2024年6月13日(木)14時より開催された日本動物学会理事会において、Zoological Science編集委員会より、2024年度Zoological Science Award候補論文が推薦された。
審議の結果、日本動物学会理事会は、下記の7論文にZoological Science Awardの授与を決定した。
論文の著者には、賞状と賞金5万円が贈られる。
Zoological Science Award 2024
Development of Genetic Markers for Sex and Individual Identification of the Japanese Giant Flying Squirrel (Petaurista leucogenys) by an Efficient Method Using High-throughput DNA Sequencing
Aki Sugita, Mayumi Shigeta, Moriko Tamura, Hiroyuki Okazaki, Nobuyuki Kutsukake, Yohey Terai
Zoological Science 40 (1): 24-31. https://doi.org/10.2108/zs220045
分野Ecology
本論文は、ムササビについて、性同定・個体識別を可能とする遺伝子マーカーを見いだした研究である。筆者らは雌雄1匹ずつのムササビのゲノム配列を決定し、その配列から雌雄を判定する性染色体上のマーカーと、個体を識別するマイクロサテライトマーカー12座位を選出し、判別用のプライマーセットを開発した。さらに、このプライマーセットが糞を材料としたDNAサンプルでも利用可能であることを検証している。ムササビは、外見では個体識別はおろか性別の判定も難しく、樹上性かつ夜行性であるために継続的な生態観察が困難な動物である。本研究は、効率的かつ非侵襲的な解析に道を開く研究であり、他の哺乳類にも応用可能な手法として高く評価できる。
Gravitactic Swimming of the Planula Larva of the Coral Acropora: Characterization of Straightforward Vertical Swimming
Asuka Takeda-Sakazume, Junko Honjo, Sachia Sasano, Kanae Matsushima, Shoji A. Baba, Yoshihiro Mogami, Masayuki Hatta
Zoological Science 40 (1): 44-52. https://doi.org/10.2108/zs220043
分野Physiology
本論文では、造礁サンゴ・ウスエダミドリイシのプラヌラ幼生が鉛直遊泳を行うことを詳細に報告している。静止水中における動画撮影と遊泳速度の定量的な解析に基づき、プラヌラ幼生が水面と水底の間を鉛直方向に遊泳する能力があることを示した。推進速度は上向き遊泳よりも下向き遊泳の方が有意に大きく、重力運動性制御の関与が示唆された。これらの知見から、プラヌラ幼生は海流に流されるだけでなく、積極的に着底に有利な場所を探すために遊泳している可能性を示し、幼生の分散と加入に新たな知見を与えるものであり、高く評価できる。
Segment-Dependent Gene Expression Profiling of the Cartilaginous Fish Nephron Using Laser Microdissection for Functional Characterization of Nephron at Segment Levels
Takashi Horie, Wataru Takagi, Naotaka Aburatani, Manabu Yamazaki, Mayu Inokuchi, Masaya Tachizawa, Kataaki Okubo, Ritsuko Ohtani-Kaneko, Kotaro Tokunaga, Marty Kwok-Sing Wong, Susumu Hyodo
Zoological Science 40 (2): 91-104. https://doi.org/10.2108/zs220092
分野Physiology
軟骨魚類の腎臓は複雑な4回ループネフロンからなり、尿素の再吸収を含め、海洋環境への適応において極めて重要な役割を果たしている。本論文では、このネフロンの構造と機能を明らかにするため、固定標本からレーザーマイクロダイセクションにより分節毎のサンプルを得るための様々な条件検討が行われた。さらに、得られた3つの分節で遺伝子発現プロファイルを比較した結果、近位尿細管における溶質再吸収機能が新たに見出された。腎機能とその制御機構の解明に向けての進捗に加えて、複雑な構造と機能を持つ他の器官・組織の研究にも応用可能であり、高く評価できる。
Male Guppies Recognize Familiar Conspecific Males by Their Face
Shumpei Sogawa, Rio Fukushima, Will Sowersby, Satoshi Awata, Kento Kawasaka, Masanori Kohda
Zoological Science 40 (2): 168-174. https://doi.org/10.2108/zs220088
分野Behavioral Biology
本論文は、顔と体を入れ替えた画像を提示することで、オスのグッピーが顔見知りのオスと知らないオスを顔で識別していることを示した研究である。これまでもシクリッドなどスズキ目の魚類が顔で個体識別をすることが知られていたが、体の模様に特徴のあるグッピーのオスでも、体ではなく顔で個体識別をしていることを示した点で興味深い。また、様々な体色のオスのグッピーでも、顔に個体差のある白銀色の模様があることも見出した。本研究は、動物の社会関係を考える上で重要な個体識別を、多くの魚類が顔にある模様で行っている可能性を示しており、高く評価できる。
A New Species of Bisexual Milnesium (Eutardigrada: Apochela) Having Aberrant Claws from Innhovde, Dronning Maud Land, East Antarctica
Atsushi C. Suzuki, Kenta Sugiura, Megumu Tsujimoto, Ryosuke Nakai, Sandra J. McInnes, Hiroshi Kagoshima, Satoshi Imura
Zoological Science 40 (3): 246-261. https://doi.org/10.2108/zs220085
分野Taxonomy
南極昭和基地から約120 km離れたインホブデより得られたオニクマムシ類を、丹念な形態観察と分子系統解析の結果により、新種として記載した研究成果である。本種の特徴に当てはまるオニクマムシ類は、既に第5次南極地域観測隊(1960-1962年)の調査において見いだされていたが、60年以上経ってその分類学的地位が確定した。著者らは、オス個体の発見ならびにメス個体の飼育観察結果から、本種が有性生殖すると推定し、オニクマムシ類における繁殖様式の進化史についても議論した。南極地域観測隊による成果が本誌に掲載された点でも意義深く、高く評価できる。
Wnt4a Is Indispensable for Genital Duct Elongation but Not for Gonadal Sex Differentiation in the Medaka, Oryzias latipes
Akira Kanamori, Ryota Kitani, Atsuko Oota, Koudai Hirano, Taijun Myosho, Tohru Kobayashi, Kouichi Kawamura, Naoyuki Kato, Satoshi Ansai, Masato Kinoshita
Zoological Science 40 (5): 348-359. https://doi.org/10.2108/zs230050
分野 Developmental Biology
本論文は、メダカの Wnt4a が生殖管の後方への伸長に必須であること、その一方で、 Wnt4a および Wnt4b は性分化に不可欠ではないことを明らかにしている。これらの発見は、魚類の生殖管がミュラー管と共通の分子的背景を備えて発生していることを示唆しており、生殖器官の進化のメカニズムの理解に重要な貢献として、高く評価できる。
In Vitro Phagocytosis of Different Dinoflagellate Species by Coral Cells
Kaz Kawamura, Eiichi Shoguchi, Koki Nishitsuji, Satoko Sekida, Haruhi Narisoko, Hongwei Zhao, Yang Shu, Pengcheng Fu, Hiroshi Yamashita, Shigeki Fujiwara, Noriyuki Satoh
Zoological Science 40 (6): 444-454. https://doi.org/10.2108/zs230045
分野 Diversity and Evolution
サンゴと渦鞭毛藻の共生は、動物細胞が単細胞藻類を取り込むことで光合成能を獲得するというユニークなシステムである。この共生プロセスに関わるメカニズムを明らかににするため、著者らが確立した培養系でウスエダミドリイシの細胞による食作用を調べたところ、Symbiodiniumと Breviolumという特定の褐虫藻種を好んで取り込むことが明らかとなった。幼生による取り込みと同様の結果であり、サンゴは個別の細胞に解離しても褐虫藻の嗜好性を発揮し、特異的に取り込む能力を有することを明らかにした。サンゴの共生の進化を理解する上で重要な成果であり、高く評価できる。
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