日本動物学会会員各位
6月4日(土)13時より開催された日本動物学会理事会において、
Zoological Science編集委員会より、2022年度Zoological Science Award候補論文が推薦されました。
審議の結果、日本動物学会理事会は、下記の5論文にZoological Science Awardの授与を決定しました。
論文の著者には、賞状と賞金5万円が贈られます。
Zoological Science Award 2022
Analysis of the Mitochondrial Genomes of Japanese Wolf Specimens in the Siebold Collection, Leiden
Shuichi Matsumura, Yohey Terai, Hitomi Hongo, Naotaka Ishiguro
Zoological Science 38(1): 60-66.
分野 Genetics
本論文では、ライデン博物館所蔵のニホンオオカミと表記された3つの標本に関して、他のニホンオオカミ標本と共にミトコンドリアDNA配列を指標とした系統解析が行われた。その結果、所蔵されていた標本の中でも謎であった比較的小型の個体は、オオカミではなくイヌであることが明らかとなった。また、ニホンオオカミは2つの系統に大別できることも明らかとなった。本研究は絶滅種の古代DNAを用いて、混乱していたニホンオオカミの種記載の整理を進めたものであり、高く評価できる。
Developmental Process of a Heterozooid: Avicularium Formation in a Bryozoan, Bugulina californica
Haruka Yamaguchi, Masato Hirose, Mayuko Nakamura, Sumio Udagawa, Kohei Oguchi, Junpei Shinji, Hisanori Kohtsuka, Toru Miura
Zoological Science 38(3): 203-212.
分野 Diversity and Evolution
本論文は、群体動物であるコケムシ類における異形個虫(鳥頭体)の発生過程を丹念に追跡したものである。これまでのコケムシ各種の形態的記載論文から、鳥頭体が通常の常個虫が変化したものであることは示唆されていたものの、その発生過程についての記載はほぼ皆無であった。本論文では、付属性鳥頭体(各常個虫に鳥頭体が付く)ナギサコケムシを対象に、鳥頭体の形成過程を形態学的および組織学的に詳細に観察した。本研究は、群体動物の多型現象の解明や進化を理解する上でも重要な示唆を与える研究成果である。
Programmed Scale Detachment in the Wing of the Pellucid Hawk Moth, Cephonodes hylas: Novel Scale Morphology, Scale Detachment Mechanism, and Wing Transparency
Akihiro Yoshida, Yoshiomi Kato, Hironobu Takahashi, Ryuji Kodama
Zoological Science 38(5), 427-435.
分野 Physiology
オオスカシバは、ハチに擬態しているスズメガの一種で、きわめて透明度の高い翅をもつ。成虫が羽化した時には、他のチョウ目昆虫と同様に翅は密集した鱗粉に覆われているが、羽ばたくとともに黄金色に輝く鱗粉が抜け落ちてほとんどの部分が透明になる。本論文は、鱗粉が抜け落ちる過程をビデオで詳細に観察するとともに、本種の抜け落ちる鱗粉は抜け落ちない部分の鱗粉とは異なるいくつかの形態的特徴をもっており、中でも柄が先細になっていることが、羽ばたくと抜け落ちることの原因となっていること明らかにした。特徴ある動物の性質を、きめ細やかに解明した優れた研究である。
Dynamics of Spermatogenesis and Change in Testicular Morphology under ‘Mating’ and ‘Non-Mating’ Conditions in Medaka (Oryzias latipes)
Ruka Sumita, Toshiya Nishimura, Minoru Tanaka
Zoological Science 38(5), 436-443.
分野 Reproductive Biology
本論文は、メダカの精子形成ダイナミクスが、雌のパートナーがいるときといないときで異なり、それに伴い精巣の形態も変化することを示す論文である。非配偶行動条件下では、配偶行動を行っている条件よりも生殖細胞シストが減少し、有糸分裂活性も下がる一方で、減数分裂以降から精子までになるまでの時間は変わらないこと、ロビュールや輸精管の形態が異なることも明らかにされた。精子形成が配偶行動相手の有無などの環境や行動の結果によって制御されるという報告は、メダカの生殖生物学に留まらず、動物の環境や行動と生理の連関の新たな可能性を提示する研究であり、高く評価できる。
Evaluation of Visual and Tactile Perception by Plain-Body Octopus (Callistoctopus aspilosomatis) of Prey-Like Objects
Sumire Kawashima, Yuzuru Ikeda
Zoological Science 38(6): 495-505.
分野 Behavioral Biology
本論文は、軟体動物の中でも特に発達した脳を持つ頭足類のタコを用い、動物が物体認知の際に用いる感覚モダリティの優先度、複数モダリティの効果を行動学的に調べたものである。熱帯の沿岸に生息するヒラオリダコは、餌となるカニを視覚と触覚を使って認識することを行動実験から示した。また、複数パターンの模型を用いることにより、本種は視覚と触覚を組み合わせて餌を認識していること、視覚が触覚に比べて餌認知に効率よいことを示唆した。行動生物学への貢献のみならず、今後、軟体動物の知能を探るうえでも有用な実験系として利用できる重要な成果である。
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