平成22年度 動物学会賞等の選考を終えて
 
社団法人日本動物学会         
学会賞等選考委員会 委員長 筒井和義

平成22年度の学会賞、奨励賞、女性研究者奨励OM賞の授与候補者を選考する学会賞等選考委員会が5月1日(土)、TKP大手町カンファレンスセンターのWEST ミーティングルームにおいて開催された。選考は 内分泌、形態・細胞、生理、発生、生化学・分子生物学、生態・行動、分類・系統・遺伝・進化の各分野から7名(七田芳則、小泉修、真行寺千佳子、窪川かおる、寺北明久、田村宏治、筒井和義)の選考委員が全員出席して行われた。学会賞は9名、奨励賞は10名、OM賞は6名の応募があった。尚、奨励賞とOM賞では同一会員の重複応募があった。それぞれの賞の選考規程に基づき、推薦書(学会賞と奨励賞)と申請書(OM賞)の内容を詳細に審議した。最終的には、全員一致で、学会賞2名、奨励賞3名、OM賞2名の会員を候補者として推薦することとした。
平成22年度日本動物学会賞

応募者は9名であった。動物学は広範な学問領域からなるが、ほとんどの応募者はそれぞれの領域を代表する優れた研究者であり、選考規程にある「学術上甚だ有益で動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をなす業績をあげた研究者」の条件を満たしていた。その結果、高い水準での審議となった。選考は困難を極めたが、応募者の研究内容、研究業績、動物学の進歩発展への貢献度について詳細に審議した結果、2名の候補者を理事会に推薦することとした。

受賞者氏名・所属
深津武馬(ふかつ たけま)・産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門
対象となった研究テーマ
共生微生物が宿主昆虫に賦与する新規機能の解明

高橋孝行(たかはし たかゆき)・北海道大学大学院理学研究科
対象となった研究テーマ
メダカにおける排卵機構の解明

推薦理由

深津武馬会員は、昆虫等の体内に存在する共生微生物に着目した独創的研究により、共生微生物が宿主昆虫に賦与する新規の生物機能を明らかにした。共生微生物は興味深い生物機能と生理活性を有するが、培養が困難であるために研究が進んでいなかった。しかし、深津武馬会員は分子生物学、細胞生物学、生理学、生態学、進化生物学などの多彩なアプローチ法を導入することで、この困難を克服した。生物間共生および相互作用を詳細に調べた深津武馬会員の研究により、共生微生物が宿主昆虫に賦与する新規の生物機能が明らかになった。さらに、深津武馬会員は、多彩なアプローチ法により、共生機構とその進化的意義に関する研究を実施して、他の追随を許さない独創的成果を数多くあげた。特に、「共生微生物から宿主昆虫へのゲノム水平転移」、「宿主−共生体共進化および縮小ゲノム進化」、「共生微生物による昆虫の植物適応の変化」、「必須栄養共生細菌ボルバキア」などの発見は抜群の学術的成果であり、国際的一流誌から数多くの研究成果が掲載されている。深津武馬会員の研究は生物多様性と進化生物学の分野を先導するものとして世界的に高い評価を受けている。「生物共生進化機構の理解」を著しく進展させた深津武馬会員の研究は、学会賞として相応しいと判断し、候補者として推薦する。

高橋孝行会員は、モデル生物であるメダカを巧みに使用して、長く不明であった脊椎動物の排卵に関わる排卵酵素(MT1-MMP、MT2-MMP、ゼラチナーゼAなど)を世界に先駆けて発見した。有性生殖を行う生物において、排卵とは受精前に完了しなくてはならない重要なイベントである。排卵研究の歴史は古く、これまで主として哺乳類を用いて数多くの研究が行われてきたが、排卵酵素の実体は不明であった。高橋孝行会員の排卵酵素(MT1-MMP、MT2-MMP、ゼラチナーゼAなど)の発見は国際的に非常に高く評価されている。この発見にとどまらず、詳細な生化学的解析により、その作動機構を解明したことは特筆すべき業績である。さらに、高橋孝行会員の最近の内分泌学的研究により、黄体形成ホルモン(LH)を引金として連動して誘起される卵成熟と排卵の機構が分子レベルで解明されようとしている。このように、高橋孝行会員の優れた研究は、生化学を基盤とするが、内分泌学、生理学、細胞生物学など広い分野を包含するものであり、国際的一流誌から数多くの研究成果が掲載されている。「脊椎動物における排卵機構の理解」を著しく進展させた高橋孝行会員の研究は、学会賞として相応しいと判断し、候補者として推薦する。


 
平成22年度日本動物学会奨励賞

応募者は10名であった。いずれの応募者も、選考規程にある「活発な研究活動を行い将来の進歩発展が強く期待される若手研究者」の条件を満たしており、学会賞と同様に高い水準での選考となった。応募者の研究内容、研究業績、将来の発展性について詳細に審議した結果、3名の候補者を理事会に推薦することとした。

受賞者氏名・所属
小柴 和子(こしば かずこ)・東京大学分子細胞生物学研究所
対象となった研究テーマ
心臓心室中隔獲得に関わる分子機構の解明

受賞者氏名・所属
北野 潤(きたの じゅん)・東北大学大学院生命科学研究科
対象となった研究テーマ
トゲウオ科魚類における適応と種分化の遺伝機構

受賞者氏名・所属
佐藤 明子(さとう あきこ)・名古屋大学大学院理学研究科
対象となった研究テーマ
ショウジョウバエ視細胞の構造形成と機能維持機構の解明

推薦理由

小柴和子会員は、「なぜ心臓形態に多様性があるのか?」「肺循環と体循環の分離において心臓形態はどのようにして進化したのか?」との疑問から研究を開始した。これまで曖昧な記載しかなされていなかった爬虫類の心臓心室形態には3種類の形態(両生類型、鳥類型、中間型)が存在すること、さらに、この多様な形態の獲得にはTbx5という転写因子の機能が直接関与していることを明らかにした。この研究成果は国際的一流誌の表紙に取り上げられている。次に、小柴和子会員は、新しい3次元構築法を用いて複雑な心臓形態を観察し、心室中隔形成の候補因子であったTbx5 mRNAの発現パターンとその発現量を様々な生物種で比較した。この種間の比較解析に基づいて、カメ様発現するTbx5トランスジェニックマウス(tutleTbx5TG)やアノール様発現をするanoleTbx5TGマウスを作成して、心室中隔の形成の実証研究を行った。小柴和子会員の精力的な研究は進化発生生物学において新たな側面を切り開くものであり、将来の進歩発展が強く期待されるとの高い評価を得た。

北野潤会員は、トゲウオ科魚類のイトヨをモデル系として、「種分化と適応進化の分子遺伝機構」に関する最先端の研究成果を数多くあげた。近年、この研究分野は急速に進展しており、生物多様性の保全からも注目されている。特定の手法や分野にとらわれることなく、地道な記載研究から始まり、遺伝学、生態学、行動学、生理学などの複数の手法を駆使して、「種分化と適応進化の分子遺伝機構」と取り組んだ北野潤会員の研究は、世界的に高い評価を受けている。まず、日本海型と太平洋型イトヨが種分化の研究に最適であることを記載研究で明らかにした。次に、これら2型のイトヨの間に働く生殖隔離機構を解析して、日本海型と太平洋型は性染色体転座により性染色体構造が分化することや、その領域に雑種不妊および行動隔離に重要な求愛行動の遺伝子が集積することなどを明らかにした。これらの一連の研究成果は国際的一流誌に掲載されており、研究内容と将来の発展性が高く評価された。

佐藤明子会員は、独自の発想によるショウジョウバエの視細胞を用いた研究により、「神経細胞の構造形成と機能維持機構の理解」を著しく進展させた。神経細胞の構築とタンパク質輸送系の関係を調べるために、形質転換技術や電子顕微鏡技術を導入し、Rabタンパク質をモデルとした小胞体−ゴジル体間の小胞輸送の解析を成功させた。次に、独自に開発した解析法により、形態形成が最も盛んな蛹期の視細胞を用い、タンパク質や小胞の輸送に関する研究を精力的に行った。特筆するべき業績は、佐藤明子会員が確立させたRabタンパク質変異体の実験系を駆使した研究により、Rab11による視物質のポストゴルジ輸送と光受容膜形成の制御を明らかにしたことである。さらに、この光受容膜形成過程において、視物質を含む小胞がアクチン繊維束に結合して輸送されることや、Rab11がミオシンVと複合体を形成することなどを、次々と明らかにした。以上の研究成果は国際的一流誌に掲載されており、研究内容と将来の発展性が高く評価された。



 
平成22年度女性研究者奨励OM賞

女性研究者奨励OM賞は、「女性研究者による動物学発展への新たな試みを奨励することを目的としており、特に、安定した身分で研究を続けることが困難であるが、強い意志と高い志を持って研究に意欲的に取り組もうとする優れた女性研究者」に贈られる。応募者は6名であった。その内、小柴和子会員は奨励賞の候補者として推薦が決まったため、選考の対象外とした。OM賞の趣旨に基づき、5名の応募者の研究内容、研究に対する姿勢、研究環境等を詳細に審議した結果、2名の候補者を理事会に推薦することとした。

受賞者氏名・所属
中谷 友紀(なかたに ゆき)・東京工業大学大学院生命理工学研究科
対象となった研究テーマ
種の異なる魚類間で腹ビレの多様性をもたらすメカニズムの解明

受賞者氏名・所属
柴田 朋子(しばた ともこ)・東京大学大学院理学系研究科
対象となった研究テーマ
動物の進化過程における再生様式の変遷

選考理由

応募者の研究内容はいずれも優れたものであった。中でも、中谷友紀会員は非常勤研究員、柴田朋子会員は短期契約のポスドクであり、共に安定した身分で研究を続けることが困難な状況にありながら、研究に対する情熱を失うことなく研究を継続して優れた業績をあげている。特に、この2名については、OM賞の性格から重視すべき点として上げられる、研究者としての独立性、研究内容と動物学との関連、Zoological Scienceや学会大会での発表、研究遂行における様々な障害の有無と研究姿勢、将来性のいずれにおいても高く評価された。


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