学会賞・奨励賞関連

平成17年度 日本動物学会賞の選考を終えて

日本動物学会学会賞等選考委員会
委員長 長濱嘉孝

 平成17年度の動物学会賞、奨励賞、江上基金授与者を選考するための動物学会賞等選考委員会が5月26日に行われた。昨年度の学会賞等委員会(高橋三保子委員長)からの提案を受けて学会賞の公募要項や選考方法などについて浅島 誠会長を中心とする検討委員会が組織され、選考委員会の独立性、候補者の推薦方法、選考委員の専門分野、などについて検討を行った。その結果、基本的にはこれまでの選考方法を踏襲することになったが、特に選考委員を選ぶ専門分野については、現在の動物学の研究動向をより反映させるべく、大会での各分野での発表数などを考慮して7分野(これまでは6分野)とすることを決め、これが評議員会に提案され、承認された。この変更を受けて、本年度は分野の異なる7名の委員が選出され、3賞の選考にあたった。

 動物学会賞に関しては、昨年、一昨年と応募件数がいずれも5件と十分ではなかったが、本年度は評議員会などを通して広く呼びかけたこともあって10件の応募があった。いずれも「学術上甚だ有益で動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をなす業績をあげた研究者」という受賞条件を十分に満たしており、また動物学会賞らしく研究分野も広範にわたったこともあり、委員会での選考は困難をきわめた。選考にあたっては、まず各候補者について主査と副査を決め、書類審査を十分な日数をかけて行った。選考日当日は午前中から夕方まで審議に審議を重ね、最終的には3件を評議員会に推薦することを全員一致で決めた。

 倉谷 滋会員は、種々の動物を研究対象として、これまでの動物比較形態学、比較発生学をバックグランドとしながら、遺伝子時代のコンセプトを導入したユニークな進化発生学研究を展開し、次々と新説を提出している(ZS、22巻1号の総説参照)。最近の著作「動物進化形態学」は専門分野での高い評価のみならず、我が国ではじめての本格的な形態学の教科書として広く定着しつつある。また、分野別編集幹事やEditorとしてZSの編集にも深く関わっている。小林 悟会員は、一貫してショウジョウバエをモデルとした生殖細胞の形成機構を解析し、平成8年には極細胞形成因子の研究で日本動物学会奨励賞を受賞した。その後も、この因子の機能についての研究を進めるとともに、極細胞分化の鍵因子として新たにナノスを同定し、さらのその主な機能を明らかにしたことで生殖細胞研究を格段に進展させた。また、これらの研究から生殖系列の形成が種を越えた共通原理によって制御されているという新しい概念が創出されつつある。松井正文会員は、あらゆる生物学的情報を駆使して総合的に両生類の分類と自然史を解析することにより独自の研究分野を開拓した。すでに21種の新種、新亜種を記載しているが、とりわけ、ヒキガエルが複雑な種の複合体であることを明らかにした研究は著名である。カエルが世界的に広範な分布を示すことを生かし、生物多様性の保全や保護に結びつけるべく国際的活動を精力的に展開している。また、昨年まで分野別編集幹事としてZSの編集にも携わった。

 奨励賞に関しても「活発な研究活動を行い、将来の進歩発展が強く期待される若手研究者」に相応しい6件の推薦があり、選考は困難をきわめた。学会賞選考と同様な方法で予め書類審査を十分に行った上で当日の審査にのぞんだ。日下部岳大会員は、ホヤをモデルとして、比較ゲノムとBioinformaticsを駆使したユニークな遺伝子転写制御の研究によりこの分野の研究を先導している。ホヤの研究が精力的に展開されている中で、独自の研究を展開していることも評価の対象となった(ZS、22巻2号の総説参照)。田中幹子会員は、これまで一貫して脊椎動物の体側部に四肢、胸鰭、腹鰭が形成されるメカニズムを解析しており、特に四肢形成へのレチノイン酸の関与(ニワトリ)を明らかにしたこと、さらに最近、胸鰭や腹鰭の形成についても新説を提唱したことが高く評価された。

 江上学術表彰による若手研究者国際会議出席費用補助金には4名の応募があり、これまでの研究業績と申請理由等を参考にして、杉本 薫会員(第15回国際発生生物学会で発表)と塚田岳大会員(第15回国際比較内分泌学会で発表)を推薦した。いずれも博士課程2年に在籍する将来が大いに期待される大学院生である。