日本動物学会会員各位
2025年6月11日(水)13時より開催された日本動物学会理事会において、Zoological Science編集委員会より、2025年度Zoological Science Award候補論文が推薦された。
審議の結果、日本動物学会理事会は、下記の5論文にZoological Science Awardの授与を決定した。
論文の著者には、賞状と賞金5万円が贈られる。
Zoological Science Award 2025
Histological Observation of Helmet Development in the Treehopper Poppea capricornis (Insecta: Hemiptera: Membracidae)
Kanta Sugiura, Tensho Terano, Haruhiko Adachi, Jin Hagiwara, Keisuke Matsuda, Kenji Nishida, Paul Hanson, Shigeru Kondo, Hiroki Gotoh
Zoological Science 41 (2): 167-176. https://doi.org/10.2108/zs230039
分野Developmental Biology
動物の進化において、他の系統には見られない新規的な形質の獲得過程を知ることは意義深い。その第一歩として、新規形質の発生過程を整理することは極めて重要といえる。昆虫における新規形質の研究としてカブトムシの角やクワガタの大顎に関するものが知られるが、ツノゼミの角の発生過程についてはほぼ研究例がなく、不完全変態昆虫であるため、角の発生のしくみはカブトムシなどとは異なると考えられる。本論文では、ミツマタツノゼミの一種 Poppea capricornis のヘルメットとよばれる構造の形成過程を詳細に記載し、より単純な形態をもつ Antianthe expansa と比較して、種特異的な構造がどのように生じるのかを議論している。形態学的および組織学的記載が丁寧に行われ、今後の研究発展の礎となることが期待される論文であり、高く評価された。
A CatSper-Uninvolved Mechanism to Induce Forward Sperm Motility in the Internal Fertilization
Sayuri Goto, Tomoe Takahashi, Tae Sato, Fubito Toyama, Eriko Takayama-Watanabe, Akihiko Watanabe
Zoological Science 41 (3): 302-313. https://doi.org/10.2108/zs230046
分野Reproductive Biology
本研究は、イモリの精子において、哺乳類など多くの動物で精子運動に必須とされるCatSperというタンパク質に依存しない、新たな運動制御機構を明らかにしたものである。精子が卵ゼリーに含まれる因子や高いpH環境に応答して活性化される過程を、阻害剤などを用いた丁寧な実験により検証し、運動との関連も明確に示している。本研究は、精子運動の分子機構が脊椎動物内においても種により大きく異なることを実証する貴重な事例であり、生殖機構の進化的多様性を理解する上で有意義な成果として、高く評価された。
Environment-Mediated Vertical Transmission Fostered Uncoupled Phylogenetic Relationships Between Longicorn Beetles and Their Symbionts
Yasunori Sasakura, Nobuhisa Yuzawa, Junsuke Yamasako, Kazuki Mori, Takeo Horie, Masaru Nonaka
Zoological Science 41 (4): 363-376. https://doi.org/10.2108/zs230034
分野Diversity and Evolution
カミキリムシの幼虫は食材性で、一部の種では消化管に付随した共生器官に酵母様の真菌が共生することが知られており、本論文では日本産カミキリムシ類の61属73種289個体について調査が行われ、共生真菌および共生器官の多様性が報告された。Lepturinae, Necydalinae, Spondylidinaeの3つの亜科では発達した共生器官が消化管に付随して存在するものの、共生真菌は必ずしも宿主の系統を反映していないことが明らかにされ、幼虫の成長と共生真菌の役割も調べられている。二次的に共生器官を失った種や、共生器官はみられないが特定の共生真菌を持つものも見出され、共生関係の獲得と進化が議論されている。今後長く引用されていく、網羅的かつ記載的な価値の高い論文として、高く評価された。
Long-Term Heat Tolerance and Accelerated Metamorphosis: Hot Spring Adaptations of Buergeria japonica
Bagus Priambodo, Kento Shiraga, Ippei Harada, Hajime Ogino, Takeshi Igawa
Zoological Science 41 (5): 424-429. https://doi.org/10.2108/zs240011
分野Ecology
本研究では、温泉ガエルとして知られるリュウキュウカジカガエルB. japonicaおよび同属の複数種のオタマジャクシについて、異なる温度環境における長期の耐熱実験を実施した。その結果、B. japonicaは同属他種よりも高い耐熱性を示し、特にセランマ温泉の集団が高い生存率と発生速度の促進を示した。しかし、35℃以上では変態を終えるまで生き延びることができなかった。また、発生が進むに伴って高温志向性が低下することも示され、高温耐性は実際には発生中の一時期に限られる可能性が示唆された。これは温泉ガエルの高温適応に関して新たな知見を与える研究であり、高く評価された。
Electromyography of Flight Muscles in Free-Flying Chestnut Tiger Butterfly, Parantica sita
Noriyasu Ando, Norio Hirai, Makoto Iima, Kei Senda
Zoological Science 41 (6): 557-563. https://doi.org/10.2108/zs240039
分野Physiology
本論文は、自由飛翔中のアサギマダラの胸部に小型のプリアンプを固定し、同時に複数の飛翔筋から筋電位を記録する手法を開発した報告である。翅の運動周期と筋肉活動との関係を解析した結果、羽ばたき周波数が高いスズメガとは周期ごとのスパイク頻度が大きく異なることを見出した。自由行動中の昆虫からの筋電位の計測はこれまでにも事例があるが、アサギマダラのような軽量な種の飛翔筋活動の測定を実現した点は意義深い。飛翔昆虫の羽ばたき飛行の多様性とその運動メカニズムの解明において今後の発展が大きく期待され、高く評価された。
以上
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