ミツバチの秘密 書評
「ミツバチの秘密」 著・高橋 純一
緑書房,2023年9月,345頁,本体2,800円(税別)
貴方が「ミツバチ」と聞いてイメージするのは何ミツバチだろうか?大抵の人は養蜂や作物授粉用に導入されたセイヨウミツバチを思い浮かべることと思う。ミツバチ研究者を除けば,多少詳しい人でも,セイヨウミツバチの他には我が国在来のニホンミツバチ(トウヨウミツバチの亜種)の存在を知っている程度だろう。実際には,ミツバチ(Apis)属昆虫は9ないし11種が確認されており,すべて女王バチ・働きバチ・雄バチからなる社会を作っているが,その見た目や暮らしぶりはなかなかに多様である。ところが,ミツバチに関する一般書となると,圧倒的多数がセイヨウミツバチに関するものであり,一部ニホンミツバチを扱ったものでも趣味養蜂向けの内容が多い。
著者の京都産業大学准教授・高橋純一博士は,自身で東南アジアの山岳地域やヒマラヤの断崖絶壁(!!)まで足を運んで様々なミツバチ種の生態を観察し(時には食し),またラボではマイクロサテライトマーカーを駆使した分子生態学的解析から興味深い知見を多数報告してきた。そのようなバックグラウンドを持つ著者の手のおかげで,様々なミツバチ種の形態や生態の類似点・相違点を一挙に知ることができるという点が,本書の最大の特色と言って良いだろう。
かといってマニアックなミツバチ種の話に終始しているわけではまったくなく,いわゆる「ミツバチ」すなわちセイヨウミツバチに関する基本的情報も充実している。また,蜂蜜やローヤルゼリーのような養蜂生産物,ミツバチの病気,我が国におけるミツバチ飼育の歴史まで触れられており,ミツバチに関する様々な「秘密」をバランス良く知ることができる(私自身もミツバチ研究者の端くれだが,初めて知った秘密が多数あったことをここに白状する)。
近年のSDGs概念の浸透とともに,ミツバチをはじめとする送粉昆虫が大きな注目を集めている。また,本年11月には国内のミツバチ関連の一大イベント「ミツバチサミット」が4年ぶりに対面で開催される。ミツバチに関する一般向けの手引きとしてうってつけな本書がこのタイミングで出版されたことは実に意義深いことと感じる。
宇賀神 篤(JT生命誌研究館・研究員)