日本動物学会会員各位
佐藤正典会員より書評依頼が届きました。書評執筆を希望される方は下記(1)(2)どちらの書籍かを明記いただき、zsj-society@zoology.or.jpまでお知らせください。
なお、先着順とさせていただきますことをご了承ください。
公益社団法人 日本動物学会
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▼2つの新刊図書の紹介と書評依頼
(1)『ハチの干潟の生きものたち―広島県竹原市に残る瀬戸内海の原風景-』近藤 裕介・大塚 攻・佐藤 正典(編)
166ページ
NextPublishing Authors Press
2022年4月15日 発行(ISBN-13: 978-4802082587)
Amazonから販売中(税込み2,970円、下記のサイトをご参照ください)
広島県竹原市の賀茂川の河口周辺に位置する「ハチの干潟」(面積:22 ha)は,瀬戸内海に残されている数少ない「生物多様性のホットスポット」の一つであり,環境省(2013)によって「日本の重要湿地500」の一つに選定されています。ここでは,環境省(2017, 2020)のレッドリストに掲載されている海産動物が,これまでに合計67種も確認されています。
カブトガニTachypleus tridentatus (Leach, 1819)(節足動物),カブトガニウズムシEctoplana limuli (Ijima & Kaburaki, 1916)(扁形動物),イセシラガイPegophysema bialata (Pilsbry, 1895)(軟体動物),ツバサゴカイChaetopterus cautus Marenzeller, 1879(環形動物),チワラスボTaenioides snyderi Jordan & Hubbs, 1925(脊椎動物)などです。
干潟や周辺の塩性湿地には,ツクシガモTadorna tadorna (Linnaeus, 1758)(絶滅危惧II類)やハマシギ Calidris alpine sakhalina (Vieillot, 1816)(準絶滅危惧)などの渡り鳥の渡来も確認されています。
2021年6月,この干潟の西端に液化天然ガス(LNG)火力発電所(74,000 kw)とLNG貯蔵施設を建設する計画が公表されました。広島県の条例では,75,000 kw以上の火力発電所の建設計画については国が定めた環境影響評価法に従って環境影響評価を実施しなくてはなりませんが,今回の計画では発電規模がその基準よりもわずかに小さく設定されているために,環境影響評価を実施することなく着工されようとしています。
この計画がそのまま実施されれば,この干潟の自然環境と生物多様性が大きく損なわれることが予想されるため,2021年9月に5学会(日本貝類学会多様性保全委員会,軟体動物多様性学会自然環境保全委員会,日本生態学会中四国地区会,日本魚類学会,日本ベントス学会自然環境保全委員会)が,連名で,環境影響評価の実施などを求める要望書を事業者,環境省,広島県,竹原市に提出しました(http://benthos-society.jp/hachi.pdf)。
生物多様性保全は,世界的な重要課題となっているにもかかわらず,多くの絶滅危惧種がまとまって生き残っている「ハチの干潟」の貴重さについては,地元の人々を含めて社会に十分に認識されていないように思われます。
このような状況の中で,本書は,ハチの干潟とその周辺に生息する動植物についてのこれまでの知見を一般の人々にわかりやすい形で伝えるために緊急に出版されました。様々な生物群の専門家(合計50人)が力を合わせ,345種の動植物についてカラー写真と解説文(形態的特徴,生息場所,生態など)を掲載しています。
日本各地の干潟生物の観察のためのガイドブックとして役立つと思います。また,本書を読み進めることで干潟の一般的な機能やそこに棲む動植物のつながり,干潟を保全する意義などを理解するための手助けになると思います。「干潟学」の入門書として,学生,教員,自然愛好家,研究者など多くの方々に読んでいただきたい本です。
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目次
巻頭言 大事な海の生物多様性 ~生きもののつながり~
第1章 日本の干潟
コラム1 魚つき林
第2章 干潟の生物の種間関係
第3章 ハチの干潟の歴史と自然
第4章 ハチの干潟とその周辺の動植物
はじめに
哺乳類
鳥類
魚類
コラム2 ハチの干潟周辺の釣り魚
コラム3 干潟とクロダイ
頭索動物
尾索動物
棘皮動物
腕足動物
節足動物
コラム4 瀬戸内海におけるカブトガニ保護の歴史
コラム5 カブトガニ保護~最近の動き:国際編 2
コラム6 広島大学総合博物館本館でのカブトガニの展示を企画して学んだこと
コラム7 食用となる干潟の甲殻類
動吻動物
コラム8 メイオベントス
環形動物
コラム9 釣餌になる環形動物たち
軟体動物
扁形動物
刺胞動物
海綿動物
繊毛虫
海藻
海草
海浜植物
コラム10 広島県の海産外来種
第5章 干潟をめぐる環境問題とその未来
コラム11 竹原周辺海域の国の天然記念物:海砂採取の後に残されたもの
コラム12 ふるさとの海が直面する岐路
あとがき
参考文献
索引
ハチの干潟およびその周辺で確認されている生物種のリスト
著者紹介
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(2)鹿児島大学島嶼研ブックレット No. 20「琉球列島の河川に生息するゴカイ類」佐藤正典 (著)
86ページ
発行者 鹿児島大学国際島嶼教育研究センター
発行所 北斗書房 http://gyokyo.co.jp/
2022年3月20日 発行(ISBN-978-4-89290-065-5)
定価:990 円(税込み)
琉球列島の島々の小さな河川では、ゴカイ類が生息できる場所が大変狭く限られていますが、その狭い範囲に様々な種が生息しています。日本列島に広く分布する種の一部は、ここが分布南限になっています。また、日本本土では見られない琉球列島の固有種もいます。本書では、これらの種についてのこれまでの研究を紹介しながら、ゴカイという生物の魅力やそれを研究する面白さをお伝えしたいと思います。また、これらのゴカイ類の主な生息場所である汽水域(河川と海の境界領域)の大切さも多くの人に知っていただきたいと思います。
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目次
I はじめに
II ゴカイとはどんな生き物か
(コラム1)汽水域と塩分の定義
III ゴカイ類の生息場所としての琉球列島の河川
IV ヒメヤマトカワゴカイの二型
(コラム2)カワゴカイ類の二刀流の「食べ方」
V イトメ
(コラム3)ベトナムのゴカイ料理
VI 新たに発見された二種
VII 人間による環境破壊とゴカイ類の絶滅の危機
VIII おわりに
IX 参考文献