2009年度論文賞

社団法人日本動物学会理事会は、ZS編集委員会からの提案を受け、6月13日(土)に開催された理事会で、平成21年度Zoological Science Awardを以下の6編の論文に授与することを決定しました。また今年からは、故藤井良三会員の寄付により、2003年に創設された「藤井賞」を論文賞の全論文に授与することが決定されており、年間30万円の賞金を今年は6編、1編5万円の賞金として合わせて授与いたします。
 藤井賞は2016年まで毎年30万円がZoological Science Awardに選ばれた論文に授与されます。

ZS編集委員会 岡良隆(主幹・東京大学)、Peter W,H, Holland (University of Oxford)、Mark Konishi (Caltech)、深津武馬(産業技術総合研究所)、倉谷滋(理化学研究所)、沼田英治(大阪市立大学)、太田英利(兵庫県立大学)、酒泉 満(新潟大学)、真行寺千佳子(東京大学)、竹井祥郎(東京大学)

ZOOLOGICAL SCIENCE AWARD

1) Development and Growth of the Feather Star Oxycomanthus japonicus to Sexual Maturity
Tomoko F. Shibata, Atsuko Sato, Tatsuo Oji and Koji Akasaka
Zoological Science 25: 1075-1083 (2008)
ウミシダは棘皮動物や新口動物のボディープランの進化を理解する上で大変重要な位置を占めている。本論文は、ニッポンウミシダを大量に長期にわたって健康な状態で性成熟まで飼育し続けるシステムを初めて確立し、その生殖と個体発生、成長を7年間にわたって観察したものである。進化生物学的に興味深いにもかかわらずこうした基本的な情報がほとんど存在しなかった棘皮動物のウミユリ類でこのような成果を報告したことは非常に価値があり、本論文が今後ウミシダを実験材料とした進化発生生物学的研究の発展に寄与することが大いに期待できる。

2) Fluorescent Pigment Distinguishes Between Sibling Snail Species
Keiichi Seki, Amporn Wiwegweaw and Takahiro Asami
Zoological Science 25: 1212-1219 (2008)
本論文では、生殖的隔離が不完全な巻貝同胞種であり殻形態では識別困難な2種のカタツムリについて、それらが外套膜の色素粒によってのみ識別できること、この色素は粘液とともに排出され、飼育下ではこの色彩の差異は一ヶ月ほどで消失し、環境要因に依存する識別形質であること、それにもかかわらず、交雑実験・アロザイム対立遺伝子頻度・交尾器構造の精査などにより、集団の遺伝構造においても異なる別種であることを明らかにした。環境依存性の識別形質という現象的なおもしろさや、実験的に扱いやすいとはいえない陸生軟体動物についてさまざまな解析を駆使しているところなど、自然史的、動物学的観点からも興味深い。

3) Spring Migration Routes of Mallards (Anas platyrhynchos) that Winter in Japan, Determined from Satellite Telemetry
Noriyuki Yamaguchi, Emiko Hiraoka, Masaki Fujita, Naoya Hijikata, Mutsuyuki Ueta, Kentaro Takagi, Satoshi Konno, Miwa Okuyama, Yuki Watanabe, Yuichi Osa, Emiko Morishita, Ken-ichi Tokita, Katsuyoshi Umada, Go Fujita and Hiroyoshi Higuchi
Zoological Science 25: 875-881 (2008)
本論文は、人工衛星を利用して渡り鳥であるマガモを個体毎に識別しつつ広範囲にわたって追跡し、それらの渡り経路や渡りの経時移動パターンという基礎生物学的なデータを得、その結果からマガモの生活誌を推測している。この研究は、渡り鳥の各地点における滞在個体数や滞在日数から各中継地の相対的重要性を評価したり、衛星画像や地理情報システムなどを利用して生息地の環境解析を行なったり、繁殖地や中継地・越冬地の保全上の問題点を明らかにすると同時に、弱または強病原性鳥インフルエンザを媒介する可能性のあるマガモの生活誌を知ることによりウィルス感染経路を知って感染対策に役立てる、という社会的要請にも寄与しうる。

4) Stimulatory Effects of Insulin-like Growth Factor-1 on Expression of Gonadotropin Subunit Genes and Release of Follicle-stimulating Hormone and Luteinizing Hormone in Masu Salmon Pituitary Cells Early in Gametogenesis
Shunji Furukuma, Takeshi Onuma, Penny Swanson, Qiong Luo, Nobuhisa Koide, Houji Okada, Akihisa Urano and Hironori Ando
Zoological Science 25: 88-98 (2008)
本論文は、性成熟期のサクラマス下垂体においてゴナドトロピン・サブユニット遺伝子の発現誘導作用およびゴナドトロピン分泌に対するGnRHとの協同的促進作用をもつインスリン様成長因子1(IGF-1)の役割を解析したものである。初期の配偶子形成期にはIGF-1が直接に下垂体の生殖腺刺激ホルモン(LH, FSH)の転写・分泌を制御することを、培養系を用いて明らかにした。リアルタイムPCRを用いた絶対定量によりmRNA量とホルモン量との関係を丁寧に解析し、さまざまなステージの動物を用いて総合的に解析を行っている。本論文が魚類におけるIGF-1の生殖機能への直接的な関与を示したことは意義深い。

5) The Novel Mutant scl of the Medaka Fish, Oryzias latipes, Shows No Secondary Sex Characters
Tadashi Sato, Aya Suzuki, Naoki Shibata, Mitsuru Sakaizumi and Satoshi Hamaguchi
Zoological Science 25: 299-306 (2008)
本論文では、雄雌の2次性徴いずれをも示さないようなメダカの突然変異体を発見した。この突然変異の原因遺伝子を探索したところ、p450c17というエストロゲンとアンドロゲン両方の生合成に必要なステロイド合成酵素遺伝子に機能阻害が起きていることがわかった。これらの成果は、脊椎動物の精子形成におけるアンドロゲンの役割や、卵巣の発生・分化や性決定におけるエストロゲンの役割などの、生殖内分泌学的に興味の持たれる重要な諸問題に対して、この突然変異メダカが有用な実験系となりうることを示しており、興味深い。

6) Unexpectedly high diversity of Monoporella
Matthew H. Dick
Zoological Science 25: 36-52 (2008)
本論文では、情報量が多く説得力の高いテキストと適切な図によって1度に6種もの新種を記載するとともに、標本を収集した地域(アリューシャン西部)における対応する分類群(モノポレラ属コケムシ類)の、他に例のない高い種多様性を明示している。また、アリューシャン西部における高い種多様性の成因について2つの優良な仮説を提唱し、それぞれについてその根拠と共に論じている。本誌のような動物学総合誌における記載分類をベースにした論文の規範とも言えるもの(幅広い読者層に興味をもたれる議論の展開)を示した点でも高く評価できる。

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