2016年度論文賞

2016年6月10日(金)午後1時から、北海道大学東京オフィスにて理事会が開催されました。その席上、平成28年度Zoological Science Awardについて、Zoological Science編集長から、編集委員の審議による候補論文が推薦されました。理事会での審議の結果、以下の受賞論文が決定しましたので、ここにお知らせします。 
                                               公益社団法人 日本動物学会
                         会長  武田 洋幸

【選考経過報告】

 2016年5月15日にZoological ScienceのAssociate Editors全員に、5月21日にAdvisory Board Members 全員に、それぞれ候補論文の推薦(2015年中の発表論文のうち3編程度まで、推薦〆切5月27日)をe-mailで依頼した。5月27日までにEditor-in-Chief 1名、Associate Editors 12名、Advisory Board Members 4名より計31件、重複を除き計22編の論文が推薦された。この推薦論文リストに基づきEditor-in-Chief 1名とAssociate Editors 14名で、複数の推薦を受けたもの、科学的内容の妥当性と重要性、動物学への顕著な貢献などに基づいて審議をおこなった結果、以下の6編を授賞候補論文として理事会に報告するものである。

【受賞論文】

Phylogeography of Semiterrestrial Isopod, Tylos granuliferus, on East Asian Coasts Miyuki Niikura, Masanao Honda and Kensuke Yahata Zoological Science 32(1): 105-113

本研究は、海岸の砂浜や礫帯に生息するハマダンゴムシを対象に、分布域を網羅する全58地域集団(北海道、本州、四国、九州、南西諸島、朝鮮半島)から多数のサンプルを採取し、遺伝構造解析を実施したものである。ミトコンドリアDNA COI領域における115ハプロタイプを検出し、遺伝的に分化した4つの遺伝系統群を明確に示すと共に、遺伝分化の年代推定や各ハプロタイプが検出された地域集団を詳細に分析し、日本列島・琉球列島の形成史(地誌)や海流による影響を考察している。移動能力の低い沿岸棲種に焦点を当てたことで、地誌や海流が起因した生物多様化に関する高精度の考察を成し得ている。

Chironomid Midges (Diptera, Chironomidae) Show Extremely Small Genome Sizes Richard Cornette, Oleg Gusev, Yuichi Nakahara, Sachiko Shimura, Takahiro Kikawada and Takashi Okuda Zoological Science 32(3): 248-254 

ユスリカ科(昆虫類、双翅目)は、低酸素、低温、乾燥などの様々な厳しい環境に適応した種を含む動物グループである。本論文は、フローサイトメトリー法を用いて、ユスリカ科の5亜科25種のゲノムサイズを新たに計測し、これまで知られていたユスリカ科3種及び、ショウジョウバエを含むその他の双翅目昆虫のゲノムサイズと比較し、ユスリカ科の昆虫が一様に小さなゲノムを持つことを示した論文である。著者らは、ユスリカ科昆虫の小さなゲノムはそれぞれの厳しい環境への適応に関連づけられがちであるが、その小さなゲノムはユスリカ科全体の祖先形質である可能性を指摘している。本論文は、環境への適応とゲノム進化の関係をユスリカ科昆虫をモデルとして究明するための研究基盤の構築に貢献しており、今後、比較ゲノムを足掛かりとした研究発展が期待される。

Molecular Cloning of cDNA Encoding an Aquaglyceroporin, AQP-h9, in the Japanese Tree Frog, Hyla japonica: Possible Roles of AQP-h9 in Freeze Tolerance Atsushi Hirota, Yu Takiya, Joe Sakamoto, Nobuyoshi Shiojiri, Masakazu Suzuki, Shigeyasu Tanaka and Reiko Okada Zoological Science 32(3): 296-306

多くの無尾両生類が耐凍性を獲得することで低温環境に適応している。本論文において筆者らは凍結保護物質としてグリセロールに注目し、その膜輸送タンパク質であるアクアグリセロポリン(AQP-h9)の解析をニホンアマガエルで行った。注目すべきは、冬眠や軽度の凍結処理により、肝臓の洞様毛細血管に赤血球の凝集が起こり、赤血球にAQP-h9が強発現するようになることである。AQP-h9の強発現は凍結処理個体の骨格筋細胞でも見られた。このような現象は活動状態ならびに凍結処理から回復途中にある個体では見られず、耐凍性のメカニズム解明に向けての重要な研究成果となった。

Effects of Visual Cues of a Moving Model Predator on Body Patterns in Cuttlefish Sepia pharaonis Kohei Okamoto, Akira Mori and Yuzuru Ikeda Zoological Science 32(4): 336-344

頭足類は体色や模様を劇的に変える能力をもち、また高度に発達した神経系および視覚系を有することで知られる。本論文はトラフコウイカに大型捕食魚の模型を視覚的に提示しながら異なる空間軌跡で接近させ,体色や紋様がどのように変化するかを解析したもので、無脊椎動物の視覚認知や、保護色や警戒色の可塑性や適応基盤に興味深い洞察を与える研究成果である。

Fine Structure of the Integumentary Cuticles and Alimentary Tissues of Pycnophyid Kinorhynchs Pycnophyes oshoroensis and Kinorhynchus yushini (Kinorhyncha, Homalorhagida) Euichi Hirose and Hiroshi Yamasaki Zoological Science 32(4): 389-395

トゲカワムシ類(動吻動物門)は様々な海底の基質のすきまにすむ体長1mm以下のメイオベントスであり、「泡立て法」によって効率的に採集できることが長らく知られていた。この採集法は基質を海水ごと激しく攪拌した際に生じる微小な気泡の表面に動物が捕らえられるという性質を利用しているが、自然状態で体表が疎水的であることはこれらの動物の生存に極めて不利なはずである。しかし、「矛盾」とも言えるこの性質については長い間検証されてこなかった。著者らは2種のトゲカワムシにおける微細形態の透過型電子顕微鏡観察により、体表のクチクラ層の外側には更に粘膜の層があり、これが体表の親水性をもたらしている可能性を見出すことで、この「矛盾」の解決に大きく近づいた。著者らはこのほか、接餌・消化吸収に関する組織・器官や精子鞭毛の形態といった基礎情報も提供しており、知見の乏しいこの類における動物学的寄与は大きいと考えられる。

Sexual Dimorphisms of Appendicular Musculoskeletal Morphology Related to Social Display in Cuban Anolis Lizards Wataru Anzai, Antonio Cádiz and Hideki Endo Zoological Science 32(5): 438-446

アノールトカゲ類はディスプレイの様式や行動に関連し、地上性の種と樹上性の種の間で形態の相違が認められる。本研究ではこのような相違が雌雄間にも見られるかどうかを確かめるため、キューバに生息する三種のアノールを用いて四肢の筋肉骨格系の形態学的解析を行い、四肢の筋肉のいくつかにおいて雌雄間の相違(性的二形)を見いだしている。それらを雌雄の行動の違いと関連させて考察した、極めて独創的な論文である。


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