女性研究者奨励OM賞選考委員会
委員長 窪川かおる
2015年5月11日(月)14時~18時、北海道大学東京オフィスにおいて、日本動物学会女性研究者奨励OM賞の選考委員会を開催した。応募件数は20 件で昨年度の倍となった。選考委員は、相馬雅代(北大)、渡辺絵理子(山形大)、上村慎治(中央大)、窪川かおる(東大・委員長)、吉田学(東大)、荻野 由起子(基生研)、日下部りえ(理研)、初見真知子(島根大)、竹内栄(岡山大)、濱田麻友子(OIST)の10名であった。選考委員会には全員が出席し た。
OM賞は「動物科学を研究するすべての女性研究者」を対象とする。本年度の応募者の研究テーマは基礎医学から生態学まで広範囲であり、動物科学の分野の広 さを示すものであった。審査は選考規程にある「女性研究者による動物学発展への新たな試みを奨励すること」、「特に、安定した身分で研究を続けることが困 難であるが、強い意志と高い志を持って研究に意欲的に取り組もうとする優れた女性研究者であること」に基づき議論を尽くした。その結果、全員一致で次の2 名の候補者(五十音順)を理事会に推薦することとした。
稲木美紀子(いなき みきこ) 大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 非常勤特任研究員
研究テーマ「細胞キラリティが左右非対称な内臓捻転を誘導する機構の解明」
植木紀子(うえき のりこ)中央大学 理工学部 生命科学科 共同研究員 / 東京工業大学 資源化学研究所 附属資源循環研究施設 科研費教育研究支援員
研究テーマ「ボルボックス目の鞭毛運動から探る環境応答行動のしくみと変遷」
推薦理由
稲木美紀子氏は、細胞の運命決定機構の解明を志し、ショウジョウバエの胚を用いて、形態形成に重要なHedgehogシグナル伝達を負に制御する新規遺伝 子pxbの単離に成功した。その後、シンガポールテマセック生命科学研究所等に留学し、ショウジョウバエ卵母細胞をモデルとして細胞移動のメカニズムの解 明に努めるなど優れた成果を得てきたが、途中育児のために2年間の実験研究の中断をした。昨年9月から細胞レベルでの後腸の左右非対象性の形成過程をライ ブイメージング法を用いて解析をし始めたところだが、4児の育児と実験研究の両立を図る努力は並大抵のものではないであろう。その経歴からは、強い意欲を 持って研究に邁進する様子がうかがえる。年齢的にまだ20年以上も研究を進めることが可能であり、成果を積み重ねていくことが期待できる。これらのことか らOM賞にふさわしいと全員一致で判断した。
植木紀子氏は、ボルボックス目の生物をモデルとして、環境応答の機構の解明を目的とする研究を進めてきた。その研究では、光刺激に対する鞭毛運動を生物物 理学的、細胞生理学的な手法を駆使して解析し、走光性反応の定量化や方向転換での鞭毛の役割を明らかにした。さらにこの生物が多細胞生物化を始めつつある グループに属す点に注目し、走光性を指標にした統合的な細胞運動制御機構の進化についての研究にまで発展させようとしている。ボルボックス目を材料として いるものの、鞭毛運動という生物に共通するテーマを一貫して追い続けていること、現在は介護に携わりながらも、非常勤職に従事して研究を継続する強い意志 を持っていることが評価された。そこでOM賞にふさわしいと全員一致で判断した。