6月9日(土)北海道大学東京オフィスで理事会が開催され、Zoological Science編集委員会により推薦された以下の10論文について、慎重な審議が行われました。その結果、10論文に対して公益社団日本動物学会 平成24年度Zoological Science Awardを授与することが決定されました。なお、この10論文には同時に藤井賞が授与されます。本年は、1論文3万円の賞金が併せて授与されることとなります。
社団法人 日本動物学会
平成24年度 Zoological Science Award
(掲載順)
Zool. Sci. 28: 148-157
Masanori Okanishi and Toshihiko Fujita
A Taxonomic Review of the Genus Astrocharis Koehler (Echinodermata:Ophiuroidea: Asteroschematidae), with a Description of a New Species
ヒメモズル属Astrocharisと呼ばれる、ツルクモヒトデ類(棘皮動物門:クモヒトデ綱)の中ではコンパクトな一群に着目し、 数多くの調査航海で得られた新種の日本産標本と、アムステルダム大学動物学博物館、コペンハーゲン大学動物学博物館、ハーバード大学 比較動物学博物館に収蔵されていた多数のタイプ標本を含む歴史的コレクションの比較観察に基づいた分類学的再検討。本属では100年 ぶりとなる新種の美麗な標本写真は28巻2号の表紙を飾った。博物館標本の重要性を世に問う力作。
Zool. Sci. 28: 180-188
Ryusuke Sudo, Hiroaki Suetake, Yuzuru Suzuki, Tomoko Utoh, Satoru Tanaka, Jun Aoyama and Katsumi Tsukamoto
Dynamics of Reproductive Hormones During Downstream Migration in Females of the Japanese Eel, Anguilla japonica
ウナギの野外での回遊行動の生理基盤を明らかにするために、耳石に基づく生態的解析とホルモンの生理解析という異なる2つの手法を組 み合わせたユニークな研究であり、今後もこのような学際的研究が期待されることから、論文賞にふさわしいと考える。
Zool. Sci. 28: 195-198
Michio Imahuku and Takashi Haramura
Activity Rhythm of Drosophila Kept in Complete Darkness for 1300 generations
1300世代(55年)もの間、暗闇で飼い続けたショウジョウバエが、光刺激を与えると通常のハエと同様のサーカディアンリズムを示 すことを示した論文。この研究成果は、生物が洞窟などの暗黒環境に適応する過程を考察する上で大変貴重なヒントを提供するであろう。
Zool. Sci. 28: 206-214
Azusa Kage and others.
Gravity-Dependent Changes in Bioconvection ofTetrahymena and Chlamydomonas During Parabolic Flight: Increases in Wave Number Induced by Pre- and Post-Parabola Hypergravity
本論文は原生生物(テトラヒメナ、クラミドモナス)を用いて、航空機の弾道飛行実験により、生物対流パターンに重力が重要なこ とを明らかにした論文である。密度や懸濁液の深さなどの実験要因を十分に検討し、あまり理解されていない生物対流という現象の一面を 捉えた点で重要である。
Zool. Sci. 28: 225-234
Ryutaro Goto, Yoichi Hamamura and Makoto Kato
Morphological and Ecological Adaptation of Basterotia Bivalves (Galeommatoidea: Sportellidae) to Symbiotic Association with Burrowing Echiuran Worms
瀬戸内海および奄美大島の潮間帯に見られるゴゴシマユムシIkedosoma gogoshimenseとスジユムシOchetosoma erythrogrammonの棲管にそれぞれ共生するイソカゼガイBasterotia gouldi、及び同属の新種ハイヌミカゼガイBasterotia carinataの形態・生態的な適応を論じた一報。これまで殆ど着目されてこなかったユムシの棲管内という特殊な生息環境に共生者たちがどのように適応 しているのか、という動物学的な視点がまさにZS Awardにふさわしい。
Zool. Sci. 28: 313-317
Daisuke Shibata and others.
Life Cycle of the Multiarmed Sea Star Coscinasterias acutispina (Stimpson,1862) in Laboratory Culture: Sexual and Asexual Reproductive Pathways
無性生殖を行う分裂性ヒトデ類における有性生殖や生活史に関する知見はきわめて乏しい。本論文では分裂性ヒトデの放卵・放精をはじめ て観察することに成功し、さらに稚ヒトデから成体に至るまでの無性生殖を含む成長過程を、室内実験、野外調査により詳細に調べた研究 の論文である。無性生殖と有性生殖の両生殖様式の実態を明確に示した優れた研究論文である。
Zool. Sci. 28: 348-354
Wataru Toki and Katsumi Togashi
Exaggerated Asymmetric Head Morphology of Female Doubledaya bucculenta (Coleoptera: Erotylidae: Languriinae) and Ovipositional Preference for Bamboo lnternodes
タケの節間をかじって孔をあけ、産卵する習性をもつニホンホホビロコメツキモドキという甲虫について、形態測定によって雌成虫特異的 に大顎および頬に顕著な左右非対称性があること、大型の雌成虫はより太いタケを選んで穿孔、産卵すること、小型の雌成虫は小さめのタ ケを選ぶがしばしば穿孔及び産卵に失敗すること、産卵されたタケの太さは出てくる成虫の体サイズと正の相関があることを報告した。左 右非対称性の意義について、形態測定学、機能形態学,適応度測定を駆使して明らかにした興味深い研究である。
Zool. Sci. 28: 430-437
Akihiko Yoshida and Jun Emoto
Variation in the Arrangement of Sensory Bristles along Butterfly Wing Margins
チョウの羽に存在する感覚毛に注目した論文。62種ものチョウを調べ、感覚毛の位置や形態を基にその機能的重要性について論じてい る。感覚毛の配置にみられる種多様性が、種特異的な羽の制御と関係がある可能性を示唆したユニークな論文である。
Zool. Sci. 28: 545-549
Kouki Ikeya and Manabu Kume
Seasonal Feeding Rhythm Associated with Fasting Period of Pangasianodon gigas: Long-Term Monitoring in an Aquarium
メコンオオナマズという生態の殆ど明らかになっていない絶滅危惧種を水族館で6年間に渡って観察することによって得られた摂食行動の 年周期パターンは圧巻であり、水族館が長期にわたる地道な記載研究を通じて動物学へ貢献できる多くの可能性を示唆するものであり論文 賞にふさわしいと考える。
Zool. Sci. 28: 875-881
Minoru Moriyama and Hideharu Numata
A Cicada that Ensures Its Fitness during Climate Warming by Synchronizing Its Hatching Time with the Rainy Season
近年の西日本、特に大阪周辺の都市部におけるクマゼミの個体数増加について、地球温暖化に伴って卵孵化時期が梅雨時に重なるように なったことが主要因であることを、生理生態学的アプローチによって明らかにした。温暖化とさまざまな生物の分布域変化の関係について は多くの現象論的記載があるが,実際に温暖化に伴う分布域変遷の主要因を具体的に示した例は少なく,重要な研究であるとともに、なぜ 最近クマゼミが増えているのかという、多くの日本人が素朴に感じている疑問に回答を与える、社会的にもインパクトのある研究成果である。