Sci. 2003, 20(7):907-918.

推薦理由
比較動物学的にきわめて興味深いナメクジウオの集団の構成、繁殖について、有明海において4年間にわたり検索した精力的連作。この動物の理解ならびに将来的保護のため(あるいは脊椎動物の進化を理解する上でも)貴重なデータであり、さらには将来的な実験室での研究を可能にする基盤をももたらす重要な業績といえる。

以下の2論文は一組として受賞対象とする

(3-1)
Ito, I, Watanabe, S, Kimura, T, Kirino, Y and Ito, E.
Negative Relationship between Odor-Induced Spike Activity and Spontaneous Oscillations in the Primary Olfactory System of the Terrestrial Slug Limax marginatus.
Zool. Sci. 2003, 20(11):1327-1335.
(3-2)
Ito, I, Watanabe, S, Kimura, T, Kirino, Y and Ito, E.
Distributions of γ-Aminobutyric Acid Immunoreactive and Acetylcholinesterase-Containing Cells in the Primary Olfactory System in the Terrestrial Slug Limax marginatus.
Zool. Sci. 2003, 20(11):1337-1346.

推薦理由
本論文は軟体動物ナメクジを用いて、嗅覚受容器官で観察される電気振動現象を、情報処理の立場からその生理学的な意味づけに成功し、かつその振動を引き起こす複数の神経ネットワークの存在も、解剖学的に明らかにしたものである。これらの結果は、動物界全体において幅広く観察されるものの不明な点が多数ある嗅覚受容時の電気振動現象の解明に、大きく貢献したものと言える。研究の完成度は高く、内容も極めて優れている。今後は多数の引用が期待される。
(4)
Yamamoto, T, Yao, Y, Harumi, T. and Suzuki, N.
Localization of the Nitric Oxide/cGMP Signaling Pathway-Related Genes and Influences of Morpholino Knock-Down of Soluble Guanylyl Cyclase on Medaka Fish Embryogenesis.
Zool. Sci. 2003, 20(2):181-191.

推薦理由
NO/cGMP情報伝達系は多くの生理現象に関与しているが、動物の初期発生における機能に関する知見はほとんど得られていない。著者らは初期発生におけるNO/cGMP情報伝達系の機能解析を目的として、NO/cGMP情報伝達系の構成要素である、脳型NO合成酵素(nNOS)およびcGMP依存性プロテインキナーゼ (cGK I, II)をメダカより単離し、メダカ発生過程における各関連遺伝子の発現開始時期をRT-PCRならびにホールマウントin situハイブリダイゼーション法を用いてその発現時期とパターンを明らかにした。さらに著者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドのメダカ胚への導入によるsGC機能阻害実験を行ない、機能阻害胚では体節形成の乱れが引き起こされることを明らかにした。また、GCS-beta1機能阻害胚では著しい発生遅滞を生じ、本情報伝達系の母系因子の重要性が示唆された。本研究によって得られた知見は、従来不明な点が多かった動物の初期発生におけるNO/cGMP情報伝達系の機能解明に、大きく寄与するものと考えられる。

以下の2論文は一組として受賞対象とする

(5-1)
Ichikawa, T.
Firing Activities of Neurosecretory Cells Producing Diapause Hormone and its Related Peptides in the Female Silkmoth, Bombyx mori. I. Labial Cells.
Zool. Sci. 2003, 20(8):971-978.
(5-2)
Ichikawa, T. and Kamimoto, S.
Firing Activities of Neurosecretory Cells Producing Diapause Hormone and its Related Peptides in the Female Silkmoth, Bombyx mori. II. Mandibular and Maxillary Cells.
Zool. Sci. 2003, 20(8):979-983.

推薦理由
神経ペプチドである休眠ホルモンは、免疫組織化学などの方法によって、食道下神経節の3つの細胞群で産生されていることがこれまでに示されていた。これらの論文は、電気生理学の方法によって、実際に休眠を誘導する際にホルモンを分泌しているのは、そのうちの特定の細胞であることを明らかにしたものである。このような方法によって真の分泌細胞を明らかにした例は貴重で、昆虫内分泌学における画期的論文である。特定の細胞群が重要であることを示したものが(7)であり、そのほかの2細胞群は無関係であることを示したものが(8)である。







トピックス

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日本動物学会賞 研究内容




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チョウ類の光感覚に関する研究

横浜市立大学大学院総合理学研究科
蟻川 謙太郎








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ヒドラのペプチド性シグナル分子の網羅的解析

国立遺伝学研究所発生遺伝研究部門
総合研究大学院大学遺伝学専攻
藤澤 敏孝











日本動物学会奨励賞 研究内容


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ヒトデ卵を用いた減数分裂と受精の研究

お茶の水女子大学 理学部 生物学科
千葉 和義







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昆虫類における共生微生物の機能、起源、進化に関する研究

産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門
生物共生相互作用研究グループ
深津 武馬










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会員異動








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