) Larval Development of the Oriental Lancelet, Branchiostoma belcheri, in Laboratory Mass Culture
Makoto Urata, Nobuo Yamaguchi, Yasuhisa Henmi, and Kinya Yasui
ZOOLOGICAL SCIENCE 24: 787-797 (2007)
Developmental Biology
本論文は、進化生物学など多くの生物学の観点から興味深いナメクジウオを室内で大量に飼育するシステムを確立し、飼育された幼生の発生を丹念に記述したものであり、論文の写真も秀逸である。特に、ナメクジウオの変態とその後の発生、とりわけ鰓裂の増加と発生を念入りに記載している点で重要である。ナメクジウオが室内で大量飼育できることにより発生学、生理学などさまざまな研究への道を開いた点で、動物学全体に大きく寄与することが期待できる。
2) A Taxonomic Catalogue of Japanese Nemerteans (Phylum Nemertea)
Hiroshi Kajihara
ZOOLOGICAL SCIENCE 24: 287-326 (2007)
Taxonomy/Review
本論文は、日本産ヒモムシの分類についての文献を完全に網羅した上で、極めて緻密にまとめられた分類学的なカタログである。ヒモムシ分類学の歴史についてもよくまとめられ、分類学上のチェックリストや完全な文献リストを備えており、ヒモムシを研究する者にとっては最適の優れたレビューとして後世に長く引用されるであろう。このような研究とその成果をまとめたレビュー論文は日本、アジアの基礎動物学にとって貴重な財産である。
3) Inheritance Pattern of Lateral Dimorphism in Two Cichlids (a Scale Eater, Perissodus microlepis, and an Herbivore, Neolamprologus moorii) in Lake Tanganyika
Michio Hori, Haruki Ochi and Masanori Kohda
ZOOLOGICAL SCIENCE 24: 486-492 (2007)
Genetics
鱗食魚の右型と左型が等頻度で維持されている事実は、今や世界の教科書の古典にすらなりつつある。だが、二型の遺伝システムの決定は、数々の困難に阻まれ、長らく推定の域を出なかった。本論文は、タンガニーカ湖産の他の魚の鱗を食べる種と藻類を食べる種のシクリッドを用いて、単一座位で左型が右型に対して優性、優性ホモ接合体が致死である事実を交配実験で確定したものである。共存する左右二型には遺伝子が関与しない場合が多く、本件は、遺伝的基礎が確定した初めての事例である点も特筆に値する。進化生物学上の重要な発見に遺伝的背景があることを証明した貴重な論文である。
4) Serotonin-immunoreactive Neurons in the Antennal Sensory System of the Brain in the Carpenter Ant, Camponotus japonicas
Eriko Tsuji, Hitoshi Aonuma, Fumio Yokohari and Michiko Nishikawa
ZOOLOGICAL SCIENCE 24: 836–849 (2007)
Neurobiology
本論文は、社会性昆虫であるクロオオアリのワーカーの脳において、触角から入力しているセロトニン免疫陽性ニューロンの形態を詳細に明らかにしたものであり、複雑なデータを美しい図版でわかりやすく説明したものである。これらは嗅覚や味覚などに関係していると考えられる。この論文自体は、地味な形態の記載であるが、行動学、生理学などで近年脚光を浴びている多くの研究の基盤となるもので、社会性昆虫における中枢機構の研究発展に寄与すると考えられる。