2022年12月24日
公益社団法人日本動物学会第93回年次大会
早稲田大会・大会実行委員長
加藤尚志
大会後記
日本動物学会会員各位
2022年9月8,9,10日に開催した第93回日本動物学会年次大会 早稲田大会の振り返りをお届けいたします。本大会実行委員会の仕事は,大会ポスターの作成から始まりました。皆様のお目に触れた,あの黒地に動物の足を配置したポスターは,美術大学在学中の長谷部汰朗氏によるものです。3件の原案を制作して頂き,その中から会員投票によって,特に若い方から圧倒的な支持を得て,あのポスターが選ばれました。
2022年3月22日に締め切ったシンポジウム・関連集会は,例年以上の応募数がありました。しかし続く4月から募集した一般演題の応募の出足は鈍く,〆切間近になっても100件をようやく超える程度でした。このためプログラム編成日程を再検討し,異例の2週間もの〆切延長に踏み切ったところ,何かに覚醒を促されたのか,堰を切ったように応募が集まり,最終的には430演題に達しました。やはり,長く続いたパンデミックが学会参加意識に微妙に影響を与えていたのではないでしょうか。高校生ポスター発表についても,学校現場における様々な活動制約の影響を心配しましたが,蓋をあけてみたところ,むしろ混乱なく順調に演題が集まりました。しかし東京では8月第1週目に新たな新型コロナ感染者数が1日あたり3万人を超え,第7波のピークが到来しました。幸いなことに9月に向かって減少していきましたが,全国的な蔓延状況の予測は困難で,実行委員会は,リモート/ハイブリッド開催への転換を含めて様々な検討を重ねました。最終的に,参加者にも万全の感染対策をお願いする一方で,発表会場と懇親会場については定員2/3以下に収容数を抑制する前提で確保を進めるなど,完全対面開催の実現を目指しました。
参加登録数は,8月20日(土)の事前登録〆切の時点で,874名(一般会員381名,学生会員299名,非会員招待者38名,一般非会員21名,学生非会員135名)でした。さらに大会開催期間中に234名(会員33名,非会員を含む学生187名,非会員14名)の参加登録がありました。一般参加者数は大会側の想定よりも若干少なかったものの,学生の参加者は当初予想の2倍以上の600名程になり,合計1,108名の参加者を得て,2年ぶりに盛大な対面交流が実現しました。各カテゴリの内訳を次にお示しします。
公募発表
・一般発表 (430口演,数件の発表取り下げを含む)
・シンポジウム 17件(83口演)
・関連集会・サテライトシンポジウム 6件 (19口演および2企画)
・高校生ポスター発表 71演題
・動物学ひろば 11件(三崎海洋生物,ホヤ,マミズクラゲ,クシクラゲ,ゼブラフィッシュ,プラナリア,ウニとナメクジウオ,ツメガエルとイベリアトゲイモリ,ソライロラッパムシ,チンアナゴ,ハイギョ[中止])
学会企画・行事
・公益社団法人日本動物学会理事会・各種委員会
・本部企画ナリシゲ・シンポジウム
大隅良典先生特別講演および4口演
・動物学国際交流シンポジウム (6口演)
・学会賞等授賞式・奨励賞,学会賞受賞者講演 (4口演)
・学会年次総会
・市民公開講演会「環境と教育の未来~動物学からのメッセージ」(4口演)
大会企画
・動物学会×NHKダーウィンが来た!コラボ企画(2件)
動物学映像化よろず相談所
自然番組制作スタッフ講演会(1口演)
企業展示 9件
企業プレゼンテーション 2件
賛助・広告・ご支援の合計 28団体,2個人
さて,学会といえば,懇親会は世代や所属をこえた貴重な交流の場です。本大会でもパンデミック明けに活発な懇親会を開催すべく鋭意準備を進めました。早稲田大学の新型コロナ感染症対策規定と照らし合わせながら,大学総務部,学会事務局,実行委員会,会場となるホテルの間で何度も打合せを繰り返し,開催日9月9日の直前の8月25日を最終決定期日として,懇親会開催の是非に結論を下すことになりました。その結果,アルコールの提供やバイキング式食事の提供を断念し,食事と談話の会場を分離し,不要不急の懇親会ではなく「学術の情報交換会」を趣旨にすることを条件に,「大集会」の開催にゴーサインが出ました。既に懇親会費を集金しておりましたので,高コスト感を打ち消すためのギリギリの方策を参会者対象に当日施したつもりでしたが,前代未聞のノンアルコール集会はいかがでしたでしょうか?大会アンケートには厳しいコメントがありましたが,「アルコール抜きでも,結構,濃密に懇親できるものなんだね!」と肯定的なご意見も多数頂きました。当夜の会場は,リモートではなしえない,記憶に残る会話で満たされたのだろう,と拝察しております。
早稲田大会では,実行委員の提案や創意工夫を反映して,次の新たな試みをしました。(いずれも学会理事会でお認め頂いた事項ですが,今後の年次大会にも必ず引き継がれる,というものではありません。)
1) 学会員,非学会員,学部生,大学院生を問わず,学生の大会参加費の無料化
2) 一般発表のカテゴリに,「新興・複合領域」の新設
3) 大会実行委員会企画~NHK自然番組「ダーウィンが来た!」とのコラボ企画の実施
4) 企業プレゼンテーションの実施
5) Zoomを使用する口頭発表
1)は,多くの大学,研究機関が集まる東京開催であることをチャンスと考え,若い層に向けて,学術活動の場として動物学会を選択することを歓迎するためです。幸いにも早稲田大学より会場費が免除されて実現しました。2)については,「動物学といえども,常に進歩しているし,そうあるべき」という実行委員若手からの声を反映させて設定しました。フタを開けてみると,このカテゴリで一会場を構成できましたし,今後の参加者の動向も楽しみです。3)については,NHKの番組「ダーウィンが来た!」をみて動物学の世界に入った研究者は少なからずいるだろう,という想定に発しています。NHKエンタープライズ/NHKから20名ものプロフェッショナルな番組スタッフに参画して頂き,動物学における様々なシーンを可視化するための相談・交流の場「ダ―ウインが動物学会に来ちゃった!」を設けました。さらに2回の講演で番組づくりのエピソードが披露されました。後日,NHKの方々からは,「我々にとっても本当に貴重な経験になりました。直にダーウィンのファンの方々にお会いできて感動しました。よろず相談所も,予想をはるかに超える先生方の相談がありましたし,二回の講演は放送以外で視聴者の方々との接点を模索している中で,とても大きな成果となりました。今後も番組展開として,他学会への参画やワークショップの計画を検討しております。」というコメントが寄せられております。4)は大会開催費用の一助とするための試みです。既に他学会で実施例は多いのですが,やり方によっては研究者にとっても企業からの情報獲得というメリットもある,ということで実施に踏み切りました。5)は,発表会場毎の発表者のPC接続切り替えの利便と,感染症対策を考えた結果です。また,対面開催が出来なくなった場合は,オンライン開催への転換を前提に採用しました。必要とする20件程のZoomアカウントは,早稲田大学より提供されました。一部の方に混乱は発生しましたが,幸いにも多くの発表者は既にリモート発表ツールに慣れており,予想以上にスムーズに進行できました。また,種々の事情で遠隔地からの発表を余儀なくされた発表者への対応が可能になりました。以上の1)~5)以外にもいろいろな試みを施しましたが,大会後のアンケートを拝見しますと,いずれも皆様のご理解を得て受け入れられたようです。
このようにして,多少でもリスクを抱えながらパンデミックの最中に対面開催に踏み切ったことや,充実しつつあるオンライン形式の導入という選択肢を捨てて対面開催を敢行したことは正しかったのでしょうか? この大会後記はもっと早くにお届けすべきでしたが,早稲田大会後に一息入れて,複数の基礎科学系,臨床医学系の大会に参加しながら,この問いに対する答えを探りました。やはり,皆様に東京まで足を運んで本大会に参加,再会して頂き,本当に良かった,というのが私の結論です。
ここ数年間の年次大会は波乱の連続でした。大会アナウンスでも記したように,2018年の第89回札幌大会は,北海道胆振東部地震によって急遽東京に会場を転じて部分開催に変更となりました。2020年の第91回米子大会は,新型コロナウィルス感染症流行のためにオンラインによる縮小開催となりました。この間,実は早稲田大会は当初米子大会に続く2021年開催の予定で準備を進めていました。ところが「東京オリンピック2020」が2021年開催に延期され,オリンピックと同時期の東京開催を回避する必要もあり,2021年の年次大会として第92回米子大会の再チャレンジが設定されました。しかし新型コロナ感染状況は改善せず,米子市での開催は2年続けて叶わずにオンライン開催になりました。この米子大会準備委員会の工夫とご苦労は,年次大会開催の貴重なノウハウとなって早稲田大会に引き継がれております。2021年の東京開催の延期では,一旦確保した会場をキャンセルし,特別講演をお願いした大隅良典先生にはご登壇まで2年間お待ち頂くなど,様々な混乱がありましたが,2022年開催に転じたこの第93回早稲田大会は,2019年の大阪市立大学で開催された第90回大会以来の“in person”開催となったわけです。
随分ややこしい話を持ち出してしまいましたが,振り返りますと,もし年次大会毎にテーマを掲げるとしたら,米子大会と,次の山形大会の間にある早稲田大会のテーマは,「つ・な・ぐ」が相応しいと思います。不規則開催が続いた結果,140年の歴史をもつ動物学会にとって歴史的「断絶」が発生してもおかしくはありません。いろいろなものを「つ・な・ぐ」ことが大切でした。本大会で,全て口頭対面による一般発表の実現に拘ったのは,博士課程学生でさえ,オンライン発表の経験しかもたない世代が誕生しつつあるからです。また,会場運営を支えてくれた71名の学生スタッフにとっても,座長席,次演者席,マイク係,会場案内といった学会の会場設定に不案内でした。そうしたことが原因でお叱りを頂くことは覚悟しましたが,皆様は温かく見守って下さいました。大会後にアンケートを実施しましたが,300件もの回答があっという間に集ったことから,本大会の評価に寄せる皆様の関心は高い,と受け止めています。ポジティブなコメントだけではなく,ご批判も寄せられております(集計結果は公開の予定)。パンデミックがもたらした学術交流の新しいスタイルを今後どのように活用していくのか,例えばハイブリッド形式やオンデマンド公開などを恒久的に導入することの是非や,動物学会における高校生発表の位置付け等々,いろいろな課題が浮上しております。それらを積み残したまま,山形大会にバトンを渡す私たちですが,様々な不首尾について,どうかご容赦頂ければ幸いです。最後に,早稲田大会開催に際して,ご支援をお寄せ下さった企業,団体,個人の皆様に心から御礼申し上げます。非学会員でありながら本大会に興味をもって参加してくれた皆様,会場を提供してくれた早稲田大学,そして大会運営を支えてくれた実行委員,全てのスタッフの皆様,学会本部の皆様にも厚く御礼申し上げます。実行委員一同,2023年9月に山形大会でお会いすることを楽しみにしております。
以上