「教養の生物学」第2版 書評

「教養の生物学」第2版 書評

A. Houtman,C. Malone,M. Scudellari著(岡 良隆,岡 敦子訳),東京化学同人,2023年12月,304頁,本体 3,000 円(税別)

本書は、生物学の研究者で、しかも生物学非専攻学生を対象とする生物学教育に深い造詣を持つA. Houtman と C. Malone、さらに科学ジャーナリストでサイエンスライターでもあるM. Scudellari の共著“Biology Now with Physiology, second edition”の翻訳版である。

繙いてまず驚いたのは本書の構成である。26章より成るが、導入の2つの章で「科学とは何か」と「科学的主張の評価」に22ページも割いているのだ。社会における科学の価値を理解してほしい、科学と似非科学を区別できる能力を涵養してほしいという、著者である彼女ら3人の強い思いがここから伝わってくる。

そして何よりも本書の特徴となっているのが、各章がコンパクトにまとまっていることと、研究に関連したトピックを織り交ぜて、具体的かつ丁寧に記述されているところである。各章が、研究者が直面する不思議で興味深い現象の紹介からの仮説立案、そしてそれの科学的検証という謎解きの流れを楽しみながら理解できるところまで繋げているのだ。もちろん、これだけなら面白い科学読み物であり、そのような本は数多く出版されているから、あまり珍しくないかも知れない。本書の凄いところは、厳選されたトピックを使って読者を引き込む文章の力で、各章で扱っている生物学の基礎の概説まで読ませてしまうところであろう。読み物と教科書の融合に成功している好例である。

「まえがき」にも、彼女らは読み手(学生)が各章のなかで科学の過程を理解するとともに、さらに読みたくなる工夫をした、とある。評者が思うに、その狙いは本書で充分に達成されている。しかも、科学者の研究過程を間接経験させることで、読み手の感性をゆさぶることにより、生物学の内容の理解と記憶をより確かなものにさせていると推測される。

以上の優れた特徴がある本書を、教科書としてはどのように使うべきだろうか。訳者のおかげで読みやすい日本語になっている点、図がフルカラーでわかりやすい点はとても良いが、トピックは米国でのやや古い(1990年代の)事例が多く引用されている点が気になった。もちろん、本書の流れのまま話をする形で講義もできるだろうが、日本の学生の立場からすると興味を惹かれ難かったり、残念に感じたりするかも知れない。

だとすると、本書のこの独特の形式はどちらかと言えば参考書向きで、教科書の観点からは「諸刃の剣」となっているのではないか。講義力に優れた先生なら、常に最新の身近なトピックを準備して使うと想像できるからだ。教科書としての使い勝手を第一に追求するなら、実現は難しいだろうが、日本の中学校・高校で用意されている教師用指導書のように、各章のトピック部分は別冊での提供(あるいはインターネット配信)にした方が良いかも知れないなどと考えた次第である。

浅賀 宏昭(明治大学)

「教養の生物学」第2版 書評(PDFファイル)

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