2018年度論文賞

6月2日(土)北海道大学東京オフィスで開催されました日本動物学会理事会において、ZS編集委員会より、平成30年度Zoological Science Award候補論文について、5編の論文が推薦されました。理事会での審議の結果、以下5編の論文に平成30年度Zoological Science Awardの授与が決定されました。
                             日本動物学会
 
【選考経過報告】
2018年4月23日にZoological ScienceのAssociate EditorsおよびAdvisory Board Members 全員に、それぞれ候補論文の推薦(2017年 (Vol. 34) 中の発表論文のうち1〜数編、推薦〆切5月18日)をe-mailで依頼した。5月18日までにEditor-in-Chief 1名、Associate Editors17名、Advisory Board Members 3名より計38件、重複を除き計23件の論文が推薦された。この推薦論文リストに基づきEditor-in-Chief およびAssociate Editorsで、複数の推薦を受けたもの、科学的内容の妥当性と重要性、動物学への顕著な貢献などに基づいて審議をおこなった結果、以下の5件を授賞候補論文として理事会に報告する。
 
【授賞論文】
Clock and Hormonal Controls of an Eclosion Gate in the Flesh Fly Sarcophaga crassipalpis
Miki Yamamoto, Koji Nishimura and Sakiko Shiga
Zoological Science 34(2): 151–160.
多くの昆虫において、羽化は一日の決まった時刻に起こり、その時間帯は「羽化ゲート」と呼ばれる。これまで羽化ゲートに概日時計が関わることや、羽化を引き起こす一連のホルモンカスケードが知られているものの、概日時計からのシグナルがいつ、どのような分子によって引き起こされるのかはわかっていなかった。本論文では、明瞭な羽化ゲートをもつシリアカニクバエを用い、低温パルスを用いる羽化リズムの位相反応実験から、概日時計が羽化タイミングを決めるための指令を、羽化開始の4.5時間前より後に出すことが示唆された。20-hydroxyecdysone投与は羽化の遅延を引き起こしたが、その感受性は羽化前12時間以降にはみられず、エクジステロイドとは別の分子の関与が示唆された。これらの知見は、概日時計が脱皮に関連した行動発現のタイミングを設定するメカニズムの理解に大きく貢献するものである。
 
A Novel Symbiotic Ciliate (Ciliophora: Peritrichia) in the Hindgut of a Stag Beetle (Coleoptera: Lucanidae)
Masahiko Tanahashi, Xian Ying Meng and Takema Fukatsu
Zoological Science 34(3): 217–222.
組織学的、超微細構造的、および分子系統学的な解析により、クーランネブトクワガタの成虫の腸管に共生する、ツリガネムシ類に近縁な繊毛虫を発見した。これまでに報告されてきたツリガネムシ類の近縁繊毛虫は全て水生であり、それらが動物に共生している場合、体表性あるいは外部共生である。本研究は、水生の繊毛虫と陸生昆虫との共生に関する以下のような多くの謎を提起した。どこから繊毛虫はやってきて、どのように後腸内へ共生するのであろうか?繊毛虫は外部から獲得するのであろうか、それとも垂直伝搬によるのであろうか?両者の関係は寄生なのか、片利共生なのか、それとも相利共生なのであろうか?今後の進展が大いに期待される重要な研究成果である。
 
Laterality is Universal Among Fishes but Increasingly Cryptic Among Derived Groups
Michio Hori, Mifuyu Nakajima, Hiroki Hata, Masaki Yasugi, Satoshi Takahashi, Masanori Nakae, Kosaku Yamaoka, Masanori Kohda, Jyun-ichi Kitamura, Masayoshi Maehata, Hirokazu Tanaka, Norihiro Okada and Yuichi Takeuchi
Zoological Science 34(4): 267–274.
魚類の左右性の進化生態学は、日本発の高いオリジナリティーを有する研究分野の⼀つといえる。本論⽂は、様々な魚類分類群における左右性を網羅的に解析し、系統樹にマッピングして進化プロセスを解析することで、魚類における左右性の普遍性を示した記念碑的成果である。独自の視点から地道に観察知⾒を蓄積していくという動物学的な手法によって達成されたものであり、論⽂賞に相応しい研究である。
 
External Asymmetry and Pectoral Fin Loss in the Bamboo Sole (Heteromycteris japonica): Small-Sized Sole with Potential as a Pleuronectiformes Experimental Model
Qiran Chen, Masako Takagi, Makoto Mogi, Miki Kikuchi, Yudai Saito, Shunya Nakamura, Hayato Yokoi, Tadahisa Seikai, Susumu Uji and Tohru Suzuki
Zoological Science 34(5): 377–385.
カレイは、眼の位置や体表の色などに極端な形態的左右非対称性を示す真骨魚類である。カレイ目ササウシノシタ(Heteromycteris japonica)は、これらのカレイ特有の左右非対称性に加え、稚魚から仔魚への移行期(変態期)に胸鰭を消失するという特徴がある。本論文では、このようなユニークな形態学的特徴の形成メカニズムを理解することを目標に、ササウシノシタの胚段階から稚魚期に至る飼育系を確立したのみならず、真骨魚類の発生学研究で必要とされる受精卵へのマイクロインジェクション法の確立にも成功した。本研究は、カレイ目を題材とした新たな発生学的研究の道を開いただけでなく、水産学の分野でも高い貢献が期待される。
 
Laboratory Rearing System for Ischnura senegalensis (Insecta: Odonata) Enables Detailed Description of Larval Development and Morphogenesis in Dragonfly
Genta Okude, Ryo Futahashi, Masahiko Tanahashi and Takema Fukatsu
Zoological Science 34(5): 386–397.
実験室内での効率的な飼育システムの開発はモデル動物種の確立に欠かせない最初の難関である。とりわけトンボは、幼虫期の共食いや成虫期の活発な飛翔行動などのために大量飼育が難しく、モデル種の確立が困難であった。本論文で著者らは、アオモンイトトンボ (Ischnura senegalensis) をモデル種の候補とし、実験室内での効率的な飼育方法を確立するとともに、その方法を用いて、幼虫から成虫までの発生イベントのタイミング、生存率、形態的特徴の変化を詳細に記載している。本研究は、アオモンイトトンボをモデル種としたトンボ研究の発展を大いに期待させる動物科学の基礎研究である。
 

<< 戻る >>



*