学会賞・奨励賞関連

平成18年度 日本動物学会賞等の選考を終えて

社団法人日本動物学会 学会賞等選考委員会 委員長 道端 齊

 5月9日午後1時から5時まで、学士会館分館で学会賞等選考委員会を開催した。委員は、阿形、蟻川、今福、真行寺、長濱、西川、道端の7名で、当日病気欠席した蟻川委員の意見は予め委員長宛に書面で提出されていたので、それを含めて選考を行った。

平成18年度日本動物学会賞
 応募者は8名であった。選考委員は予め全候補者の業績を充分な日数をかけて書類選考して3段階の評価区分を行ない、委員会当日に公表されたその評価結果を含めて様々な角度から論議を行った。どの候補者の業績も極めて高い水準であり、「学術上甚だ有益で動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をなす業績を挙げた研究者」という受賞条件を十二分に満たしていたため、選考は難航した。
 長時間の選考の結果、東京大学大学院理学系研究科の深田吉孝氏とお茶の水女子大学理学部の根本心一氏の2名を平成18年度日本動物学会賞の候補者として評議員会に推薦することとした。

 深田吉孝氏の「動物の光受容と生物時計の分子メカニズムに関する研究」は、メタロドプシンIIがGタンパク質と共役し得る生理活性中間体であることを発見した他、ニワトリ網膜から赤・緑・青・紫色感受性の光受容分子を単離し、桿体のGタンパク質の生理機能発現には脂質修飾が重要であることを見出すなど、次々と動物の光受容体の構造と機能を明らかにしてきたものである。さらに、時計位相が光で調節されることに着目して、ピノプシンと命名された光受容分子を網膜外の松果体から世界で初めて発見するとともに、松果体には4種類の時計遺伝子が発現していることなどを明らかにしたもので、これら一連の成果は光生物学と時間生物学に関する本邦産の先駆的業績としてきわめて高く評価された。

 根本心一氏の「ヒトデ卵における中心体の継承機構」は、減数分裂後の体細胞分裂に重要な中心体は雌雄の配偶子のどちらに由来するのか、という古くて新しい生物学の命題の解決を図ったものである。Boveriの受精説では、卵割の分裂極には精子由来の中心体が使われると述べられているが、その証明は未だなかった。同氏は、ヒトデの卵母細胞や受精卵を用いて光学及び電子顕微鏡というオーソドックスな細胞生物学的手法により、Boveriの受精説を明快に証明した。この成果は、海産動物のみならず哺乳類に至までの普遍的生物現象の一つを解明した業績と考えられ、極めて高く評価された。
 

平成18年度日本動物学会奨励賞
 応募者は9名で、年齢は31歳から43歳であった。委員会では、平成16年度の学会賞等の選考にかかる検討委員会の申し合わせ事項「奨励賞の年齢制限はなく、本人の解釈次第であるが、40歳未満が望ましい」とされたことを重視するが、先ずは研究内容で選考するこことし、競合した時は年齢を考慮することとした。
 選考委員は予め全候補者の業績を充分な日数をかけて書類選考して3段階の評価区分を行ない、委員会当日に公表されたその評価結果を含めて様々な角度から論議を行った。
 選考の結果、筑波大学大学院生命科学研究科の笹倉靖徳氏と神戸大学遺伝子実験センターの佐藤賢一氏を平成18年度日本動物学会奨励賞の候補者として評議員会に推薦することとした。

 笹倉靖徳氏(31)の「海産無脊椎動物カタユウレイボヤにおける分子遺伝学の展開」は、ホヤへの遺伝学的技術の導入、室内完全閉鎖系での大量飼育システムの開発、トランスポゾンを用いたトランスジェニックラインの作製等、世界でも類を見ないユニークな解析系を確立したもので、これらに関連する同氏の業績はこの分野のトップジャーナルに数多く発表されており、今後の生物多様性の研究を推進する上で極めて重要な成果を挙げたことが高く評価された。

 佐藤賢一氏(40)の「脊椎動物卵における受精成立の分子メカニズム」は、ゼノパス卵の受精時に精子と卵の細胞膜レベルでの相互作用によりチロシンキナーゼSrcの活性化が生じ、それがカルシウム濃度の上昇の上流因子として機能しているのではと考え、丹念な実験によってその標的因子がホスホリパーゼCγ(PLCγ)であり、チロシンリン酸化がカルシウム濃度の上昇に結びつくことなどを突き止め、受精シグナル伝達反応とその反応場所(ラフト)を明らかにしたものである。これらの一連の成果は同氏の主体的な研究によって成し遂げられたことが高く評価された。
 

平成18年度江上基金
 応募者は9名であったが、1名は他の助成が得られたため辞退した。残り8名について審議した。当日の委員会で書類選考を行って先ず4名に絞り、4名の申請内容を詳細に検討した。選考では、特に国際会議での発表動機、発表内容・目的に具体性と合目的性があるか否かに焦点を絞った。 
 その結果、東京大学大学院理学系研究科の柴小菊氏と広島大学大学院理学研究科の吉永雅史氏の2名を平成18年度江上基金による若手研究者国際会議出席費用補助対象候補者として評議員会に推薦することとした。