New Horizons in Meiobenthos Research 書評

書評
New Horizons in Meiobenthos Research 
Profiles, Patterns and Potentials

Olav Giere · Michaela Schratzberger (Editors)

Springer Nature, Switzerland
X+407 pp.

ISBN 978-3-031-21621-3 ISBN 978-3-031-21622-0 (eBook)
https://doi.org/10.1007/978-3-031-21622-0

メイオファウナとは、海洋または淡水域の底に生息するベントス(底生生物)の中で、堆積物から生物サンプルを洗い出す際に、1mmの篩目をすり抜けて、63μmの篩に捕捉される(研究者によって、それぞれのサイズには異論もある)動物のことである。サイズから明らかなように、肉眼で分類同定することはできず、試料の分別から、詳細な観察まで、すべてを顕微鏡下で行うことが必須である。このような、技術的な困難さから、また研究の歴史の浅さから、メイオファウナの研究は、より大型のマクロファウナにくらべて、大変後れを取っている。一方、メイオファウナは、個体数密度が非常に高く、1平方メートルあたりで100万匹を超える。また、完全な無酸素環境をはじめとして、ほぼあらゆる環境に適応しており、多様な生物学の根本的な問題に答えを与えてくれるかもしれない、魅力的な研究対象である。

本書は、このようなメイオファウナにまつわる様々な話題をとりあげて、それぞれに関する最前線の研究の現状の総説を、オムニバス形式でまとめたものである。全部で11の総説が収録されているが、大きく、二つの総説群にまとめられる。ひとつはメイオファウナの地球化学における役割やメイオファウナとバクテリアとの共生のような研究のテーマをしぼって、それに関する最新の知見を体系的にまとめたものである。いまひとつは、深海や洞窟といった生態系に注目して、様々な視点から最近の研究の進展をまとめたものとなっている。

多様な分類群からなる小型の動物たちがあらゆる環境に適応して、たくましく生きている今の姿が、どのような進化の道筋をたどって出来上がってきたのかを論じた第1章などは、従来の肉眼で形態を観察することができる動物たちとはまったく異なる視点が考察に必要であることを、見事に解き明かしていて、読者の興味を引きつける。また、場を主体とした総説では、人間社会とはほとんど接点のない、多様な極限環境に生息する小さな動物たちの多様さに感動することだろう。

本書の編者の一人であるOlav Giereは、過去にも、メイオファウナに関する教科書を複数出版しているが、本書は、従来の“研究の現状をまとめる”という編集方針から、研究の広がりと深みが急速に増していることに留意して、“今後の研究の方向性を提案する”ことに軸足をおいていて、それぞれの章において、メイオファウナの研究によって答えが得られる可能性のある意欲的な生物学的仮説が示されている。本書のなかから、日常生活において、ほとんど気に留めることもない、小型の動物たちの想像もつかないような多様な生きざまを、各位が見出していただければ、幸いである。

評者:白山 義久 (京都大学名誉教授)

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