学会賞・奨励賞関連

海産無脊椎動物カタユウレイボヤにおける分子遺伝学の展開

筑波大学・大学院生命環境科学研究科・情報生物科学専攻
下田臨海実験センター所属  笹倉 靖徳

1.はじめに
生物の体を形作る発生の過程においては、数多くの遺伝子が機能することにより統制のとれた体が作られる。発生のメカニズムを解明するためには、これらの遺伝子の機能を知ることが必須となっている。昔から生物の体がこのような統制の取れた形態に-物質と物質の相互作用のみで-なりえるその仕組み、特に卵の中に存在して体作りの初期情報を与える母性因子に興味があり、発生学の道に進もうと大学生時代に決意した。研究材料をどの生物にするかについては長い間悩んだが、ちょうどその頃脊索動物ホヤにおいて、卵の後極に局在する母性mRNA posterior end mark (pem)の発見の記事が新聞に出ていた1)。「脊索動物」「モザイク卵」「局在mRNA」というキーワード、pem mRNAの局在の美しさ、卵の扱いやすさ、研究人口が少なく未知の現象が多く残されていることに惹かれ、ホヤを材料にすることを決意して京都大学大学院理学研究科・佐藤矩行教授の研究室を訪れた。
私がホヤの母性因子の研究をスタートさせた当時、ホヤにおいては有効な遺伝子機能破壊の手法は確立されていなかった。ホヤにおいてアンチセンスオリゴDNAやモルフォリノオリゴによる遺伝子機能阻害実験が可能になったのはほんの数年前の出来事である2)3)。それまでは遺伝子のmRNAなどを顕微注入することにより過剰発現させ、遺伝子機能を推定するということが進められていたが、機能のわかる遺伝子はほんの少数であり、ほとんどの遺伝子は機能未知のままであった。遺伝子機能阻害実験が進むにつれ、ホヤ初期発生における遺伝子機能解明は飛躍的に進んだ。
しかしながら、私はこの手法に対していくつかの疑問点があり、遺伝子機能解析の別の手法、特に順遺伝学的な手法の必要性を感じていた。私が研究テーマとしていた母性因子の局在は、卵の中に既に存在しているタンパク質が主役となり引き起こされる。それらのタンパク質の機能阻害はモルフォリノオリゴのような手法では行うことが出来ない。タンパク質をGFPタグ等でラベルして観察するにも、卵形成に関わる因子の場合には卵の形成前からそれらのタンパク質、もしくはそれをコードする遺伝子DNAを導入しなくてはならないため、トランスジェニック動物の作製が必須と思われた。また逆遺伝学的なアプローチでは解析対象とする遺伝子をまず選ばなくてはならず、研究対象の発生現象が予想外の遺伝子により制御されていてもそれを知ることは難しい。オリゴを注入しても発生に影響がなかったり、逆にサイドエフェクトを引き起こすことがあったりと、結果の解釈を困難にするファクターがあることも気がかりであった。モデル生物では当たり前のように行われていた変異体単離がホヤではほとんど行われていなかったことも大きく作用した。そのような理由から大学院博士後期課程の途中でホヤのトランスジェニック体の作製、変異体作製の手法を確立し、その技術を元に発生イベントのメカニズムを解明するという研究に着手した。
材料にはカタユウレイボヤCiona intestinalisを選んだ。このホヤは世代時間が2−3ヶ月とゼブラフィッシュ並みに短く、室内で次世代を得ることが十分可能であった。カタユウレイボヤは世界広く分布し、国内外の多くの研究室が材料に使用している。そのゲノムプロジェクトも進められ、ゲノムサイズや遺伝子数はキイロショウジョウバエ程の大きさで、脊椎動物でしばしば認められる遺伝子の機能重複もほとんど認められない4)。このことから変異体を得る確率が高いことが予想された。我々はカタユウレイボヤの完全閉鎖系での飼育システムを構築し、その後、変異体の作製技術の導入に取り掛かった。

2.カタユウレイボヤにおけるトランスポゾン活性の測定
ホヤの突然変異体を人工的に作製するには大きく分けて2つの手法がある。ENUなどの化学薬品により変異を導入する方法と、外来DNAをゲノムに挿入させて変異を誘発する方法である。一般的には前者の方が変異体作製の効率は高いが、DNAに点突然変異を導入することから変異箇所の同定に時間がかかる。後者はトランスジェニックラインを作製する必要から効率が低いという欠点があるが、変異箇所はPCR法により早く同定できる。化学変異原によるホヤ変異体作製はアメリカやイタリアの研究グループにより進められていたため5)6)7)、我々の研究チームが後者の手法を進めることに疑いはなかった。
外来DNAがゲノムDNAに組み込まれる率は高くないため、その効率を高めるためには特別なエレメントを利用する必要がある。そのエレメントとして現在普及しているのがDNAトランスポゾンである。DNAトランスポゾンはDNAから酵素トランスポザーゼにより切り出され、別のDNAのターゲット配列に挿入されるという「カットアンドペースト」と呼ばれる反応により転移する。DNAトランスポゾンがゲノムDNAに挿入する性質を利用したトランスジェニック生物作製並びに挿入変異体の作製は、キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterにおけるPエレメントの系に代表されるように、極めて有効な手法である。この手法のキーとなるのは、それぞれの生物に適した高活性型のトランスポゾンを見つけることにある。
我々はTc1/marinerスーパーファミリーのトランスポゾンに着目した。このファミリーのトランスポゾンは小さく単純な構造を持ち、配列を改変するのが容易であるという特徴に加え、転移反応には酵素トランスポザーゼで必要かつ十分ということが示唆されていた8)9)。このため、トランスポゾンDNAとトランスポザーゼを導入すれば、カタユウレイボヤ内でもこのファミリーのトランスポゾンが転移することが十分に期待された。Tc1/marinerスーパーファミリーのトランスポゾンにもいくつもの種類が存在するが、我々はその内の一つ、カスリショウジョウバエDrosophila hydeiから単離されたトランスポゾンMinosに着目した10)。Minosは昆虫由来のトランスポゾンであるが、昆虫の他にマウス、ヒト培養細胞で活性が報告されており11)12)、そのホスト非依存的な活性が期待された。
まず我々はMinosのカタユウレイボヤ内における「切り出し」活性をPCR法により検証した13)。Minosを含むプラスミドDNAをトランスポザーゼと共にカタユウレイボヤ内に顕微注入すると、Minosに活性がある場合、トランスポザーゼはプラスミドからMinosトランスポゾンを切り出す。このため、切り出しが生じた分プラスミドの配列は短くなる。また切り出された領域には、トランスポゾンが挿入していたことを示すフットプリント配列が残される。このことをPCR法により検証した結果、確かにプラスミドは短くなり、また切り出しを示すフットプリント配列も残されていたことから、Minosはカタユウレイボヤ内においてDNAから切り出される活性があることが判明した。
続いて、切り出されたトランスポゾンがもう一度DNAに再度挿入されるかどうかを検証した13)。Minosを含むプラスミドと含まないプラスミドをカタユウレイボヤ内にトランスポザーゼと共に導入した。もしMinosに転移活性があるのならば、ある確率でMinosはプラスミド間を移動し、もう一つのプラスミドへと挿入されるはずである。この系を用いてMinosの転移活性をカタユウレイボヤ内で検証した結果、Minosは確かにカタユウレイボヤ内でプラスミドから別のプラスミドへと移動することが示された。また、その転移効率を他の生物と比較したところ、カタユウレイボヤにおける転移活性は昆虫における活性に比べるとやや低いものの、トランスジェニック技術のツールとして十分使用出来ることが期待されるレベルであった。

3.Minosトランスポゾンによるトランスジェニック・カタユウレイボヤの作製
プラスミドから切り出されたMinosがカタユウレイボヤのゲノムに挿入されるのか、そしてその効率が果たしてどの程度のものなのか、そのことは目標である変異体作製を大きく左右する情報となる。そのことを明らかにするため、我々は変態後のカタユウレイボヤの内柱と呼ばれる甲状腺相同器官においてGFPを発現させるDNAコンストラクトをMinosに組み込み、そのMinosベクターを酵素トランスポザーゼと共にカタユウレイボヤに顕微注入した。その顕微注入個体を育て、精子を持った段階で野生型の卵と媒精させ、F1ファミリーを得た。
F1ファミリーを、GFPシグナルを元にスクリーンしたところ、その中に内柱が緑に光る個体を発見出来た14)。この時にはあまりにすんなり実験が進んでしまったため、本当に得られた個体が示す緑のシグナルがGFPに由来するのかどうか、しばらくの間自信が持てなかった。PCRにより確かにF1個体がGFP遺伝子を親から受け継いでいることを確認し、ようやく実験が成功したことを実感できた。この実験では、21ファミリーをスクリーニングし、そのうち30%に当たる7ファミリーがGFPを受け継いでいた。
ホヤでは当時報告されていなかったが、生物内に導入した外来DNAは低い確率ではあるがゲノムに挿入され、次世代に伝えられることが知られている。我々の得たトランスジェニックラインがそのような現象ではなく、トランスポゾンにより引き起こされていることを確認することが重要であった。そのことは、ゲノムに挿入されているMinosの両側に位置するジャンクション配列を同定することにより明らかになる。TAIL-PCR法15)によりジャンクション配列を同定したところ、Minosの末端反復配列の両脇はプラスミドの配列ではなく、カタユウレイボヤのゲノム配列になっており、Tc1/marinerトランスポゾンの特徴である、挿入のターゲット配列であるTA配列の重複が生じていることが明らかとなった。このことより、Minosはカタユウレイボヤ内でトランスポザーゼにより切り出されてゲノム内に挿入され、その挿入が世代を超えて遺伝すること、すなわちトランスポゾンとしてトランスジェニック・カタユウレイボヤを作製する能力があることが明らかとなった。この実験の際、通常であれば同定されたジャンクション配列がカタユウレイボヤのゲノム配列かどうかの判定には時間がかかったであろうが、運のよいことに、私の実験と平行してカタユウレイボヤのゲノムプロジェクトが進められていて4)、ゲノム配列であることの判定には時間を要しなかった。
以上の結果から、Minosを用いたカタユウレイボヤ・トランスジェニックラインの作製が可能であることがはっきりと示された。現在では顕微注入個体のうち約35%がファウンダーとなり次世代にMinos挿入を伝えること、一つのファウンダーから平均して2つの挿入が伝えられることも明らかとなっている。さらに顕微注入法ではなく、より簡単な方法であるエレクトロポレーション法によって挿入ラインを作製するプロトコルも完成している16)。この方法では20分ほどで1000以上の卵にトランスポゾンを導入することが可能であり、大規模挿入変異体のスクリーニングに威力を発揮することが期待できる。MinosはカタユウレイボヤのみならずユウレイボヤCiona savignyiでも活性を持つことも示されており17)、このホヤにおいてもトランスジェニックラインを作製できる。

4.カタユウレイボヤにおけるエンハンサートラップ技術
エンハンサートラップとは、ゲノムに挿入された外来DNA内にあるプロモーターからのレポーター遺伝子の発現が、挿入箇所付近に存在する内在のエンハンサーの支配下に置かれ、レポーター遺伝子の発現パターンが変化する現象である18)。この手法はゲノム中に存在するエンハンサーの同定、組織や器官特異的なマーカーラインの作製、UAS-Gal4システムと組み合わせての遺伝子強制発現系の構築、挿入変異体の作製など、様々な応用性が見込まれる技術であり、Minosトランスポゾンシステムに是非とも導入したいと考えていた。
前述のトランスジェニック・カタユウレイボヤのスクリーニングの際、得られたトランスジェニックラインのうちの一つにおいて、GFPの発現パターンが他のラインのものと大きく異なるラインが得られた13)。通常であれば幼若体の内柱の両端でGFPが発現するのであるが、このトランスジェニックラインでは内柱の全長に渡ってGFPが発現し、またPeripharyngeal band, retropharyngeal bandや鰓の一部というように、通常ではGFPの発現が認められない領域でもGFPが発現していた。このようなGFPの発現パターンの変化の説明として、エンハンサートラップが生じた可能性が考えられた。このラインを詳しく調べたところ、Ci-Musashi遺伝子のイントロンにMinosが挿入されていることが判明した。Ci-Musashiのイントロンにはエンハンサー活性があり、そのためGFPの発現パターンが変化したエンハンサートラップイベントが確かに生じていることが明らかとなった。すなわち、Minosトランスポゾンはエンハンサートラップを引き起こすことができることが判明したのである19)。
カタユウレイボヤではレポーター遺伝子を組織や器官特異的に発現させるマーカーラインはまだほとんど作られていない。特に成体の組織構造は幼生に比べて複雑であり、成体における遺伝子機能解析にはマーカーラインは必須であると考えている。エンハンサートラップラインを作製することにより、これらの充実を目指していきたいと考えている。マーカーラインの充実のためには効率のよいスクリーニング方法の開発が必要であるが、現在ではトランスポゾンのゲノム内でのジャンピングを利用してより効率よいエンハンサートラップスクリーニングが行えるようになっている。また、UAS-Gal4システムを利用し、それらの組織や器官で特異的に目的遺伝子を強制発現させる系を整え、遺伝子機能解析における強力なツールの整備を目指したい。

5.挿入変異体「swimming juvenile」
我々がMinosシステムの構築を目指した大きな理由は遺伝子機能を破壊した挿入変異体を作製することにあった。理論的にはMinosがゲノムに挿入することから、変異体作製は可能である。しかし変異体作製の効率が低ければ、変異体を得るのは至難の業となる。Minosによる変異体作製が現実的なスクリーニングの規模で十分可能であることを示すために、120程度のMinos挿入ラインを作製し、その中から挿入変異体をスクリーニングすることとした。
そのスクリーニングからは2種類のMinos挿入変異体が得られた。効率としては約60のトランスジェニックラインにつき一つ変異体が得られる計算となる。この数値は決して高いとはいえないが、トランスポゾンの配列に変異を誘発する特別な工夫をほとんど施していないことを考慮すると、まずまずの数値であると考えている。遺伝子トラッピング法などを導入して変異率を上昇させれば、変異体を単離する効率は飛躍的に向上することが見込まれる。
変異体の説明の前に、ホヤの変態について説明したい。カタユウレイボヤを含めホヤ類は遊泳性の幼生から固着性の成体へと、その形態を大きく変化させる。これを変態と呼んでいる。遊泳幼生はその体幹部前方に位置する付着突起により岩など固着するのに適した場所に付着する。この付着が刺激となって一連の変態イベントが開始される。ホヤの変態は10以上のイベントからなる複雑なものである20)。大まかには、固着することにより付着突起が消失し、尾部が収縮し体幹部に吸収される。続いてアンプラの形成、体軸がおよそ90度回転する体軸回転、成体組織の成長が生じる。これらの変態イベントは付着刺激を受けるまでは通常スタートしない。またその順序も決まっている。イベントの開始と順序については何らかの制御機構があると予想される。
我々が得た挿入変異体の一つは、幼生がまだ泳ぎ続けている間に体幹部における変態イベントの一部が開始されるというものであった21)。体幹部は変態を開始した幼若体の形態をとるにも関わらず完全な尾部を有して泳ぎ続けることから、この変異体を「swimming juvenile (sj)」と名付けた。この変異体では何らかの原因で、付着シグナル無しで体幹部の変態イベントのスイッチがオンになり、尾部吸収を経ずに体軸回転などのイベントが進行すると推測された。この変異体の原因遺伝子をMinosの挿入箇所をもとに同定したところ、セルロース合成に必須の酵素「セルロース合成酵素Ci-CesA」をコードする遺伝子であるという、意外な事実が判明した。ホヤを含む脊索動物尾索類はセルロースを合成する特異な動物群であり、ホヤでは体を覆う被のうの主成分と考えられている。sj変異体を詳しく観察すると、被のうは失われてはいないもののその形態は異常になり、成分としてのセルロースは確かに失われていることが判明した。被のうは非常に柔らかく、まるでゼリーのようになることから、被のう中のセルロースは被のうに堅さを与えるのに必要であること、被のうはセルロースだけでなく他の成分からも成り立っていることが推測された。sj変異体は成体にまで成長し性成熟もすることから、セルロース自体は生育には不必要であることが示された。但しsj変異体は固着する能力が非常に弱くなるため、野外で生存可能かどうかは疑問である。
sj変異体の表現型は、セルロースがホヤの変態イベントの順序を決めるメカニズムに関与しているという、意外な一面を明らかにした。まだ現段階でははっきりとは言えないものの、おそらくホヤ幼生には、付着するまでは体幹部の変態イベントを抑制する機構が備わっており、その機構にセルロースが必要であると考えられる。また、体幹部の変態イベントと尾部吸収は分けることができるイベントであると考えられる。sj変異体は有意に付着する率が減少し、変態後も固着する能力に劣る。変態は固着生活の開始であり、セルロースは「付着」「変態」「固着生活」という、ホヤを特徴づける一連のイベントに深く関わっている分子であると想像される。セルロース合成酵素遺伝子はバクテリアから水平伝搬によりホヤの祖先生物に取り込まれたと考えられているが22)、この遺伝子の獲得が進化の過程において、ホヤの固着生活スタイルの獲得にどのように影響を与えたのかは非常に興味を持たれる問題である。このような考察のヒントがたった一つの変異体から見えてきたこと、それが「フォワード・ジェネティクス」の醍醐味であろう。この変異体を単離する前、変異体をスクリーニングしながら欲しい変異体のことを夢想していた。一つが泳ぎながら変態してしまうような変態イベントに関する変異体であり、もう一つはホヤのセルロースをメインに研究している同輩と、セルロースができなくなる変異体が取れたら興味深いとお互いに考えていた。偶然ながら、最初の変異体がこの二つをつなぐものとなったことに自分自身驚いている。今後はセルロース合成酵素がどのようなメカニズムで変態に関わっているのか、その機構を詳細に調べ上げ、ホヤの変態メカニズムの全容を解明したいと考えている。幸いなことに、sjと同様の表現型を示す変異体が私の研究グループからあと2つ単離されており、そのうちの一つは原因遺伝子も判明している。突然変異体の解析を軸にすることで、近い将来このことが達成できると信じている。6.おわりに
私がカタユウレイボヤの発生遺伝学の研究をスタートさせてから今年で5年目になる。目標としていた技術、トランスポゾンを用いたトランスジェニックラインの作製、エンハンサートラップ、挿入変異体の単離までの一連の実験について可能になるところまで到達できた。最初はどうすればよいのか全く手探りの状態からの開始であったが、成功することを信じて進めなくてはならない実験を論理的に考え出し、一つ一つ確実に実行していったことがよい結果につながったと思っている。技術的にはさらなる応用が必要であることを痛感しており、トランスジェニックホヤ作製効率の上昇、UAS-Gal4システムの導入、マーカーラインの整備、遺伝子トラップ法による効率のよい挿入変異体の作製といった技術の導入を今後の課題としている。また、この技術を元にカタユウレイボヤの発生現象、特に変態のメカニズム、変態後の形態形成や組織分化の仕組み、生殖細胞形成と母性因子といった、遺伝学的手法を用いなければ解析が困難な発生イベントにおける遺伝子機能の解明、意外な遺伝子の意外な側面での機能の解明を目指していきたい。
本研究を進めるに当たり、非常に多くの方々のご指導・ご協力をいただきました。この場を借りて篤くお礼申し上げます。Minosトランスポゾンはギリシア・Crete大学のCharalambos Savakis教授から頂きました。トランスポゾン実験の多くは、国立遺伝学研究所の川上浩一博士のご指導を賜りました。TAIL-PCR法に関してはスイス・Zurich大学の清水健太郎博士のご指導を頂きました。研究材料のカタユウレイボヤの入手は、京都大学フィールド教育研究センターの皆様、東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センターの皆様、東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターの皆様、広島大学大学院理学研究科附属臨海実験所の皆様、高知大学海洋生物教育研究センターの皆様、高知大学・藤原滋樹教授のご協力を賜りました。海水は神戸市立須磨海浜水族園の皆様にご提供頂きました。本研究は京都大学大学院理学研究科・動物学教室並びに私の現所属の筑波大学・下田臨海実験センターにて行われました。両研究室・研究所のスタッフ、先輩、同輩、後輩の方々に深く感謝いたします。特に稲葉一男教授、真壁和裕教授、佐藤ゆたか博士、久保田洋博士、高橋弘樹博士、小笠原道生博士、川島武士博士、平山和子氏、岡田芳和氏には、研究生活を進めるに当たり様々なサポートを賜りました。研究は粟津智子博士、松岡輝実氏、大貝悠一氏、東順一教授、千葉章太博士、狩野俊吾博士、将口栄一博士、中島啓介博士、中山晶絵博士、佐々木あかね氏との共同研究により進められました。最後に本研究のみならず、私の大学院生時代、ポスドク時代、現在の研究生活を公私両面で支えて下さっている京都大学・大学院理学研究科・佐藤矩行教授に心から感謝いたします。

文献
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