『新種発見物語』 -足元から深海まで11人の研究者が行く!- 書評
島野智之、脇司 編著、岩波ジュニア新書、2023年3月、254頁、本体1120円(税別)
「足元から新海まで11人の研究者が行く!」という副題の通り、驚きと喜びに満ちた新種発見の物語が11名分、みっちり紹介されている。この突き進み方や他の者の追随を許さないエネルギーの高さは圧巻である。さらに巻末の「知識メモ」は、研究室に入ってから知るような、これからの研究者人生から切っても切れない大切なことがらばかりなのにも、編集した先生方の「こっちの水は甘いぞ」という生物屋愛を感じる。これが大学での専門や進路に悩んでいる高校生諸君の目に触れるようになるとは、本当に嬉しい限りだ。
ネットにつながっていれば何でも調べがつく今、目的としたものが明らかであれば比較的簡単に検索可能だ。ただ、この「生物の〜屋」である研究者の生態や活動、研究内容の本当のところまでは調べはつかないだろう。この本を一読すれば、生物屋の具体的な生態、どうすれば生物屋の一員になれるかも明らかになり、迷える生徒諸君の一筋の光になること請け合いである。そして、新種発見は生物屋の生態の根幹で、その原動力が他人とは目のつけどころが違う、ほんの少しのきっかけ、好奇心の賜物だということも同時に理解できるのは本当にありがたい。
新種発見とは生物屋の成果の最たるものだ。目下2023年度上半期のNHK朝ドラの『らんまん』の主人公として取り上げられている牧野富太郎博士がずいぶん昔に具現化していることでも明らかである。他の人からすれば、どうしてその生き物なのか理解に苦しむような、ある種「普通ではない」興味・関心・好奇心を持ち合わせている人が、その道のプロの研究者として自分のエネルギーや情熱・時間を駆使してその周辺の知識を得ながら、手を動かして(実験や観察を行って)周囲の共感や運を引き寄せてしまう、という具体例だ。
この11名の生物屋の先生方も、専門や研究の仕方は違うものの、好奇心やある種の偏愛、情熱で新種発見という快挙を成し遂げている。どの方の話にも、他人とは違うエネルギーの高さや「生物屋あるある」ばかりだ。最初から最後まで、そのエネルギーの高さに当てられ(毒され?)ながら、あたかも自分がその新種発見に携わっているかのような錯覚を覚え、ハラハラドキドキさせられ、大変興奮した。読了したとき、ただ読んだだけなのに心地よい疲労感を覚えたと、書き添えておく。
真実は小説より奇なり。「生物屋」の研究者を目指そうと決めたり、迷ったりしている高校生や専門を決めかねている学部生諸君、良書なので、一度手に取って生物屋の真髄を垣間見てほしい。
川井 ゆか(大妻中野中学校・高等学校 教諭)