平成30年度(2018年度)日本動物学会女性研究者奨励OM賞

6月2日(土)北海道大学東京オフィスで開催されました動物学会理事会において、OM賞選考委員会からの推薦を受けた2人の候補者について、審議を行いました。その結果、日本動物学会理事会は、以下のお二人に、平成30年度日本動物学会女性研究者奨励OM賞の授与を決定しました。

宮川(岡本)美里[みやかわ(おかもと)みさと]
宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター 日本学術振興会特別研究員 PD
「アリ類で進化した性決定機構における分子遺伝学的基盤の解明」

小田(石井)いずみ[おだ(いしい)いずみ]
京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 特定研究員
「ホヤ胚発生における転写因子Zicの2種の結合配列を介した調節」

選考過程: 平成30年3月31日の締め切りまでに8名の応募があった。4月9日のweb会議において、前OM賞審査委員長よりOM賞の特徴と歴史的経緯の説明を受けた後、審査資料および添付論文(2編以内)基づき、審査を行った。まず、各委員が共通の評価フォームを用いて評価を行った。これらの評価を元に、5月12日OM賞選考委員会(東京)を開催し審議を行った。なお、選考委員会にはオブザーバー2名(竹井祥郎賞担当理事、真行寺千佳子前OM賞委員会委員長)に臨席いただいた。審議は、本賞の目的に基づき1)優れた動物科学の研究を推進しているか、2)安定した身分で研究を続けることが困難であるにもかかわらず、強い意志と高い志を持って研究を継続しているかの2点について行った。審議の結果、全員一致で宮川(岡本)美里氏、小田(石井)いずみ氏が平成30年度日本動物学会女性研究者奨励OM賞にふさわしいと判断した。

選考理由:
宮川(岡本)美里 宮川(岡本)美里氏は、生物の多様な性の在り方に興味を持ち、これまで侵入種のアリが侵入に不向きな性決定機構を持ちながらも繁栄できた原因を明らかにすべく研究を行ってきた。アリを含むハチ目昆虫の多くは単数倍数性という性決定様式を持つ。この様式では、近親交配により次世代の半分が不妊オスになるという弱点があり、この特徴は遺伝的多様性が低い侵入初期には不利であると考えられる。そのような背景のもと、宮川(岡本)氏はまずウメマツアリの性決定遺伝子座を解析した。その結果、アリ類で初めて連鎖解析を用いた性決定遺伝子座を含むゲノム領域の特定に成功し、本種は性決定遺伝子座を二つ持つこと、これにより近親交配で生じる不妊オスが全体の25%まで抑制されることを示した。つまり、性決定遺伝子座の複数化により近親交配による不利益をカバーすることが示唆された。さらに、性決定に関わる遺伝子座にはミツバチの性決定初期遺伝子として知られているcdcfemのホモログがコードされていることを発見した。これら遺伝子およびdsxの発現解析を進め、オス、メスの性決定に関わる分子基盤を明らかにしようとしている。これまで、宮川(岡本)氏は日本学術振興会特別研究員PDの期間中に出産を経験したが、産休中も産後2か月から研究に少しずつ復帰し、日中に育児、夜は夫婦交代で研究室で実験を進めるという形で研究を継続してきた。また、妊娠中から復帰までの研究についてもすでに論文としてまとめ、出版に至っている。このように、直面する困難があっても研究への情熱、意欲、責任感を持ち続け、強い意志を持って研究の継続のために努力している点が高く評価された。 小田(石井)いずみ 小田(石井)いずみ氏は、動物胚において、胚発生が母性ゲノムによる調節から胚性ゲノムによる調節へどのように移行するかに着目し、研究を進めてきた。これまでに、Zic因子を含めた4つの母性因子が互いの相互作用を介して胚性遺伝子の発現を開始することや、それらの母性因子、また標的遺伝子の機能を明らかにして業績を重ねてきた。Zic因子は、進化的に保存された亜鉛フィンガーを持つタンパク質をコードする遺伝子であり、神経発生や初期発生に関わることが広く知られている。小田(石井)氏は、これまでの研究成果を背景に、転写因子が結合する結合モチーフがprimaryモチーフとsecondaryモチーフの2種類あることに興味を持ち、Zic転写因子を用いてこれら二つのモチーフの機能と生物学的意義について研究を進めようとしている。特に、小田(石井)氏が注目しているZic-r.aは、発生過程に生じる転写調節において、細胞の種類に応じて二種類のモチーフを使い分けている可能性を指摘しており、興味深い。本研究は、発生学のみならず動物科学全般に関わるものとして期待される。小田(石井)氏は、配偶者が単身赴任であるため、幼い二子の子育てを一手に担いながら研究を実施しており、研究環境には多くの困難があるものと想像される。このような状況の中、着実に論文を出版している点においても、研究を継続する強い意思が感じられる。以上のように、困難に屈することなく研究を続けようとする研究姿勢が高く評価された。

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