2017年度論文賞

日本動物学会は2017年6月2日理事会を開催しました。その席上、ZS編集委員会から2017年度論文賞候補の推薦を受けました。理事会は、審議の結果、下記論文に2017年度論文賞授与を決定しました。 ZS編集委員会の選考過程、基準を合わせて、お読みください。また各論文の授賞理由も述べられています。

 公益社団法人 日本動物学会会長     岡 良隆  

【選考経過報告】

2017年5月8日にZoological ScienceのAssociate EditorsおよびAdvisory Board Members 全員に、それぞれ候補論文の推薦(2016年 (Vol. 33) 中の発表論文のうち1~数編、推薦〆切5月25日)をe-mailで依頼した。5月26日までにEditor-in-Chief 1名、Associate Editors13名、Advisory Board Members 4名より計42件、重複を除き計25編の論文が推薦された。この推薦論文リストに基づきEditor-in-Chief およびAssociate Editorsで、複数の推薦を受けたもの、科学的内容の妥当性と重要性、動物学への顕著な貢献などに基づいて審議をおこなった結果、以下の5編を授賞候補論文として理事会に報告する。

 【授賞論文】

Migration of Tundra Swans (Cygnus columbianus) Wintering in Japan Using Satellite Tracking: Identification of the Eastern Palearctic Flyway Wenbo Chen, Tomoko Doko, Go Fujita, Naoya Hijikata, Ken-ichi Tokita, Kiyoshi Uchida, Kan Konishi, Emiko Hiraoka and Hiroyoshi Higuchi Zoological Science 33(1): 63-72
北海道クッチャロ湖で一時捕獲した計16頭のコハクチョウに発信機を装着させて放鳥し、衛星により「渡り」の経路(秋の飛来、春の帰還)を詳細に追跡した研究である。追跡個体数が多いことに加え、複数年(2009—2012年)の追跡であることから、コハクチョウの渡りに関する断片的ではないデータを取得することができたと考えられる。また、「MATCHED (Migratory Analytical Time Change Easy Detection) 法」という新規手法の開発により、「渡り」に要する日数、経路や距離、越冬地と繁殖地、中継地の特定やそれぞれにおける滞在期間など、「渡り」の全貌を詳細に追跡することに成功した。これらのデータは、科学的な基礎知見として興味深いのみならず、保全上の重要地域の絞り込みなどといった、戦略的保全策検討の観点においても大きく貢献するものと評価される。

Restructuring the Traditional Suborders in the Order Scleractinia Based on Embryogenetic Morphological Characteristics Nami Okubo Zoological Science 33(1): 116-123
分子系統解析による先行研究によりイシサンゴ目には2つの主要な単系統群が存在することが分かっていた。しかし、骨格やコロニーの形態といった成体の形質ではこれら2つを明瞭に分けることができず、下位分類体系は流動的であった。著者は複数種における比較観察の結果、初期発生の際の胞胚腔の有無によってこの2群が明瞭に区別できることを見出し、本論文中でそれら2つに対応する新亜目を設立した。サンゴは年に1度しか産卵せず、しかも多くの種の産卵時期は分かっていなかった。本研究は著者による15年間の地道な観察結果に基づくものであり、イシサンゴ類体系学の発展に対する貢献は著しい。

Comparative Analysis of Genome and Epigenome in Closely Related Medaka Species Identifies Conserved Sequence Preferences for DNA Hypomethylated Domains Ayako Uno, Ryohei Nakamura, Tatsuya Tsukahara, Wei Qu, Sumio Sugano, Yutaka Suzuki, Shinichi Morishita and Hiroyuki Takeda Zoological Science 33(4): 358-365
DNAメチル化の役割は魚類では殆ど明らかになっておらず、集団間の変異やその機能については謎が多い。本論文において著者らは、遺伝的に分化したメダカの2系統を利用してDNAメチル化のパターンを比較解析するとともに、メチル化の低い領域に多く見られる配列モチーフも発見した。この成果は、他の分類群で今後行われるであろうDNAメチル化研究の際の基盤情報になると期待される重要な研究成果である。 

Production of Knockout Mutants by CRISPR/Cas9 in the European Honeybee, Apis mellifera L. Hiroki Kohno, Shota Suenami, Hideaki Takeuchi, Tetsuhiko Sasaki and Takeo Kubo Zoological Science 33(5): 505-512
セイヨウミツバチは、昆虫の社会行動と脳機能の研究に世界的に利用されている社会性昆虫モデルである。本論文は、このセイヨウミツバチに対してゲノム編集技術が適用できることを、世界に先駆けて示した論文である。著者らは、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術を用いて、ローヤルゼリー蛋白質のひとつをコードする遺伝子を標的にしてノックアウト個体の作出に取り組み、成功している。セイヨウミツバチをモデルとした昆虫社会行動の分子遺伝学的研究に道を開く、インパクトの高い成果となっている。 

Wing Scale Orientation Alters Reflection Directions in the Green Hairstreak Chrysozephyrus smaragdinus (Lycaenidae; Lepidoptera) Michio Imafuku and Naomichi Ogihara Zoological Science 33(6): 616-622
メスアカミドリシジミ(Chrysozepnyrus smaragdinus)の金属光沢について、前翅と後翅で光を反射させる方向が異なることを明らかにしたユニークな論文である。この種のオスが示す美しい緑色の光沢は鱗粉による構造色である。本種の翅は光を前方に反射させる性質を持っているが、それをなし得るには鱗粉がただ並んでいるだけでは不十分であり、それらが適切な方向に湾曲している必要がある。本研究では翅を水平方向に回転させつつ光を上から照射し、それによって起こる光の反射の方向を調べる装置を開発して解析を行った。その結果、チョウが自然な姿勢を取っている場合には光を反射させる方位が前翅と後翅とで異なり、また光の反射の強さも前翅と後翅で違いが見られることが判明した。これらの違いを生ずる要因として、鱗粉の形態が前翅と後翅で異なることを示した。同一種の翅にこのような相違があることを見いだしたことは興味深く、動物学的価値の高い研究成果である。

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