成茂動物科学振興賞受賞者発表

2020年 成茂動物科学振興賞 受賞者発表

ポスター発表

講演者:
鈴木 大地  SUZUKI, Daichi(自然科学研究機構生命創成探究センター・日本学術振興会特別研究員 PD)
ヤツメウナギ視覚系の発生と神経機能の研究
On the development and neural function of the lamprey visual system.

外界を映像として認識する視覚(像形成視)の獲得は、脊椎動物の成立とその後の繁栄の原因となった、進化史上の一大イベントであった。また近年、像形成視の獲得こそが原初的な意識が進化した主要因だったとする説も提唱されている(ファインバーグ&マラット『意識の進化的起源』、同著者『意識の神秘を暴く』を参照)。
脊椎動物のbasal most groupである円口類に属すヤツメウナギでは、脊椎動物の祖先形質が数多く保存されているだけでなく、長い幼生期と変態を経て眼点様の未発達な眼が像形成視の可能なカメラ眼に発達する。私は、このユニークな視覚発生を見せるヤツメウナギに着目し、進化発生学的アプローチと神経生理学・神経行動学的アプローチの両面から研究を進めてきた。
まずヤツメウナギ初期幼生に見られる視神経の発生過程について調べた結果、初期視神経は他の大部分の脊椎動物が主な視覚中枢とする中脳視蓋には投射せず、間脳の視蓋前域と呼ばれる領域に投射することがわかった。また、この初期幼生の視覚系とナメクジウオの視覚系との類似性から、ヤツメウナギ初期幼生の視覚系では(祖先的な)原索動物型の特徴が保存されている可能性が示唆された。また視蓋において網膜位置特異性の形成に寄与するEphの発現勾配も後期幼生以降で観察されること、外眼筋の発生も胚発生期には見られず、幼生期を通じて段階的に形成されることも判明した。以上の研究から、ヤツメウナギでは眼だけでなく、視神経投射や外眼筋を含めた視覚系全体で、原索動物型(像形成視なし)から脊椎動物型(像形成視)への段階的な発達が起こることがわかった。
次に視覚系の起源を機能の面から明らかにするため、ヤツメウナギ成体の視覚運動制御について研究した。眼−脳灌流標本を用いて、脊髄腹根からの運動出力など、任意の領域から神経活動を記録しつつ、標本の横に設置したコンピューター画面にさまざまな視覚刺激を提示した。その結果、視覚刺激の種類に応じて指向性または忌避性の反応が引き起こされること、指向性/忌避性の反応の違いは同側と対側の脳幹に投射する視蓋ニューロンの発火様式の違いに起因することを明らかにした。今後は、初期幼生の視覚系の神経機能や上記の視蓋ニューロンの分化過程の分析をはじめ、ヤツメウナギの段階的視覚形成についてさらに研究を進めることで、脊椎動物における視覚系の進化的起源についてより詳細な描像を明らかにしたいと考えている。
以上の研究は、和田洋教授(筑波大学)、Sten Grillner教授(スウェーデン・カロリンスカ研究所)をはじめ、多くの方々から多大なるご協力、ご支援のもとに遂行できた。ここに深謝の意を表する。今後も動物学に新たな視点をもたらすようなユニークな研究を行い、その発展に貢献したい。