動物の⽣理学 -分⼦メカニズムと多様性- 書評

動物の⽣理学 -分⼦メカニズムと多様性-
岡良隆、神⾕律、久保健雄、⽵井祥郎 著、丸善出版、2023 年1 ⽉,242 ⾴,本体3800 円
(税別)

本書は、近年の研究成果を取り⼊れた上で、細胞における⽣体シグナルから感覚受容・運
動機能・中枢神経、さらには代謝やホメオスタシスに関する個体レベルの⽣理学について端
的に解説した良書である。本書は、動物⽣理学者を志す⼤学学部⽣や⼤学院⽣だけでなく、
動物⽣理学以外の⽣命科学者にとっても活⽤できうる内容となっている。

第⼀章は「全章の理解の基礎」と位置付けて(まえがきより)、細胞の⽣体シグナルの機
構を概観している。細胞の構造の解説から物質輸送、エンドサイトーシス、シグナル分⼦と
その受容体の解説、カルシウムイオンに着⽬した細胞機能の解説が⾏われている。第⼆章は
感覚受容に関する解説がなされている。具体的には機械受容(⽪膚、⾻格筋、聴覚器官)、
化学受容(臭覚、味覚)、光受容(視覚)が取り上げられている。第三章では、運動に焦点
があてられており、細胞⾻格からモータータンパク質の働き、⾻格筋、⼼筋、平滑筋の収縮、
鞭⽑・繊⽑の運動まで扱われている。第四章では、中枢神経系の⽣理学と題して、神経系の
形態的特徴から神経細胞の電気⽣理学的知⾒、また神経回路の解説までおこなわれている。
第五章では、動物、特に哺乳類の代謝に焦点が当てられ、酵素反応に関する⼀般的な解説か
ら、解糖系や電⼦伝達系、脂質やアミノ酸代謝について説明されている。最終章である第六
章では、ホメオスタシスをキーワードとして⾃律神経系、内分泌系、免疫系の⼀般的な解説
がなされ、さらに⾎液循環や、⽔と塩類の吸収・排出に関するホメオスタシス、呼吸系・体
温系のホメオスタシスが述べられている。昆⾍を研究対象として扱っている⾃分としては、
第六章において哺乳類だけでなく、その他の脊椎動物や無脊椎動物も取り上げられており、
幅広い分類群間で⽐較することができることは⾮常にうれしく思う。その他の章でもweb
ページにおいて哺乳類以外の種における⽣理学研究に触れられていることは⾮常に興味深
い。以上のように動物⽣理学の内容が網羅的かつコンパクトにまとまっており、低価格であ
ることも踏まえると動物⽣理学を学びたい読者にとっては⾮常に価値の⾼い本であるとい
えるだろう。

左倉 和喜(基礎⽣物学研究所 進化発⽣研究部⾨)

動物の生理学 書評(PDFファイル)

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