まず血液型物質について説明しましょう。血液型とは、ヒト赤血球表面に発現し、多様性を示す一群の抗原の総称です。ABO式、ルイス式、Rh式などの血液型物質が含まれます。その中でも、ABO式やルイス式血液型抗原は、赤血球膜上にある糖脂質や糖タンパク質の糖鎖構造の多様性により抗原性が規定されます。赤血球だけでなく、体液や粘膜分泌液の糖脂質や糖タンパク質にも同じ型の抗原が発現しています。ABO型の糖鎖抗原の違いは、糖鎖の末端に結合している糖が、N-アセチルガラクトサミン(A型)、ガラクトース(B型)、末端の糖がひとつ少ない(O型)かで、決まります。従って、すべてのヒトがO型抗原を持っていることになります。そのため、O型抗原のことをH型抗原(human 型抗原)とも呼びます。なお、H型抗原を持たないヒトがわずかにいます。したがって、ABO型のヒトのもつ糖鎖抗原はカッコの中のようになります。A型(A抗原、H抗原)、B型(B抗原、H抗原)、O型(H抗原)、AB型(A抗原、B抗原、H抗原)。じつは、B型抗原を作る酵素は、もとはA型抗原を作る酵素(N-アセチルガラクトサミン転移酵素)であり、わずかの遺伝子変異が生じてB型抗原を作る酵素(ガラクトース転移酵素)になったものです。さらにその酵素に変異が生じて転移酵素の活性を失ってH型抗原のままで糖鎖形成が終わったものがO型です。 次に血液型に対する抗体を説明します。それぞれの型のヒトの血液中に存在する抗血液型抗体はカッコのようになります。A型(抗B抗体)、B型(抗A抗体)、O型(抗A,抗体、抗B抗体の両方存在)、AB型(抗A抗体も抗B抗体もなし)。H型抗原にする抗H抗体を作る免疫細胞は、免疫細胞の成熟過程で除かれます。自己抗原に対する抗体を作る免細胞は除去される仕組みがあるからです。同じように、A型のヒトには、抗A抗体を作る免疫細胞はありませんし、B型のヒトには、抗B抗体を作る免疫細胞はありません。 それでは、なぜ、A型のヒトが一回もB型の血液を輸血していないのに、大量の抗B抗体を血中に持っているのでしょうか。あるは、なぜ、B型のヒトが一回もA型の血液を輸血していないのに、大量の抗A抗体を持っているのでしょうか。それは、私たちの環境に存在する種々の細菌のためです。ヒトは日常生活で種々の細菌と共生し、かつ食物と同時に腸内に取り入れています。細菌の細胞壁には、ヒトABO式抗原と類似の糖鎖構造を有するものがあります。こうした細菌の表面抗原と私たちの免疫系が反応して、A型抗原のないヒト(B型)は、抗A抗体を産生し、B型抗原のないヒト(A型)は抗B抗体を、O型のヒトは、抗A抗体と抗B抗体をつくります。このような抗体は自然抗体と呼ばれ、多くの場合はIgMと呼ばれるクラスの抗体です。なお、AB型のヒトには抗A抗体や抗B抗体もないので、細菌に対する免疫力が劣るかというと、そんなことはありません。細菌表面には他の抗原も存在しますので、これらの抗原に対する抗体が作られて、感染防御に役立っています。(文責:SK)
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