第604回動物学会北海道支部講演会の案内(2025年3月7日)

キタキツネ(旭川市石川医院・石川裕司氏提供)

日本動物学会北海道支部 第604回支部講演会

日時:2025年3月7日(金) 17時~18時半
場所:北海道大学 理学部5号館4階 407号室

演者:渡邊 崇之 博士(総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター 助教)

演題:昆虫の脳・行動の性差はどのようにして生み出されるのか?
〜脳・神経回路の性分化メカニズムを進化生物学的視点から眺めてみる〜

要旨:性に固有な行動は、脊椎の有無を問わず動物界で広く観察される。行動に性差があるということは、その基盤となる神経系にも性差があることを意味する。昆虫のなかでも、特に強力な遺伝学的手法を活用できるモデル生物であるキイロショウジョウバエは、脳・行動の性差に関わる分子機構の研究において多くの知見をもたらしてきた。昆虫は性特異的スプライシングカスケードに制御された細胞自律的性決定機構をもつが、ショウジョウバエ脳内では転写因子をコードする fruitless 遺伝子・doublesex 遺伝子が “terminal differentiator” として機能することが明らかにされている。fruitless 遺伝子・doublesex 遺伝子は性特異的スプライシング制御を受け、性固有の遺伝子産物が生じる。これらを発現する神経細胞集団には顕著な形態的性差が認められ、30年以上にわたる神経遺伝学研究の成果として、これまでに fruitless・doublesex 発現細胞の織りなす性特異的神経回路網が、性行動において重要な機能を果たすことがわかってきた。
一方、昆虫の系統進化を俯瞰すると、モデル生物であるキイロショウジョウバエは、系統的に最も派生的なグループに属することがわかる。昆虫は5億年に及ぶ進化の過程で、翅の獲得や蛹の獲得など、様々な進化的イノベーションを経て多様化してきた。当然、性に固有な行動は昆虫でも普遍的に観察されるわけだが、性行動を司る神経回路の実態やその性差については非ショウジョウバエ昆虫ではこれまでほぼ明らかにされていなかった。そもそも、ショウジョウバエにおいて明らかにされてきた fruitless 遺伝子・doublesex 遺伝子に依存した脳・神経回路の性分化メカニズムが、昆虫でどの程度普遍的なものなのか?ということすら、依然として明確な答えは得られていない。
本セミナーでは、ショウジョウバエとは約4億年前に共通祖先から分岐した不完全変態昆虫であるフタホシコオロギを材料とした神経遺伝学的研究から得られた、昆虫脳の性分化メカニズムに関する最新の知見を紹介する。

第604回日本動物学会北海道支部講演会

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