女性研究者奨励OM賞受賞者発表

2020年 女性研究者奨励OM賞 受賞者発表

ポスター発表

講演者:
内田 有希  UCHIDA, Yuki(奈良女子大学 研究院生活環境科学系・助教)
メントールによる褐色脂肪活性化に対するエストラジオール作用メカニズムの探索
The effect of estradiol on the activation of brown adipose tissue induced by menthol.

私は女性の体温調節について一貫して研究を行ってきた。更年期障害における体温調節障害、冷え症は、女性ホルモン(エストラジオール、プロゲステロン)欠乏が原因と考えられるが、そのメカニズムは明らかではない。エストラジオールは視床下部体温調節中枢である内側視索前野に作用し、卵巣摘出ラットの尾部皮膚温を低下させ、寒冷時に熱放散を抑制し、体温を保つことを明らかにした。また、エストラジオールは、卵巣摘出ラットの体温調節行動を促進すること、その反応に脳の島皮質神経活動が関与することを神経科学的手法により明らかにした。この研究では、行動性体温調節の行動指標に、私が報告したラットの自然な体温調節行動“tail-hiding behavior”を用いた。これらから、エストラジオールは雌の自律性、行動性体温調節に寄与すること、エストラジオールは中枢に作用することが示唆された。次に、エストラジオールの末梢温度受容分子への作用を検討した。感覚神経に発現する冷受容分子としてTRPM8、TRPA1が知られている。雌ラットにおいて、エストラジオールはメントール(TRPM8作動薬)刺激時の体温上昇を減弱させたが、シナモアルデヒド(TRPA1作動薬)刺激時の尾部皮膚温低下に影響しなかったことから、エストラジオールは雌のTRPM8を介した体温調節に影響することが示唆された。そこで、実験動物で認められた反応が女性でも発現するのか調べる為、若年女性を対象に、月経周期がメントール塗布時の皮膚温調節に与える影響を検討した。若年女性で月経周期中の早期卵胞期(高エストラジオール濃度)は、月経期や黄体期より、メントール塗布時の足趾皮膚温変化量が低下すること、また早期卵胞期のみメントール塗布箇所が寒くて不快と申告することを明らかにした。すなわち、女性の月経周期は末梢温度受容分子TRPM8を介した体温調節に影響すること、そのメカニズムに高エストラジオール濃度が関与することが示唆された。一連の研究は、エストラジオールの女性の自律性、行動性体温調節への作用を、中枢(脳)と末梢の観点から、また、動物及びヒトを対象とした実験で統合的に明らかにした。
肥満や「メタボ」は社会問題となっている。近年、肥満解消の為に、体熱産生し、代謝を上げる特殊な脂肪「褐色脂肪」が注目され、薬剤や食物成分による褐色脂肪の活性化は、肥満改善の新たな方法として注目されている。私は雌ラットにおいて、ミントの成分であるメントールが卵巣摘出ラットの体温を上昇させることを明らかにした。この結果は、メントールが体熱産生を上昇させることを示している。しかし、エストラジオールはこの反応を抑制することも報告した。メントールは熱産生関連因子を上昇させた可能性があり、エストラジオールはその作用を減弱させたと考えられる。本研究ではメントール投与時のエストラジオールの冷受容分子、褐色脂肪の熱産生関連遺伝子群の発現への作用を検討し、女性の肥満改善におけるエストラジオールの修飾を明らかにする。今後も女性の健康な生活を創出する温熱生理学研究を推進したいと考えている。

竹田 典代  TAKEDA, Noriyo(広島大学院総合科学・共同研究員)
光刺激を介したクラゲ卵成熟誘起ホルモンの同定と配偶子放出機構
Identification of Maturation-Inducing-Hormone and light-mediated gamete releasing mechanisms in Hydrozoan jellyfish.

クラゲは生存期間中、毎日光刺激に応じて放卵・放精を行う。主に、暗期から明期への光状態の変化で放卵する明タイプと明期から暗期への光状態の変化で放卵する暗タイプの2タイプが存在する。いずれのタイプのクラゲも、明または暗の光刺激を受けると、卵巣内の卵母細胞が卵成熟(減数分裂)を開始し、減数分裂を完了した卵が放出される。私たちは明タイプのClytiaクラゲおよび暗タイプのエダアシクラゲ両タイプにおいて、W/RPRa(末尾のaはアミド化を示す)が卵成熟誘起ホルモン(Maturation Inducing Hormone: MIH) であることを明らかにした。W/RPRaは神経性のペプチドで、W/RPRa神経細胞に含まれる。W/RPRa神経は卵巣上皮層に網目状に広く存在し、光刺激に応じてW/RPRaを放出することが分かった。また、オスクラゲもW/RPRa神経を持ち、W/RPRaによって放精が誘起されることが明らかとなった。さらに、ClytaクラゲにおいてはWPRPa神経細胞には、光受容タンパク質である Opsin9が特異的に発現しており、Opsin9ノックアウトクラゲはMIHが放出されないため、光刺激に応じた放卵を行うことができないことが明らかになった。この結果から、Clytiaクラゲでは卵巣上皮層に存在する一部の神経細胞が、Opsin9を含む光受容物質により主に青色光を受容して興奮し、WPRPaなどMIHを放出すると考えられる。
クラゲのMIH放出経路は神経系のみを介したシンプルな経路だが、ヒトデでは「神経系−ろ胞細胞」を介した経路、両生類や魚類では「神経系−脳下垂体−ろ胞細胞」を介した経路となっており、体制・構造が複雑になるにつれ経路が複雑になることが示唆された。クラゲのシンプルな卵成熟・配偶子放出制御機構を明らかにすることにより、本機構の原型や系統進化との関係の理解につなげたいと考えている。