女性研究者奨励OM賞選考委員会 委員長 窪川かおる
2014年5月14日(水)16時~19時、東京大学理学部2号館において、日本動物学会女性研究者奨励OM賞の選考委員会を開催した。委員会には、岡敦子(日医大)、沓掛磨也子(産総研)、窪川かおる(東大・委員長)、橘木修志(大阪大)、宮﨑勝己(京大)、山中明(山口大)の6名、全員が出席した。 OM賞の対象者は、昨年度から「動物科学を研究するすべての女性研究者」となっている。本年度の応募者は10名であった。本年度の応募者の研究内容は、動物科学を基盤とする医学分野から化学分野まで広い範囲にわたっていた。申請者のほとんどが、選考規定にある「女性研究者による動物学発展への新たな試みを奨励すること」、「特に、安定した身分で研究を続けることが困難であるが、強い意志と高い志を持って研究に意欲的に取り組もうとする優れた女性研究者であること」の条件を満たしていた。そのため、選考は困難をきわめたが、OM賞の性格を重視しつつ、研究内容と将来性および境遇に負けない研究の推進力について慎重かつ詳細に審議した。その結果、全員一致で次の2名の候補者(五十音順)を理事会に推薦することとした。
岡本朋子(おかもと ともこ)
独立行政法人 森林総合研究所・日本学術振興会特別研究員PD
研究テーマ「花の化学的プロフィールの変化が昆虫の行動に与える影響の解明」
濱田-川口典子(はまだ-かわぐち のりこ)
東北大学大学院 生命科学研究科 脳機能遺伝分野・研究支援者
研究テーマ「ショウジョウバエ生殖幹細胞の増殖•分化を制御する新規シグナルの解明」
推薦理由
岡本朋子氏は、花とその送粉者である昆虫との関係について、生化学的および生態学的に研究を進めている。最近では、送粉者の行動が、誘引物質である花の匂いに性的二型をもたらすことを明らかとし、国際的にも評価されている。申請テーマでは、花は送粉者に受粉というメリットをもらい、送粉者はその花に産卵して幼虫の餌を得るという相利共生関係に着目し、その維持機構を化学的に解明しようとしている。このように研究者としての立場が不安定であっても一貫したテーマを追い続け、それに応じた研究方法を柔軟に取り入れている研究姿勢が高く評価された。さらに、介護の問題を抱えながら研究を進める強い意志から今後の研究の進展も期待され、OM賞にふさわしいと全員一致で判断した。
一方、濱田-川口典子氏は、ショウジョウバエの卵巣のBtk29Aに着目し、それが生殖細胞の発生のスイッチとなることを明らかにしてきた。ヒトBtkが関与する免疫不全症について、海外の研究者との共同研究を継続しており、免疫不全症の治療法の開発や再生医療を目標とする視点は医科学研究に近いが、Btkの基本的な機能を、ショウジョウバエからヒトまで、共通した分子機構で解析しようとしている点で、優れた動物科学研究であると判断した。また、出産・育児により研究支援を受ける立場、あるいは海外共同研究も含めた様々な状況などを経ながらも、一貫したテーマを意欲的に追及し続けている。2014年には一流誌への論文掲載もあり、今後の活躍も期待され、OM賞にふさわしいと全員一致で判断した。