本部企画シンポジウム

第1回茗原眞路子研究奨励助成記念シンポジウム

2020年9月3日 12:50〜14:00 (ウェビナー参加登録
オーガナイザー:日本動物学会会長 岡 良隆 OKA, Yoshitaka(東京大学)

講演者:
12:50~12:53 岡 良隆  OKA, Yoshitaka(東京大学;動物学会会長)
シンポジウム趣旨説明
12:53~13:00 高橋 三保子  TAKAHASHI, Mihoko(第1回茗原眞路子研究奨励助成金 選考委員長)
第1回茗原眞路子研究奨励助成について

13:00〜13:20 小林 千余子  KOBAYASHI, Chiyoko(奈良県立医科大学医学科生物学教室)
淡水産マミズクラゲの性決定及び生物伝搬の謎に迫る
Mystery of the sex determination in the freshwater jellyfish, Craspedacusta sowerbii.

淡水棲マミズクラゲ(Craspedacusta sowerbii, Lankester 1880)は、毎年日本のどこかの都市でその出現が話題になり、夏の風物詩的に扱われている。その分布域は非常に広大で、南極大陸を除くすべての大陸での発見報告がある。さらに1つの池で1性別しか観察されないことが多く、性決定や生物伝播に謎があるクラゲである。しかしながらポリプの入手が難しく、その生態が調べられてこなかった。P. Lytle(1982)による本種についての総説でも、「本種の雌雄を得、その発生を見ることができるのは極めて稀でラッキーなこと」と書かれている。我々は2011年より数カ所の池からマミズクラゲポリプの採集に成功し、さらにそれぞれの池のポリプ1個体からの増殖に成功した。また現在ではマミズクラゲの全生活環のすべての過程を実験室で再現することもできている。
このマミズクラゲには、芽体形成決定機構と性決定機構及び生物伝播という3つの大きな謎があると考えている。性決定機構の謎について、動物の性決定機構には遺伝性と環境性が考えられるが、マミズクラゲの場合、もし性が遺伝的に決まっているのなら、なぜ、片方の性しか出現しないのか、対して環境要因によって性が決まるのなら、その原因は何なのかが問いとなっていた。全生活環を明らかにする過程での飼育観察では、メス池から増殖させたポリプ個体から得たクラゲからは卵巣が発達し、オス池から増殖させたポリプ個体から得たクラゲからは精巣が発達した。このことからマミズクラゲはポリプ世代では雌雄が決定していることが推察された。今後は実験室で交雑させた株の雌雄を調べることで、マミズクラゲの謎の1つであった性決定機構について、遺伝的要因か環境要因かの決着をつけることができると考えている。
生物伝播の謎について、マミズクラゲを含むCraspedacusta属の種分類は、形態による判別が非常に困難で、通説では、マミズクラゲ1種のみで形成される属だろうとされてきた。しかしながら、広大な分布域に対して「本当に1種であるのか?」の疑問が残り続けていた。近年、原産地と考えられている中国で行われた、ミトコンドリアCOⅠ(cytochrome oxidase subunit Ⅰ)遺伝子及びリボソーマルDNAのITS(Internal transcribed spacer)領域を用いた系統解析の結果から、Craspedacusta属は、少なくとも3つの分類群(クレード)に分けられるのではないかとの仮説が提唱された。そこで日本で採集したマミズクラゲのCOⅠ遺伝子及びITS 領域の塩基配列を決定し、系統樹を作製することで、日本産マミズクラゲがどのクレードに属するのか、また伝播の由来等を考察したい。

13:20〜13:40 杉浦 真由美 SUGIURA, Mayumi(奈良女子大学研究院自然科学系生物科学領域)
原生生物繊毛虫における有性生殖の多様性を探る
Exploring diversity of sexual reproduction in ciliated protists.

原生生物繊毛虫は単細胞性の真核生物であり、多くの淡水性の繊毛虫は、栄養が豊富な環境下ではバクテリアなどを捕食して二分裂を繰り返して増殖する。栄養源が枯渇し貧栄養条件下におかれると、相補的な性(接合型)をもつ細胞間で交配フェロモンを介した相互作用の結果、有性生殖(接合)を開始することが知られている。繊毛虫はひとつの細胞の中に二種類の細胞核(生殖核と体細胞核)をもち、相補的な接合型細胞間で接合対が形成されると、これらの核をまるで生殖細胞と体細胞のように使い分けながら一連の接合過程を進行させる。私達は、繊毛虫の中でも比較的原始的なグループと考えられており、他の繊毛虫ではみられない独特な特徴がある接合システムをもつブレファリズマ属に注目している。ブレファリズマは、2種類の相補的な接合型(I型、II型)をもち、I型細胞は糖タンパク質である交配フェロモン(ガモン1)を分泌し、II型細胞はトリプトファン誘導体である交配フェロモン(ガモン2)を分泌する。他の繊毛虫で明らかになっている交配フェロモンは全てペプチド性物質であるのに対し、唯一ブレファリズマは糖タンパク質とアミノ酸誘導体という全く異なる2種類の物質を交配フェロモンとして用いている。私達は、ブレファリズマの独創的な接合システムの分子機構を明らかにすることによって、繊毛虫の接合に関する新たな知見を得ること、そして繊毛虫の接合の多様性や普遍性を探ることを目的としている。これまでに、栄養条件の変化によって誘導される接合開始のメカニズムに特に注目し、ブレファリズマ属の複数種において交配フェロモン(ガモン1)の構造決定や発現解析等を行ってきた。また、性成熟度や接合型の異なるブレファリズマを用いた網羅的解析を行い、ブレファリズマの接合のメカニズムを分子レベルで解析するための基盤を構築してきた。この度、茗原眞路子研究奨励助成金対象者として採択していただいたことにより、今後はこれまでの研究成果を基に、ブレファリズマ属の中でもより原始的と考えられる種の交配フェロモンの特徴を調べることによって「ブレファリズマ属における交配フェロモンの多様性」や「交配フェロモン受容体候補の探索」を中心に進めていきたいと考えている。本講演では、これまでの研究成果の中から、主にブレファリズマの交配フェロモンに関して明らかになってきたことを紹介したい。

13:40〜14:00 田所 竜介 TADOKORO, Ryosuke(岡山理科大学・工学部バイオ応用化学科)
ヤマトヒメミミズの再生の全容解明を目指した基盤技術の創出
Regeneration of earthworms: Toward understanding cell behavior and cell lineage.

日本の固有種であるヤマトヒメミミズは細胞レベルの解析に適した透明な体をもち、自ら体を約10断片程に切断したのち、これらのミミズ断片が失った頭部と尾部を完全に再生して約10個体にクローン増殖する。再生の速度が極めて早く、切断から僅か半日で再生芽ができて、2日で脳・神経・消化管などの原基が再生する。一方、飼育条件を変えると生殖様式がスイッチし、頭部体節に生殖細胞を発達させて有性生殖によって増殖する。ヤマトヒメミミズが発見されたのち、これまで茗原眞路子先生や北海道大学の栃内新准教授らによって研究が進められてきた。私は博士課程の時にヤマトヒメミミズの研究に参入し、生殖細胞の再生の一旦を明らかにした(Tadokoro et al. 2006)。ヤマトヒメミミズは雌雄同体で、頭部の特定の体節に雌雄それぞれの生殖細胞を持つ。これらの生殖細胞を持つ頭部領域は、無性生殖時の自切により失われるが、体が再生したのちにはどこからか再生される。私は腹側神経索付近にpiwi遺伝子を発現する一群の細胞を見出し、これらが生殖細胞を生み出す幹細胞であるとの説を提唱した。それから十数年経ったいまも、これらの細胞が実際に頭部の生殖細胞を生み出す源となるのかを証明するには至っていない。一方、体細胞組織の再生に関しても、組織器官がどこからどのように再生するのかは未だ明らかにされていない。これはミミズにおいて細胞・分子生物学的な解析技術が枯渇していることに起因する。学位取得後、長らくミミズ再生の研究を中断していたが、昨年独立したことをきっかけとしてミミズの研究を大々的に展開したいと考えて本助成に応募させて頂いた。
今回の助成を受け、私はミミズの再生における全細胞系譜と細胞挙動を明らかにすること目標として、1)1細胞観察が可能なライブイメージング法を確立し、2)光変換型蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックミミズの作成を目指す。このトランスジェニックミミズが作成できれば「自切による大量クローン増殖(系統維持)→人為切断→特定の細胞を変換光で標識→細胞追跡」という作業を繰り返して、再生における細胞系譜をハイスループットで調べることができるようになる。ミミズの再生は幹細胞に加えて脱分化も併用する複雑なものであり、この再生を理解することは脊椎動物などの「幹細胞+脱分化」型の再生を理解する上でも意義深い。本計画による技術開発をスタートライントして、ヤマトヒメミミズを新たなモデル動物として押し上げ、再生研究を牽引したいと考える。本講演ではこれまでの研究と本助成における研究計画を概説する。