多様性の内分泌学 書評
竹井祥郎・溝口 明著 丸善出版 令和3年10月30日発行
本書は、脊椎動物のみならず、無脊椎動物も含めた多様な動物種における多様なホルモンや内分泌現象について、幅広く取り扱ったものです。本書では、従来の図書にある内分泌器官の発生学や形態学については勿論のこと、各ホルモンとその受容体が関わる現象を生理学的な観点で述べることに止まらず、近年の分子生物学的な研究から分かった最新の知見にまで踏み込んで書かれています。これほどまでに膨大な内容が、2人の著者のみで書かれていることには大変な驚きを覚えます。本書は、ホルモン研究を始める大学院生や学部生への入門書になると同時に、他書では見られない内分泌現象の進化を取り扱っていることから、様々なホルモン研究を行う研究者にとっても、比較内分泌学という新たな内分泌学分野を知ることで、多角的な視点から既知の内分泌現象を考えるきっかけとなる一冊になると思います。
本書は、大きく4部に分かれており、I部はホルモンや内分泌現象に関する基礎知識が概説された後に、II部とIII部では、I部を踏まえた脊椎動物と無脊椎動物のホルモンとその受容体が関わる内分泌現象が幅広く紹介されています。これほど多くのホルモンの歴史と最新の知見が一冊にまとめられた図書は類がなく、非常に読み応えがあります。また、脊椎動物と無脊椎動物のそれぞれを専門とする研究者にとっては、両動物門における内分泌現象の多様性のみならず、意外な保存性や共通性も感じられることでしょう。そして、IV部は、比較内分泌学分野のリーダーとして長年に渡り活躍された筆者の竹井祥郎先生と溝口明先生が、内分泌現象の起源と進化をその幅広い知識と観点から的確に捉えて書かれた本書の真骨頂とも言えるものです。本書を読むことで、内分泌分野の研究者はもちろんのこと、それ以外の分野の研究者も、内分泌現象を総合的に理解するにあたっての比較内分泌学の重要性を知ることができると思います。
矢澤隆志(旭川医科大学生化学講座)