「チョウの翅は、なぜ美しいか その謎を追いかけて」書評
DOJIN選書096 今福道夫 著 化学同人 2023年4月27日出版 本体 1,700 円（税別）
ゼフィルスの愛称で広く知られている小さくも美しい金属光沢をもつシジミチョウ。中高生のころに、この美しい姿に魅了されて背丈の2倍を超える長竿につけた捕虫網を梢めがけて振りまわしていた自然史科学者は少なくないだろう。また、このチョウが入口となって環境保全に興味を持つようになった人が大勢いる。本書は、チョウの翅の美しさを出発点として、動物生態学や動物行動学に関する研究に関して非常にわかりやすく示されている。また専門的な研究成果だけではなく、背景となる科学的な問いから、仮説を検証するために試行錯誤をしながら実験装置を作成した過程など、長い時間を要する研究の苦労や楽しさが示されている。虫好きの中高生が、少し背伸びをして本書を手にすれば、自然史科学への興味を掻き立てられるに違いない。そのような若者から次の世代の研究者が生まれることを期待させる内容である。また、かつての虫好きが往時を思い出しながら科学的な興味を深めることもできる内容となっている。
田中 和明（麻布大学獣医学部 動物工学研究室）
