日本動物学会会員各位
6月12日(土)午前9時半より開催された日本動物学会理事会において、Zoological Science編集委員会より、2021年度Zoological Science Award候補論文が推薦された。審議の結果、日本動物学会理事会は、下記の5論文にZoological Science Award の授与を決定した。論文の著者には、賞状と賞金5万円が贈られる。
公益社団法人 日本動物学会
Clock Gene Expression in the Eye Exhibits Circadian Oscillation and Light Responsiveness
but is Not Necessary for Nocturnal Locomotor Activity of Japanese Loach, Misgurnus
anguillicaudatus
Yuya Saratani, Yuki Takeuchi, Keiko Okano, Toshiyuki Okano
Zoological Science 37(2): 177-192.
分野 Neurophysiology
本論文は、東アジアに広く生息し、水産養殖資源としても重要なドジョウの日周活動と眼
の遺伝子発現に着目し、本種が持つ概日リズムとその光同調に関わる光入力経路を調べた
ものである。個体の活動量の丁寧な解析により、概日リズムとその光同調性が示された。
また、眼の時計遺伝子発現にも明瞭な概日リズムが観察されたが、眼球摘出実験から活動
リズムを駆動する概日時計は眼以外に存在し、その光同調には網膜外光受容器が関わるこ
とが示された。さらに、網膜に発現する視物質を網羅的に調べ、分光測定、免疫組織化学
によりオプシンの生化学的性質と所在を明らかにし、時間生物学、光生物学における顕著
な成果を報告した。
Isolation and Characterization of Feeding-Deficient Strains in Inbred Lines of the
Hydrozoan Jellyfish Cladonema pacificum
Kazunori Tachibana, Masaaki Matsumoto, Aiko Minowa, Ryusaku Deguchi
Zoological Science 37(3): 263-270.
分野 Genetics
本論文の研究は、刺胞動物の摂餌行動・反応の分子メカニズムを遺伝学的に解明するため、
エダアシクラゲCladonema pacificumをモデルに近交系の確立を目指して開始された。そ
の過程で摂餌障害が見られる系統が多数出現し、近交化自体は第5世代で終了したものの、
メデューサ世代のみで一時的に摂餌障害を示す系統の摂餌行動が解析された。この摂餌障
害系統は、触手で餌を捕まえることはできるものの、25%以下の頻度でしか餌生物を殺し
て食べることができなかった。そして、貫通刺胞の一種である狭端体が触手にはほとんど
存在しないことから、分化した狭端体が触手に正しく配置されないことが摂餌障害の原因
と考えられた。刺胞動物における近交系の確立、ならびに刺胞の分化や摂餌行動の解明に
向けての重要な成果である。
Cryptic Speciation of the Oriental Greenfinch Chloris sinica on Oceanic Islands
Takema Saitoh, Kazuto Kawakami, Yaroslav A. Red’kin, Isao Nishiumi, Chang-Hoe Kim,
Alexey P. Kryukov
Zoological Science 37(3): 280-294.
分野 Taxonomy
カワラヒワはロシア・中国・韓国・日本に分布する種子食フィンチであり、最大で8亜種
から構成される種と見なされてきた。しかし、本論文の著者らがおこなった分布域全域(す
なわち全亜種)を網羅した分子系統解析や形態形質の比較分析はこれまでに無かった。著
者らはこれまで亜種とされてきた小笠原諸島の個体群が狭義のカワラヒワとは生物学的に
異なる種(オガサワラヒワ)であることを明らかにし、それが絶滅危惧の恐れがある数少
ない日本固有種であることを示した。この成果は分類学上の一発見にとどまらず希少種の
保全などの観点からも広く世間の注目を集めており、幅広い動物学への貢献が高く評価で
きる。
Facilitated NaCl Uptake in the Highly Developed Bundle of the Nephron in Japanese Red
Stingray Hemitrygon akajei Revealed by Comparative Anatomy and Molecular Mapping
Naotaka Aburatani, Wataru Takagi, Marty Kwok-Sing Wong, Mitsutaka Kadota, Shigehiro
Kuraku, Kotaro Tokunaga, Kazuya Kofuji, Kazuhiro Saito, Waichiro Godo, Tatsuya
Sakamoto, Susumu Hyodo
Zoological Science 37(5): 458-466.
分野 Physiology
軟骨魚類は一般に尿素を血液中に蓄えて外界との浸透圧差に対応しているが、エイとサメ
を比べると、エイの方が低浸透圧環境に適応可能な種が多い。著者らはこの広塩適応が可
能な理由の解明のため、実際にサメと比較してエイの腎臓が尿生成時に尿素および塩類の
再吸収を効率的におこなえることを示した。さらに,そのエイの腎臓の能力は、腎臓にお
けるネフロンの構造や細尿管で発現している輸送体タンパク質の発現量の違いによって生
じていることを明らかにした。このように本論文は、組織学・生理学・生化学と多角的に
解析を行うことにより、浸透圧適応における重要な知見をもたらした。
Germ Cell Development in Male Perinereis nuntia and Gamete Spawning Mechanisms in
Males and Females
Maria January Peter, Mercedes Maceren-Pates, Gaudioso Pates Jr, Michiyasu Yoshikuni,
Yoshihisa Kurita
Zoological Science 37(6): 519-528.
分野 Developmental Biology
環形動物はきわめて多様な分類群であり、中でも多毛類は多くの種を含んでおり、海洋生
態系において重要な役割を果たしている。また、繁殖様式も多岐にわたるが、生殖細胞が
どのように分化するかなど、その詳細は未解明な部分が多い。本論文は、イソゴカイの生
殖細胞の増殖と分化について、詳細に検討した重要な情報を提供している。生殖系列細胞
をマーカー遺伝子のin situハイブリダイゼーションにより特定し、生殖形態への変態時に
おける配偶子形成や放出の過程を組織学的に詳細に記述し、雌雄の分化についても検討し
ている。動物の生殖様式の多様性を知る上で重要な結果を示しており、高く評価できる。