2011年度論文賞

2011年6月11日掲載

社団法人日本動物学会理事会は、ZOOLOGICAL SCIENCE 編集委員会からの推薦を受け、審議を行った結果、ZOOLOGICAL SCIENCE Award 2011を以下の8編の論文に授与することを決定しました。8編の論文は同時に、「藤井賞」受賞となりますため、今年は1編に付き、4万円が併せて贈呈されます。

社団法人 日本動物学会事務局

ZOOLOGICAL SCIENCE Award 2011
(掲載順)

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 91-95
Tom Humphreys, Akane Sasaki, Gene Uenishi, Kekoa Taparra, Asuka Arimoto and Kuni Tagawa
Regeneration in the Hemichordate Ptychodera flava
Hemichordate Ptychodera flavaの再生過程を記載したこの論文は、半索動物の再生と発生を研究する上で基本的な研究資料として今度も、長く引用され続ける内容を持っている。今後半索動物のゲノム解析データが公開され、cDNAクローン等研究ツールが整備されることでこの論文に記載された再生過程はその進化的側面だけでなく、生物の再生原理そのものの理解にも資する資料となると期待される。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 279-284
Daisuke Takao and Shinji Kamimura
Single-Cell Electroporation of Fluorescent Probes into Sea Urchin Sperm Cells and Subsequent FRAP Analysis
精子鞭毛の中央は微小管細胞骨格である軸糸が貫いている。運動のエネルギー源であるATPは鞭毛の根元に存在するミトコンドリアで合成されるが、長い鞭毛の先端までどのようにATPが拡散しエネルギー供給をするのかはわかっていなかった。本論文は、精子に蛍光色素を導入するためのエレクトロポレーションを開発し、その系を用いて精子鞭毛内の拡散定数をFRAPにより論文である。本論文は、鞭毛軸糸と細胞膜の間の細胞質の物理化学的性質に関して得られた知見の他、鞭毛に物質を導入する系を確立したことも高く評価することができる。鞭毛運動の研究には界面活性剤を用いた細胞モデルが頻繁に用いられる。著者らが開発した方法をさらに改良することにより、生きた精子を用いてより生理的な解析を行うことが可能となった。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 427-432
Hideki Endo, Daisuke Koyabu, Junpei Kimura, Felix Rakotondraparany, Atsushi Matsui, Takahiro Yonezawa, Akio Shinohara and Masami Hasegawa
A Quill Vibrating Mechanism for a Sounding Apparatus in the Streaked Tenrec (Hemicentetes semispinosus)
テンレックの一種Hemicentetes semispinosusは背部にある特殊な棘毛を振るわせて音響コミュニケーション装置として用いている。このユニークな発音システムについて、著者らは詳細な形態学的解析を行い、その棘毛を動かす装置が体幹の皮筋が変化したものであると結論、quill vibrator discと名付けた。この特異な発音システムは、動物学的に大変興味深く、そうした事象を探究する研究姿勢を高く評価できる。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 559-564
Eiji Motohashi, Takeshi Yoshihara, Hiroyuki Doi and Hironori Ando
Aggregating Behavior of the Grass Puffer, Takifugu niphobles, Observed in Aquarium During the Spawning Period
大潮の日に海岸に集合して産卵するクサフグの産卵リズムを水槽内で再現した論文。この水槽内での行動解析にフィールドでの観察も併せ、内因性の月周産卵リズムで産卵することを解明。ほとんど不明の概月時計の解析に有用な実験系を提示している。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 673-677
Tomonari Kaji
Ontogeny and Function of the Fifth Limb in Cypridocopain Ostracods
節足動物において、その付属肢の形態は脱皮するたびに変わる。種によっては、それに伴ってその機能までも変更される場合がある。本研究ではOstracods(貝虫類)について変態期の足の形態に注目し、5番目の付属肢の外骨格と筋肉の形態について解析を行った。その結果、メスにおける脚の変化は主に外骨格の細胞増殖によるものであり、オスでは外骨格と筋肉の両方が形態変化に関与すると結論づけた。節足動物の付属肢の形態ならびに機能の変化というユニークなテーマに挑んだ、極めて独創的で意欲的な研究である。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 723-728
Sumire Hojito, Norio Kobayashi and Haruo Katakura
Population Structure of Aegialites Beetles (Coleoptera, Salpingidae) on the Coasts of Hokkaido, Northern Japan
イワハマムシと呼ばれる海岸の岩の隙間にのみ生息する甲虫を材料とした分子系統地理学的研究である。北日本から断片的にしか知られていなかった本種の詳細な分布調査と集団遺伝学的解析に基づき、北海道沿岸には2つの遺伝的に異なる集団が生息していることを明らかにした上で、分類学的考察や鮮新世・更新世から現在にいたる分布パターンの形成シナリオまでも論じた労作。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 842-850
Naoyuki Ohta, Takeo Horie, Nori Satoh and Yasunori Sasakura
Transposon-Mediated Enhancer Detection Reveals the Location, Morphology and Development of the Cupular Organs, which are Putative Hydrodynamic Sensors, in the Ascidian Ciona intestinalis
エンハンサートラップラインを用いたユウレイボヤcupular organs発生過程と成体での構造の詳細な記載論文である。尾索類のcupular organは水圧を感知する感覚器であり、脊椎動物が持つ側線器との相同性を考察するうえでの重要な知見である。ホヤを用いた研究は初期発生から器官形成期にいたる発生学的研究が多くを占めるが、この論文はホヤ成体の表現型記載論文としても興味深い。今後、脊索動物の感覚系の進化に関する理解が進んでいく上で、この論文の重要性は増していくであろう。

ZOOLOGICAL SCIENCE 27: 888-894
Yuji Ise and Jean Vacelet
New Carnivorous Sponges of the Genus Abyssocladia (Demospongiae, Poecilosclerida, Cladorhizidae) from Myojin Knoll, Izu-Ogasawara Arc, Southern Japan
小笠原沖水深約870メートルの海底から発見されたシンカイハナビ属とよばれる肉食性海綿類2種を骨片の詳細な電子顕微鏡観察に基づいて新種記載した論文である。生息場所における生時の形態データは無人潜水艇を用いなければ得られなかった貴重なデータである。貧栄養岩礁深海底という、従来着目されることの少なかった生息域における底性生物の多様性解明に貢献する重要な研究と言える。

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