動物学会理事会は、動物学教育賞選考委員会からの審議結果を審議検討した結果、平成25年度日本動物学教育賞を矢島稔氏に授与することを決定しました。
以下が、選考理由です。
動物学会事務局
平成25年度 動物学教育賞<矢島稔>氏の選考理由
矢島 稔さんは1930年生まれ。群馬県立「ぐんま昆虫の森」の園長をされている83歳の現役の昆虫学者です。東京学芸大学をご卒業され、豊島園に昆虫館を創設、続いて上野動物園水族館長、多摩動物公園園長、財団法人東京動物園協会理事長などを歴任し、1999年からは群馬県立「ぐんま昆虫の森」の園長をされておられます。1957年、豊島園に昆虫館を作るに至った矢島さんのコンセプトは「博物館で死んだ標本としてしか見ることの出来なかった昆虫を生きたまま一般の方たちに間近で見ることが出来るように飼育展示する」というものです。これは象やライオンなどが主役であった45年以上前の動物園において誰も思いつかなかった画期的な発想でした。矢島さんがこれを実現されたことにより、昆虫の世界を覗いてみたい、昆虫学を志したいという子供、そして昆虫の面白さを知ったことで生物学や動物学が好きになった子供たちが大勢いたことは想像に難くありません。実際、矢島先生を動物学教育賞に推薦された方も、矢島さんの昆虫館で野生動物学に目を開かれた子供の一人であったそうです。さらに矢島さんはNHKラジオで「夏休みこども科学電話相談室」のメンバーとして30年以上にわたり学校の先生が答えられないような生物の不思議について子供たちに分かりやすく説明する活動を続けてこられました。彼はこの番組の中で子供たちの疑問に対し、単に即答するのではなく、子供の目線になって一緒に「昆虫がどう不思議に思えたのか?」をじっくり検討することから始め、その上で子供が納得できるように答えを引き出す工夫をされています。また、矢島さんは「樹液をめぐる昆虫たち」や「黒いトノサマバッタ」など子供向けのとても分かりや著作を多数著しておられます。その内容は社会的にも高く評価され、小学館児童出版文化賞、産経児童出版文化賞、理想教育財団科学賞を受賞されています。
「昆虫を含め、自然とのふれあいが、人間形成の大きな柱になる」というコンセプトのもと、長きにわたってそのコンセプトを実現するように実践してきた矢島さんの行動力は、本学会の動物学教育賞にふさわしいものと思います。