2010年度論文賞

動物学会理事会は、Zoological Science 編集委員会から推薦されたZoological Science Award 候補論文を審議検討した結果、以下の8論文に平成22年度 Zoological Science Award ならびに藤井賞を授与することを決定しました。

平成22年度Zoological Science Award 受賞論文一覧

Mitochondrial DNA Analysis of the Japanese Wolf (Canis Lupus Hodophilax Temminck, 1839) and Comparison with Representative Wolf and Domestic Dog Haplotypes
Naotaka Ishiguro, Yasuo Inoshima and Nobuo Shigehara
pg(s) 765–770
ニホンオオカミの複数の骨標本からミトコンドリアDループ領域の遺伝子配列を決定,大陸産オオカミや日本在来犬種との配列比較をおこない,ニホンオオカミの遺伝的独自性を確認するとともに,ニホンオオカミといわれていた一部の骨格標本が実は犬のものであったことも明らかに。ニホンオオカミのDNA解析としては初の,しかも相当規模の調査であり、骨格の形態測定もおこなっており,高い価値を有する。

Huge Symbiotic Organs in Giant Scale Insects of the Genus Drosicha (Coccoidea: Monophlebidae) Harbor Flavobacterial and Enterobacterial Endosymbionts
Yu Matsuura, Ryuichi Koga, Naruo Nikoh, Xian-Ying Meng, Satoshi Hanada and Takema Fukatsu
pg(s) 448–456
世界最大級のカイガラムシであるオオワラジカイガラムシおよび近縁のマツワラジカイガラムシの体内に巨大な共生器官(菌細胞塊)を同定,フラボバクテリアおよびγプロテオバクテリアに属する2種類の新規共生細菌が異なる細胞に棲み分けて収納されていることを明らかにした。ワラジカイガラムシ類の内部共生系については1920年代から組織学的な記載はあったが、以来80年余を経て本研究がその実体を解明、分子系統学,組織化学,電子顕微鏡観察,野外集団調査等を徹底的に駆使した研究の完成度は高く,この類の内部共生系の記載に関する決定版。

Local Pharmacological Effects of Tungstate on the Color-Pattern Determination of Butterfly Wings: A Possible Relationship Between the Eyespot and Parafocal Element
Bidur Dhungel and Joji M. Otaki

pg(s) 758–764
アオタテハモドキを用い、チョウの羽根の文様形成機構を研究した独創的な論文。蛹の段階で後羽原基にタングステンを挿入、もしくは熱ショックを与えると紋様のパターンが変化する結果から、眼点とpara focal element(PFE)との関係を考察、羽根の模様形成に2つのモルフォゲンが存在する可能性を示唆している。明快で、シンプルな実験系を用い、新しいコンセプトを提唱している。
Three-Dimensionally Preserved Decapod Larval Compound Eyes from the Cretaceous Santana Formation of Brazil
Gengo Tanaka, Robin J. Smith, David J. Siveter and Andrew R. Parker
pg(s) 846–850
白亜紀層から産出した化石から酢酸を用いて抽出した甲殻類幼生(十脚目イセエビ類のフィロソーマと覚しい)のものと推察される複眼の3次元的構造を報告。化石の有柄眼が個眼のパターンまで伴った精度で記載されることはまれ。その連立像眼的な形態から、それが明度の高い上層での浮遊に適応した、プランクトン型の幼生に付随していたと推察。

Biochemical Analysis and Immunohistochemical Examination of a GnRH-like
Immunoreactive Peptide in the Central Nervous System of a Decapod
Crustacean the Kuruma Prawn Marsupenaeus japonicus
Masafumi Amano, Takuji Okumura, Kataaki Okubo, Noriko Amiya, Akiyoshi
Takahashi, Yoshitaka Oka Y
pg(s) 840-845
原索,軟体動物において検討に留まっている無脊椎動物のGnRHに挑んだ論文.節足動物クルマエビのGnRH様ペプチドを生化学的に同定し,中枢における神経回路を免疫組織化学によって明らかにしている.動物界全体でGnRHの役割の分化を考える上で貴重な情報である.

Extirpation of Hediste japonica (Izuka, 1908) (Nereididae, Polychaeta) in Central Japan, evidenced by a museum historical collection
Masanori Sato and Helmut Sattmann
pg(s) 369-372
生物相の歴史的変遷を知る上での自然史博物館標本の重要性を示した重要な論文。わが国の多毛類研究の嚆矢はウィーン自然史博物館学芸員エーミール・フォン・マレンツェラーの1879年の論文であるが、彼が研究に用いた標本コレクションは今でも同博物館に収蔵されている。筆者らがこのコレクションの中から、マレンツェラーがNereis diversicolor Mueller, 1776 と同定した11個体の標本の形態を詳細に観察した結果、これらが実際にはアリアケカワゴカイHediste japonica (Izuka, 1908)であることを見出した。これらの標本はオーストリア人医師カルル・ケルブルによって「Bai v. Mia」から採集され、旅行家・アジア学者のリヒャルト・フォン・ドラッシェの手を経て1877年にウィーン自然史博物館に収蔵されたもの。アリアケカワゴカイの現在の国内での生息場所は有明海奥部の泥干潟に限られ、飯塚啓による本種のタイプ産地、瀬戸内海児島湾は1959年に干拓事業によって失われた。筆者らはケルブルが採集した標本の産地を伊勢湾最奥部にあった「尾張の宮」と推定したが、ここも埋め立てによって現在は名古屋市中心部の熱田区になっている。本研究により、アリアケカワゴカイがかつては少なくとも本州中部にまで分布していたことが明らかになった。
Planarians Maintain a Constant Ratio of Different Cell Types During Changes in Body Size by Using the Stem Cell System
Hiroyuki Takeda, Kaneyasu Nishimura and Kiyokazu Agata
pg(s) 805–813
プラナリアは条件によって体の大きさが変化するが、それに伴って細胞数はどうなるのかに注目した独創的で明解な論文。分化した細胞の数を制御するcounting mechaismの存在が示唆され、論文の完成度も高い。

Morphological and Histochemical Study of the Nasal Cavity and Fused Olfactory Bulb of the Brown-Eared Bulbul, Hysipetes amaurotis
Makoto Yokosuka, Akiko Hagiwara, Toru R. Saito, Masato Aoyama, Masumi Ichikawa and Shoei Sugita
pg(s) 713–721
ヒヨドリの左右の嗅球が融合していることを発見した論文。ある種の鳥類で嗅球が融合したように見える現象は過去にも示唆されていたが、著者らは形態学的、組織的にそのことを確認。この鳥が持つ特異な嗅覚システムは、現象として大変興味深く、脳の機能や進化を考える上で、多くの興味深いヒントを与えるものである。

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