日本動物学会会員各位
6月17日(土)12時より開催された日本動物学会理事会において、Zoological Science編集委員会より、2023年度Zoological Science Award候補論文が推薦された。
審議の結果、日本動物学会理事会は、下記の6論文にZoological Science Awardの授与を決定した。
論文の著者には、賞状と賞金5万円が贈られる。
Zoological Science Award 2023
Satellite Tracking of Migration Routes of the Eastern Buzzard (Buteo japonicus) in Japan through Sakhalin
Naoya Hijikata, Noriyuki M. Yamaguchi, Emiko Hiraoka, Fumihito Nakayama, Kiyoshi Uchida, Ken-ichi Tokita, Hiroyoshi Higuchi
Zoological Science 39 (2): 176-185
分野Behavioral Biology
本論文は、衛星発信機を猛禽類のノスリに装着して追跡した研究である。4地点で捕獲された22個体の複数年にわたるデータを解析し、北上・南下ルート、繁殖地、越冬地、中継地などを明らかにした。樺太から中国四国地方まで移動するなど、ノスリの重要な基礎的生態情報を提供したという点で価値が高いだけでなく、近年増加している風力発電の鳥類生態系への影響を議論しているという点も評価できる。
Phylogenetic Separation of Holotrichia Species (Insecta, Coleoptera, Scarabaeidae) Exhibiting Circadian Rhythm and Circa‘bi’dian Rhythm
Sakiko Shiga, Yuzuru Omura, Yuta Kawasaki, Kohei Watanabe
Zoological Science 39 (3): 227-235
分野Behavioral Biology
24時間周期の概日リズムは様々な動物で知られるが、その二倍の周期である概「倍」日リズムの存在もオオクロコガネなどいくつかの動物で示されている。本論文では、日本産のクロコガネ属を詳細に調べた結果、コクロコガネも概倍日リズムを持つ一方で、クロコガネ、マルオクロコガネ、リュウキュウクロコガネは通常の概日リズムを示した。概倍日リズムを持つグループが単系統群を示すことから、オオクロコガネとコクロコガネを含む系統において、概倍日リズムを1回獲得したことが明らかとなった。概日リズムの進化について行動解析と分子系統学的手法を巧みに組み合わせた秀逸な研究であり、高く評価された。
Transcriptomes of Giant Sea Anemones from Okinawa as a Tool for Understanding Their Phylogeny and Symbiotic Relationships with Anemonefish
Rio Kashimoto, Miyako Tanimoto, Saori Miura, Noriyuki Satoh, Vincent Laudet, Konstantin Khalturin
Zoological Science 39 (4): 374-387
分野Phylogeny
本論文は、クマノミ類の宿主であり、沖縄の裾礁に生息するイソギンチャク類3属7種を対象としたトランスクリプトーム解析を行い、イソギンチャク類の頑健な系統関係を解明した。さらに、刺胞特異的に発現する遺伝子に着目し、遺伝子レパートリによる系統樹が種間系統樹と一致すること、刺胞特異的遺伝子数にはイソギンチャク間で大きな差異はない一方で、コピー数の異なる特徴的な遺伝子も見出された。イソギンチャク類とクマノミ類という代表的な共生関係において、宿主側の分子生物学的、系統学的基盤を構築したものであり、共生メカニズム解明の端緒を開くものとして高く評価できる。
Osteoclastic and Osteoblastic Responses to Hypergravity and Microgravity: Analysis Using Goldfish Scales as a Bone Model
Tatsuki Yamamoto, Mika Ikegame, Yukihiro Furusawa, Yoshiaki Tabuchi, Kaito Hatano, Kazuki Watanabe, Umi Kawago, Jun Hirayama, Sachiko Yano, Toshio Sekiguchi, Kei-ichiro Kitamura, Masato Endo, Arata Nagami, Hajime Matsubara, Yusuke Maruyama, Atsuhiko Hattori, Nobuo Suzuki
Zoological Science 39 (4): 388-396
分野Physiology
本論文は、キンギョのウロコを用い、破骨細胞と骨芽細胞が重力に応答し、優れた骨形成の解析モデルになることを示している。ウロコ培養系を用い、遠心分離機を用いた過重力下と三次元クリノスタットを用いた疑似微小重力下で、破骨細胞・骨芽細胞のマーカー遺伝子の発現が相反して応答すること、さらには形態学的変化を示すことを明らかにした。加えて、宇宙実験でも疑似微小重力下での結果が再現されることを示した。骨形成が重力に応答して変化することを様々な実験手法により示した研究であり、高く評価できる。
Phylogeny of g6pc1 Genes and Their Functional Divergence among Sarcopterygian Vertebrates: Implications for Thermoregulatory Strategies
Genki Yamagishi, Min Kyun Park, Shinichi Miyagawa
Zoological Science 39 (5): 419-430
分野Diversity and Evolution
本論文では、糖新生酵素の g6pc1 遺伝子の脊椎動物における進化に着目して解析が行われた。その結果、g6pc1 遺伝子は両生類と有羊膜類では独立に重複しているももの、鳥類ではその後失われていることなどが示されている。筆者らは、哺乳類では一つしかない g6pc1遺伝子が、爬虫類には複数のパラログが存在する点に着目しており、この違いは、エストロゲン感受性や、生存と繁殖などでのエネルギー分配の調整といった生理的進化を考える上でも重要な示唆を与え、今後の展開が期待される研究成果であると評価できる。
Dynamics of Laterality in the Cuttlefish Sepia recurvirostra through Interactions with Prey Prawns
Nahid Sultana Lucky, Kristine Joy L. Tandang, Michelle B. Tumilba, Ryo Ihara, Kosaku Yamaoka, Masaki Yasugi, Michio Hori
Zoological Science 39 (6): 545-553
分野Ecology
本論文は、フィリピンのビサヤ海に生息するコウイカとその餌であるエビ2種の体の左右非対称性について、10年以上かけて取得した膨大な長期的変動データに基づいて解析した研究成果であり、39巻6号の表紙を飾った。コウイカとエビの左右二形の頻度は同期的ではないものの経時的に変動しており、コウイカの左右性比が餌となるエビのそれに追随していたことを見出し、左右非対称性が頻度依存選択によって維持されていることを示唆した。海産無脊椎動物における形態や行動の進化のメカニズムを提示した論文であり、高く評価された。
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