平成21年度学会賞の選考を終えて

日本動物学会学会賞等選考委員会
委員長 武田洋幸

社団法人日本動物学会は、6月13日(土)に理事会を開崔し、学会賞等選考委員会からの平成21年度学会賞受賞等に関わる提案を、審議しました。その結果、平成21年度学会賞、奨励賞、OM賞を以下のように決定いたしました。

平成21年度日本動物学会学会賞

寺北 明久(大阪市立大学・大学院理学研究科)
ロドプシン類と光情報伝達系の多様性・進化に関わる分子生理学的研究

平成21年度日本動物学会奨励賞

浮穴 和義(広島大学大学院総合科学研究科)
系統発生学的見地からの神経ペプチドの同定と生理機能解析

平成21年度日本動物学会女性研究者奨励OM賞

藤田 愛 (独立行政法人農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域)
シロアリ類におけるセルラ-ゼ生産部位の進化と共生微生物の変化

吉川 朋子(北海道大学大学院医学研究科・時間医学)
卵巣に存在する概日時計の生理的役割の解明 

 

選考理由

平成21年度の日本動物学会学会賞、奨励書、女性研究者奨励OM賞の候補者を推薦するため、学会賞等選考委員会が4月30日(木)北海道大学東京オフィス大会議室において開催された。選考は内分泌、形態・細胞、生理、発生、生化学・分子生物学、生態・行動、分類・系統・遺伝・進化分野の7名の選考委員全員の出席の下で行われた。動物学会賞は4名、奨励賞は2名、OM賞は7名の応募があった。最終的に、動物学会賞1名、奨励賞1名、OM賞2名の会員を推薦することとした。

 学会賞候補として推薦した寺北明久会員は、大学院生の頃から一貫してロドプシン類の多様性に関する独創的研究を行い、この分野の研究に多大な貢献をしている。生物の光受容細胞は膜構造をとることで、より多くの光子を受け止めている。その膜が、繊毛由来のものを繊毛型、細胞膜が変化したものを感桿型細胞とよぶ。例えば脊椎動物の視細胞は繊毛型、一方、無脊椎動物は感桿型細胞が多いが両者を持つものもある。この分野の研究では、20年前までに脊椎動物の視細胞はGタンパク質トランスデューシン(Gt)が情報伝達を担っていることは判明していたものの、動物界での多様性の研究は遅れていた。寺北会員は早くから無脊椎動物ロドプシン類に着目し、軟体動物、節足動物(感桿型)はGqタイプ、感桿型と繊毛型の両者をもつホタテ貝はGoタイプ、刺胞動物(繊毛型)はGsタイプ、とそれぞれ新規Gタンパク質と共役する全く新しいロドプシ類を持っていることを発見した。このような多様性の発見にとどまらず、詳細な分子系統解析や2次メッセンジャーの研究を通して、多様性を貫く一般性を発見したことは特筆すべき点である。つまり、動物の光情報伝達系は、繊毛型と感桿型という2つの系列にまとめられるという「寺仮説」を発表し、現在では広く受け入れられている。ロドプシン類は脊椎動物と無脊椎動物の分岐と相関するという、旧来の考えを完全に覆した。このように寺北会員の一連の研究は紛れもなく、視覚の進化と多様性を理解する上で、歴史に残る業績と言える。加えて、動物学会での発表、活動も活発に行い、「学術上、有益で動物学の進歩発展に重要な貢献をなす業績を挙げられた研究者」に授与される学会賞にふさわしい候補として、全会一致で推薦した。

 奨励賞候補として推薦した浮穴和義会員は、系統発生学的見地から新規神経ペプチドの同定と生理機能の解析を精力的に行っている若手研究である。環形動物のシマミミズよりアネトシン(オキシトシン系ペプチド)を含む数種の新規神経ペプチドを、原索動物のシロボヤからもオキシトシン系ペプチドに属する新規神経ペプチドを単離し、それらの機能解析を行った。さらに、対象を脊椎動物に広げて、最近ではウズラの視床下部から新規神経ペプチドである生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(GnIH)を単離した。続いて、魚類、両生類、は虫類、ほ乳類からもGnIH同属ペプチドを単離した。並行して、日本動物学会中国四国支部・広島県委員を勤めており、県例会を開催するなど、動物学会の発展にも寄与している。以上の様に浮穴会員は、「活発な研究活動を行い、将来の進歩、発展を強く期待される若手研究者」に授与される奨励賞にふさわしい候補であり、全会一致で推薦した。

 女性研究者奨励OM賞は、「本会会員である女性研究者で、優れた研究を推進しようとしている方を対象とし、とくに、安定した身分で研究を続けることが困難であるが、強い意志と高い志を持って研究に意欲的に取り組もうとする方」に贈られる。OM賞の趣旨をいかすために、今回の応募から申請書の様式を変更した。これにより、応募者の研究に対する姿勢と共に研究環境等を把握し、その情報に基づいて本賞の趣旨にそう審査を行う環境を整えた。その結果、今回は吉川朋子会員藤田愛会員を全会一致で推薦した。両会員とも留学、研究室の移動、出産・子育てを経験しているが、その間も情熱を失うことなく研究を継続し、優れた業績をあげている。

 最後に、今回は学会賞、奨励賞の推薦件数が例年になく少なかったことは大変残念であるが、いずれもそれぞれの賞にふさわしい応募内容であり、選考委員会として自信を持って候補者を推薦できたことは幸いであった。しかし、分野の多様性や質を維持するためには、応募件数を増やす工夫が必要であるという認識を選考委員会として持った。今後、理事会、総会などを通して、方策を検討したい。

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