動物学将来推進計画委員会報告

「大学院生・ポスドクの実態調査とあるべき研究環境の調査」の中間報告
アンケート結果の報告

 平成12年5月1日
日本動物学会将来計画委員会
ポスドクアンケート担当
久冨・上村・岩見

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ポスドク制度に関する討論のための掲示板へ
アンケート用紙へ

 「大学院生・ポスドクの実態調査とあるべき研究環境に関するアンケート」にご協力いただき、ありがとうございました。以下、140名の方から頂いた回答の集計結果をまとめました。
 今後、これらの結果や掲示板等での意見を統合して、将来計画委員会で検討し、提言という形にまとめたいと考えています。掲示板へも積極的なご意見をお寄せ下さい。

略語と注意

PD:ポスドク(博士研究員)、DC:大学院博士課程在学者、MC:大学院修士課程在学者 遺:遺伝、態:生態、形:形態・構造、動:動物生理・代謝、系:系統・分類、物:生物物理、分:分子生物学、細:細胞生物学、発:発生生物学 他:その他、不分:わからない、無:無回答 

*カッコ内は、有効回答者数およびその割合

1−1.回答者の身分とデータ解析上の分類(総計140人)

1.教職員(43人):大学の教員・公立の研究機関の研究員等
 a.大学の教員(39人)、b.公立の研究機関の研究員(3人)、c.小中高校の教員(1人)

2.PD(28人):期限付きの研究員・国内のポスドク
 b.期限付きの公立研究機関の研究員(2人)、d.国内のポスドク(26人)

3.DC(50人):博士課程・研究生
  g.博士課程在学者(47人)、f.研究生(3人)

4.MC(19人):修士課程・その他
  h.修士課程(博士前期)(18人)、その他(1人)

1−2.回答者の平均加入学会数

・教職員:3.6
・PD :2.6
・DC :2.1
・MC :1.9

1−3.PDの任期

PDの期限平均(26人):2.9年

2−1.収入平均(単位万円)

・PD(28人):38.1万円(最高70万円、最低23万円)
 給与平均:37.6万円、給与以外:0.4万円
・DC(50人):15.2万円(最高24万円、最低8万円)
 給与2.5、アルバイト1.5、奨学金8.1、謝金0.1、仕送り2.1、その他0.9
・MC(18人):10.5万円(最高20万円、最低0万円)
 給与0、アルバイト1.1、奨学金5.5、謝金0、仕送り3.8、その他0

2−2.必要収入

・PD(23人):26.3万円(最高60万円、最低10万円)収入額が希望に満たない人(2人、9%)
・DC(46人):15.3万円(最高25万円、最低8万円)収入額が希望に満たない人(15人、33%)
・MC(18人):10.9万円(最高20万円、最低4万円)収入額が希望に満たない人(6人、33%)

収入に関して

 PDの平均収入は、約38万円で、必要収入(26.3万円)を12万円ほど上回っていた。この数字は、あくまで平均であり、単身で生活する場合と、家族を扶養する場合とで、大きな隔たりがあると考えるのが妥当であろう。実際、必要額に関しては、10〜60万円まで6倍のばらつきが見られた。このことは、必要額を一律に平均して考えることが難しいことを示している。
 一方、DCでは、収入・必要額とも約15万円であることが分かる。これは、必要額が15万円であるので、仕送りやアルバイト等により、収入額を必要額まで押し上げていると考えるのが適当であろう。中でも奨学金が大きな収入源がとなっていることが分かる。奨学金というシステムが、一応の成果を上げていると評価することができるであろう。しかし、学振による給与や奨学金を受けていないDCが約1割ほど存在すること、奨学金のみでは収入が不足していることは、給付条件や額を見直していく必要があると考える。

3−1.関心事1位

・PD(28人)::就職(21人, 75%)、研究内容(7人, 25%)

・DC(50人):就職(16人, 32%)、研究内容(29人, 58%)、研究環境(1人, 2%)、特になし(1人, 2%)、その他(3人, 6%)博士号取得2人・病気の回復1人

・MC(18人):就職(10人, 56%)、研究内容(6人, 33%)、研究環境(1人, 6%)、その他(1人, 6%)経済的問題

3−2.関心事2位

・PD(27人):就職(4人, 15%)、研究内容(16人, 59%)うち業績3人、研究環境(7人, 26%)

・DC(49人):就職(21人, 43%)、研究内容(16人, 33%)、研究環境(8人, 16%)、その他(4人, 8.2%)学位1人・人間関係2人・私的なこと1人

・MC(16人):就職(4人, 25%)、研究内容(6人, 38%)、研究環境(3人, 19%)、その他(3人, 19%)生活等・進学か就職か・病気の父

3−3.その他(3位以下)の関心事内容

・PD:出産子育て、将来の親の介護問題、将来の人生設計、研究室での人間関係、所得

・DC:収入、女性研究者問題、時間がない

PDの期限と関心事に関して

 回答者の期限は、1年〜5年、平均では約3年(2.9年)であった。概して、PDの任期が短い回答者ほど、関心事の上位に「就職」が挙げられており、それは完全に「研究内容」を上回っていた。現在の研究より、次の職を気にするということは、PDにとっても、雇用する側にとっても、あまり好ましい状況とは考えられない。多くの場合、新しい仕事を始めてから、研究の成果が形(論文など)になって現れるのは最低でも2〜3年、平均では4〜5年ほど必要であろう。そのことを考えると、PDの期限としては、4〜5年以上であることを望みたい。

4−1.希望就職先1位

・PD(26人):大学(21人, 81%)、公務員研究職(3人, 12%)、PD(1人, 不分, 4%)、企業研究職(1人, 4%)

・DC(46人):大学(20人, 43%)、公務員研究職(8人, 20%)・教員(1人, 2%)、PD(12人, 26%)日4人・米5人・欧2人・不分1人、企業(2人, 4%)、特になし(2人, 4%)、分からない(1人, 2%)

・MC(17人):大学(8人, 47%)、公務員研究職(1人, 6%)・教員(1人, 6%)、PD(3人, 18%)日2人・米1人、企業(2人, 12%)

4−2.希望就職先2位

・PD(23人):大学(2人, 9%)、公務員研究職(12人, 52%)、公務員不分(1人, 4%)、PD(7人, 30%)日4・米3、企業研究職(1人, 4%)

・DC(43人):大学(14人, 43%)、公務員研究職(10人, 20%)・教員(1人, 2%)、PD(15人, 26%)日9人・米4人・欧2人、企業(2人, 4%)、その他(1人, 4%)弁理士

・MC(16人):大学(3人, 19%)、公務員研究職(3人, 19%)・教員(2人, 13%)、PD(6人, 38%)日2人・米3人・不分1人、その他(1人, 6%)ボランティア団体職員

4−3.PDを選択の1つと回答した人数(順位不問)

・PD(25人):20人, 80%(平均順位2.6、希望先:日11人・米5人・欧1人・不分3人)

・DC(43人):41人, 89%(平均順位2.0、希望先:日25人・米10人・欧5人・不分1人)

・MC(17人):13人, 76%(平均順位2.2、希望先:日6人・米4人・欧1人・他1人・不分1人)

4−4.企業への就職を選択の1つと回答した人数(順位不問)

・PD(25人):14人, 56%(平均順位3.3)

・DC(43人):29人, 63%(平均順位3.3)

・MC(17人):11人, 65%(平均順位2.5)

4−5.就職希望理由(全文)を見たい方は、ここをクリックして下さい

就職に関して

 予想通り、大学等の職を希望する回答者の比率は、いずれの場合でも最も高く、特にPDでは80%を越えることが分かった。また、DC・MCではPDを希望就職先の第1希望とする回答が20%程あった。特に、DCでは、1位と2位を合計すると半数以上が、PDを選択の1つとして挙げている。PDを希望する理由としては、経験を積みたい、視野を広げたい、修行として、縛られずに研究ができそうだから、語学の修得のため等が挙げられている。国内のポスドク希望者より、国外の方が希望が多いことは注目すべき点であろう。一方、企業を希望するのはわずか8%であった。独立した研究者になることを希望する大学院生にとって、PDを経験することは、もはや避けて通れないというように理解しているのであろう。しかし、いずれも”とりあえず”と過渡的に考えている意見が目立ったため、PD期間を終えた後では、やはり彼らの多くが現在のPDと同様に、大学等の職を希望する可能性は高い。動物学会の一般会員数(1701人、含PD)と学生会員(436人、主にDCとMC)を考慮しても、終身雇用職の門戸は、決して広いとは言えないであろう。

5−1.問題点1位

・PD(21人):経費(3人, 14%)、研究内容(1人, 5%)、研究場所(4人, 19%)、人間関係(7人, 33%)、その他(6人, 29%)雑務が多い・将来の保証がないこと・期間限定(5年)であること・ポスドクでの所属決定後の研究室の方針転換・職を得るのに必要な業績と雇用期間のギャップ・研究環境および設備

・DC(50人):経費(13人, 26%)、研究内容(8人, 16%)、研究場所(15人, 30%)、人間関係(12人, 24%)、特になし(1人, 2%)、その他(1人, 2%)

・MC(17人):経費(4人, 24%)、研究内容(0人)、研究場所(5人, 29%)、人間関係(3人, 18%)、特になし(4人, 24%)、その他(1人, 6%)専門家を雇うインフラが整備されていない

5−2.問題点2位

・PD(19人):経費(3人, 16%)、研究内容(4人, 21%)、研究場所(8人, 38%)、人間関係(3人, 16%)、その他(1人, 5%)

・DC(41人):経費(9人, 22%)、研究内容(16人, 39%)、研究場所(3人, 7%)、人間関係(11人, 27%)、その他(2, 5%)大学院生の数に対して教官が少なすぎる・研究について充分に相談できる人がいない・スタッフの知識のなさ・実験の設備など

・MC(10人):経費(3人, 30%)、研究内容(1人, 10%)、研究場所(3人, 30%)、人間関係(2人, 20%)、その他(1人, 10%)教官数が少ない・院生学生の人数が少ない・基礎研究に対する社会(世間)の無理解

問題点

 PD・DC・MCのいずれにおいても、経費以上に研究場所という回答が多かった。これは、共通した問題であると考えられる。また、DC・PDとなるにしたがい、人間関係という回答が増え、PDでは最も多かった。

6−1.専門分野

・PD(28人):態 (2人)、動 (9人)、系 (1人)、物 (2人)、分 (1人)、細 (2人)、発 (6人)、他 (3人)、無(2人)

・DC(50人):形 (2人)、動 (13人)、系 (2人)、物 (3人)、分 (7人)、細 (6人)、発 (10人)、他 (6人)、無 (1人)

・MC(18人):遺 (1人)、態 (1人)、動 (4人)、分 (1人)、細 (1人)、発 (7人)、他 (1人)、不分 (1人)、無 (2人)

6−2.申請分野

・PD(28人):態 (3人)、動 (9人)、系 (1人)、物 (1人)、分 (1人)、細 (3人)、発 (5人)、他 (0人)、不分 (3人)、無 (2人)

・DC(50人):形 (2人)、動 (11人)、系 (3人)、物 (4人)、分 (4人)、細 (4人)、発 (10人)、他 (7人)、不分 (3人)、無 (2人)

・MC(18人):遺 (1人)、態 (1人)、動 (3人)、系 (1人)、分 (1人)、細 (1人)、発 (5人)、他 (1人)、不分 (2人)、無 (2人)

7−1.自分の裁量で使える経費(万円)

・PD(28人):<50万 (2人)、50-100 (4人)、100-300 (10人)、300-500 (0人)、500-1,000 (0人)、>1,000 (1人)、不分 (5人)、無 (6人)

・DC(50人):<50万 (15人)、50-100 (10人)、100-300 (0人)、300-500 (0人)、500-1,000 (0人)、>1,000 (0人)、不分 (17人)、無 (8人)

・MC(18人):<50万 (5人)、50-100 (2人)、100-300 (0人)、300-500 (0人)、500-1,000 (1人)、>1,000 (0人)、不分 (4人)、無 (6人)

7−2.希望する経費の額(万円)

・PD(28人):<50万 (0人)、50-100 (3人)、100-300 (14人)、300-500 (3人)、500-1,000 (0人)、>1,000 (2人)、不分 (2人)、無 (4人)

・DC(50人):<50万 (2人)、50-100 (14人)、100-300 (15人)、300-500 (5人)、500-1,000 (0人)、>1,000 (0人)、不分 (8人)、無 (6人)

・MC(18人):<50万 (2人)、50-100 (3人)、100-300 (2人)、300-500 (0人)、500-1,000 (0人)、>1,000 (0人)、不分 (6人)、無 (5人)

研究経費に関して

 PDにおいても、”分からない”あるいは”無回答”が多いのは、自分の研究費として個別に管理していない、あるいは他の人と一緒に使っているめだと思われる。また、PDでも結局は自分の裁量で研究費を運用できず、職員が管理しているということが多いという意見があった。職員側からすれば、消耗品等に関しては、同じことが言える場合もあるかも知れない。結局は程度の問題ということであろうか。

8−1.ポスドク・大学院生の処遇や研究環境に関する、問題点や提案等(概要)

(*は、人数を表します。全文をご覧になりたい方は、ここをクリックして下さい

教職員

・職員が科研費でPDを雇用できるようにすべき ******

・適当と認められる者だけ博士課程に進学させるべき、安易に進学を勧めるな。学位の水準に関して、大学も責任を持つべき ****

・DCの授業料を廃止、PDの経済的支援を ****

・研究者をディスポーザブルに扱うような方針を改めるべき ***

・学位所得者の職場を増やす努力が必要 **

・奨学金・学振の枠を増やせ **

・PDの分野が偏っている*

・生物系はまだまし。他の分野も参考にせよ*

・研究スペースが最大の問題*

・現状で院生ポスドクの数を増やす方針には納得できない*

・一般公募を増やせ*

・生物学の基礎研究を大切にせよ*

・現状で先の見通しがないポスドク制度は、廃止するべき*

・PDの給与を減らして、採用件数を増やせ*

・最低限今の教官数を維持することが大切*

・問題を国民に広くアピールすべき*

PD

・能力や家族構成を考慮した給与支給を **

・期間を長く **

・少子化に合わせて学生数を減らせ*

・研究費配分を適性化せよ*

・PDは就職への橋渡し的なポジション*

・就職先を増やす努力が必要*

・研究者をディスポーザブルに扱うような方針を改めるべき*

・論文博士の廃止とPDの企業への就職*

・PDにもかかわらず、雑用が多い*

・PDは若手研究者の訓練期間*

DC・MC

・院生に経済的支援を、収入が得られるシステムを *******

・一般企業・地方公務員などの就職口の拡大 ******

・大学での教官の働きを評価するシステムを作れ ****

・PDの奨学金免除職の枠拡大 ***

・自分の研究以外の仕事が多い ***

・研究費やポスドク・学振受給者が特定の場所に集中しすぎる ***

・大学の教官・秘書・技官の数を増加させよ **

・教官に服従することが必要だという考えを改めよ*

・大学の研究環境を改善せよ*

・DCの授業料くらいは免除せよ*

・研究スペースを拡大せよ*

・世間の理解拡大*

8−2.ポスドク・大学院生への情報サポート体制に関する学会への要望(概要)

(*は、人数を表します。全文をご覧になりたい方は、ここをクリックして下さい

・ONLINEで情報サービスを(登録や申し込みを含めて) *****

・特に、公募情報が見られるように **** #下をご覧下さい

・このアンケートの結果を活用せよ ***

・真にやる気のある学生に役に立つ情報を提供せよ*

・NACSIS英語版と作ってはどうか?*

・生物系学会共同でWebジャーナルを作ってはどうか?*

・このアンケートの結果を公開してもらい、議論したい*

・同じ立場での情報交換がしたい*

・PDの中立的な相談機関が欲しい*

・世間にアピールせよ*

#文部省国立情報学研究所「研究者公募情報」(http://cis.nacsis.ac.jp/)などがあります。ご活用下さい。

9.その他の意見や要望(概要)

(*は、人数を表します。全文をご覧になりたい方は、ここをクリックして下さい

・大学間の格差是正を*

・PDが研究者なのか実験補助者なのか明確化を*

・PDの任期延長を*

・自分の研究費も結局講座の研究費として使われる*

・研究者人口を増やす努力を*

・世間の人にポスドクを知ってもらいたい*

・学位の基準を全大学で統一せよ*