第615回動物学会北海道支部講演会

日本動物学会北海道支部 第615回支部講演会
日時:2026年9月7日(月) 13:00~14:00
場所:北海道大学 理学部5号館3階 305号室
演者:三井 優輔 博士(京都大学医生物学研究所)
演題:分泌シグナルのWntが濃度勾配によらず細胞の方向性を決める仕組みとそのin vitroでの再構成系
要旨:胚発生では細胞の位置や方向性の情報が正しく制御されることが極めて重要であるが、分泌性のシグナルタンパク質は濃度勾配を作ることで、その制御に関わると考えられてきた。その例としてWntは位置情報や細胞の方向性の一種である平面細胞極性(planar cell polarity, PCP)の制御に関わることが知られる。しかし、脊椎動物ではWntタンパク質の実際の分布についてはほとんど知見がなく、濃度勾配説もダイレクトな検証はされてこなかった。
 PCPは1細胞内で偏った局在を示すPCP因子と呼ばれる一連のタンパク質群によって作られる。私たちはPCPの制御に関わるWnt11のアフリカツメガエル胚での可視化に基づき、その制御機構の解明に取り組んだ。その結果、Wnt11は濃度勾配を作ることなく、むしろ細胞膜上でPCP因子同様に偏った分布を示すことを発見した。この特異な分布はWnt11がPCP因子とともに複合体を形成することで生じること、さらにWnt11はこの複合体を安定化させることでPCPを制御することを見いだした(Mii et al., Science Advances 2026)。従来の濃度勾配説は暗黙のうちにWntがトップダウン的にPCPを制御することを仮定していたが、むしろ局所での相互作用に基づくボトムアップ型の作用機構があることを明らかにした。
 またツメガエル胚での観察に着想を得て培養系でPCPを再現することに成功した(Matsuo et al., bioRxiv 2026)。さらにPCP因子はこれまで偏ることで生理機能を発現すると考えられてきたが、この実験系を端緒に「偏らない」PCP因子も細胞増殖の制御や上皮のバリア機能など、組織恒常性や組織の基本構築に関わる生理機能を担うことを見いだしており、その最新の知見についても議論したい。
第615回支部講演会
世話人:
藤森 千加(北海道大学 理学研究院)
c-fujimori[a]sci.hokudai.ac.jp
[a]を@に変えてください
エゾリス(旭川医科大学RI実験施設 長原稔和氏提供)

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