平成25年度動物学会賞等の選考を終えて

2013年6月11日掲載

公益社団法人 日本動物学会
学会賞等選考委員会 委員長
沼田 英治

平成25年度の学会賞および奨励賞の授与候補者を選考する学会賞等選考委員会を、2013年5月19日(日)午後1時から4時まで、北海道大学東京オフィス大会議室において開催した。委員会には、内分泌、形態・細胞、生理、発生、生化学・分子生物学、生態・行動、分類・系統・遺伝・進化の各分野から7名(竹井祥郎、稲葉一男、高畑雅一、武田洋幸、七田芳則、沼田英治、住田正幸)の選考委員が全員出席した。学会賞には8件、奨励賞には11件の応募があった。それぞれの賞の選考規程に基づき、推薦書内容を詳細に審議した。最終的には、全員一致で、学会賞2名、奨励賞2名の会員を候補者として理事会に推薦することとした。

平成25年度日本動物学会賞

応募は8件であった。動物学は広範な学問領域からなるが、ほとんどの応募者はそれぞれの領域を代表する優れた研究者であり、選考規程にある「学術上甚だ有益で動物学の進歩発展に重要かつ顕著な貢献をなす業績をあげた研究者」の条件を満たしていた。その結果、高い水準での審議となった。選考は困難を極めたが、応募者の研究内容、研究業績、動物学の進歩発展への貢献度について詳細に審議した結果、2名の候補者を理事会に推薦することとした。

受賞者(五十音順)

岡 良隆(おか よしたか)
東京大学大学院理学系研究科・教授
研究テーマ「生殖の中枢制御にかかわるペプチドニューロン系の研究」

富岡 憲治(とみおか けんじ)
岡山大学大学院自然科学研究科・教授
研究テーマ「昆虫の概日時計機構に関する神経生物学的研究」

推薦理由

岡良隆会員は、中枢神経系による生殖の制御機構に関して、魚類をモデルとして世界を牽引する研究を行ってきた。なかでも、神経系と内分泌系の協調のしくみに興味をもち、視床下部にある生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロンとキスペプチンという新しいペプチドニューロン系の相互作用、および視床下部-脳下垂体-生殖腺系という脊椎動物の生殖を支配する内分泌系との相互作用に関する研究において、独創的な研究により優れた業績をあげてきた。最近では、これら2つの神経系が作る神経回路網の重要性を予見し、ゲノムデータベースやトランスジェニック技術など、実験動物として多くの利点を持つメダカを材料として、生殖の中枢制御に関わるペプチドニューロン系に関して国際的にも最先端の研究を行っている。このように、岡会員はわが国だけではなく世界の動物学を先頭に立って牽引している。動物学の発展に大きく貢献した岡会員の研究は学会賞としてふさわしいと判断し、候補者として推薦した。

富岡憲治会員は、神経生物学の手法を駆使して昆虫の概日時計機構の解明に著しい貢献をしてきた。なかでも、コオロギの視葉からの電気的出力を培養条件下で記録することによって、視葉に概日時計の振動の本体があることを示した研究は特筆に値する。さらに、左右一対の時計がどのように調整してリズムを作り出すのかなどの課題へ研究を発展させた。また、ショウジョウバエにおいて、異なる概日時計細胞が役割分担して環境に同調していることを世界に先駆けて発見した。最近は、原始的な昆虫の概日時計の分子機構から時計の進化過程を探る研究や、RNAiを用いて光周性における時計遺伝子の役割を解明する研究を展開している。富岡会員はこれらの成果を一流国際雑誌に発表するばかりではなく、多数の総説を執筆するなど日本を代表する時間生物学者として国際的に活躍している。動物学の発展に大きく貢献した富岡会員の研究は学会賞としてふさわしいと判断し、候補者として推薦した。

 

平成25年度日本動物学会奨励賞

応募は11件であった。ほとんどの応募者は、選考規程にある「活発な研究活動を行い将来の進歩発展が強く期待される若手研究者」の条件を満たしており、学会賞と同様に高い水準での選考となった。応募者の研究内容、研究業績、将来の発展性について詳細に審議した結果、2名の候補者を理事会に推薦することとした。

受賞者(五十音順)

沓掛 磨也子(くつかけ まやこ)
産業技術総合研究所・研究員
研究テーマ「昆虫社会の成立・維持機構と進化に関する研究」

小柳 光正(こやなぎ みつまさ)
大阪市立大学大学院理学研究科・准教授
研究テーマ「分子進化学的・分子生理学的アプローチによる動物の光受容の分子基盤の研究」

推薦理由

沓掛磨也子会員は、社会性アブラムシの進化を、行動から分子に至るさまざまなレベルで研究している。まず、生殖機能をもたないカーストである兵隊アブラムシが特異的なプロテアーゼを毒として敵に注入することを明らかにした。さらに外敵によってアブラムシのゴール(虫えい)に穴があけられた時に、兵隊アブラムシが自己犠牲的に血リンパを分泌し、その凝固機能を利用し、植物組織に刺激を与えて植物の修復機能を促進してゴールを修復することを示した。これらは利他行動の物質的基盤を特定したという点で世界的に高く評価されている。また、閉鎖したゴール内では、アブラムシが植物の生理状態を変化させてみずからの排泄物を吸収させていることを発見した。自然史における興味深い現象を分子レベルで明らかにしている沓掛会員の研究は高く評価することができ、新しい分野として将来の発展も期待される。

小柳光正会員は、分子進化学を基礎として、視覚に代表される動物の光受容の分子基盤の解明に取り組んでいる。小柳会員は眼をもつ動物ではもっとも原始的な刺胞動物アンドンクラゲの眼を研究し、含まれる光受容体が、それまでに報告されたことのない、GsサブタイプのGタンパク質と共役する新規の光受容体であることを発見した。また、脊椎動物と近縁な頭索動物ナメクジウオを用いた研究により、当時国際的に関心の高かった光受容体メラノプシンの分子特性を世界で初めて明らかにした。また最近では、ハエトリグモがピンぼけ像に基づく新しい奥行き知覚のメカニズムをもっていることを、光受容体の分子特性から網膜の中での局在、さらには行動実験により証明し、世界を驚かせた。このように小柳会員のこれまでの研究はどれをとっても動物学の研究としてきわめて重要で、将来の発展性も高く評価される。

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