6月2日北海道大学東京オフィスで開催されました理事会におきまして、学会賞等選考委員会による厳正な審査のもと、各賞の候補者が理事会に推薦されました。日本動物学会理事会は、審議を行った結果、平成30年度日本動物学会の各賞について、下記のようにその授与を決定しました
日本動物学会
平成30年度 日本動物学会学会賞 2件
田村 宏治 (たむら こうじ) 東北大学大学院生命科学研究科・教授
「脊椎動物付属肢の発生・再生・進化の研究」
授賞理由
田村宏治会員は、ニワトリやアフリカツメガエルなどの胚を材料に四肢の発生、再生、進化についてのきわめてユニークな研究を進めてきた。四肢の発生についての研究では、前後軸パターン形成について重要な成果をあげている。レチノイン酸の作用機序を示し、shh がどのように肢芽の後端部の限定された領域で発現するのかについて明らかにした。そして、「全ての脊椎動物は、体幹側方と背側正中に付属肢を形成する潜在能力を持つ」という仮説を打ち出している。また、再生研究では、なぜアフリカツメガエルは成体になると肢の再生ができなくなってしまうのかの原因を探ることを通して、形態的にも機能的にも完全な肢を再生するために必要な能力とは何かを明らかにすることに挑戦してきた。さらに、四肢の多様性の研究では、鳥類の翼にある3本の指が、一般的な5本の指のうち、第1、2,3指のアイデンティティーをもっていることを示した。近年では、鳥特異的な遺伝子発現制御領域を同定し、鳥類の前肢に風切羽が形成されるようになった進化のシナリオを提唱した。このように脊椎動物の四肢に関する多岐にわたる研究により、動物学の発展に多大な貢献をした田村会員の功績は、日本動物学会賞を授与するにふさわしい。
佐藤 ゆたか (さとう ゆたか) 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・准教授
「ゲノムを基盤としたホヤ胚発生における遺伝子調節ネットワークの研究」
授賞理由
佐藤ゆたか会員は、脊索動物に属するカタユウレイボヤの胚発生における遺伝子調節ネットワークの網羅的解明を行った。ホヤのゲノムは、動物としては7番目の極めて早い時期に解読され 、それに大きく貢献すると共に、その後のリファインメントやデータベースの維持に尽力した。また、氏は転写因子とシグナリング分子をリストアップし、それらをすべて解析することによりホヤ初期胚における遺伝子調節ネットワークをゲノムワイドに明らかにすることに世界に先駆けて成功した。これは、その網羅性と細胞単位で解析するという独創性及び先駆性が高く評価されている。また、個別の遺伝子機能解析でも、幅広い分野への広がりを示す業績をあげている。ゲノム上での遺伝子の並び方が進化過程でどのような理由により維持されているかの理解を大きく進歩させる成果をあげたり、外胚葉運命決定機構や卵内母性因子が受精後の遺伝子発現パターンを作り出すメカニズムについても重要な知見を明らかにしてきた。このように、初期発生における遺伝子発現調節ネットワークシステムの全体像とその構造解析研究をリードし、発生学分野の進展に多大な貢献をした佐藤会員の功績は、日本動物学会賞を授与するにふさわしい。